エルフさんと一般常識3
実習も終わりマッタリと教室でダルっている俺の所にソレは唐突に来た。
「あなたが宮城浩司達のリーダー?」
唐突にそんな事を言ってきたのは金髪、ツインテール、勝ち気な目、それに尖った耳というTHE異世界の代表と言っても過言ではない存在エルフ!
異世界に来て結構経ったけどエルフをまともに傍で見たのは初めてであった俺はその存在の神秘性にヤられ少し見とれてしまった。
「ちょっと何か言いなさいよ」
「は!いや、本日はお日柄も良く」
急に現実に思考が戻った為か意味の分からない返しをしてしまった少し恥ずかしい。
「は?何を言ってるの?そんな事より質問に答えなさいよ。あなたが宮城浩司達のリーダーなの?」
俺の恥ずかしい反応を無視されて少し悲しいがリーダー?何の話だ?疑問に思ったのでその辺りの説明を彼女に求める事に
「ええっと、何の話でしょうか?」
少し言葉が足りなかったと自覚したのか改めて彼女は説明をしてくれた。
「今回の野外実習を成功させたグループは全クラスで2つしかなかったのよ。宮城浩司達のグループと3組に1グループ」
この時点で少し話が見えてきたぞ。
「最初は宮城浩司に話を聞きに行ったのよ。どうやって失敗を前提とした実習を成功させたのかを」
この後の展開がうっすらと予想できる。
あいつ等、面倒事を俺に押し付けやがったな!
「そうしたらあなたの事を聞かされたわ。次に3組のグループリーダーに話を聞きに行ったの、確かルナという獣人ね。彼女もあなたのおかげだと言ってきたわ」
ルナ!?君までもが俺を売り渡したのか!バッと教室を見渡すと発見、ジェスチャーでごめんねってしてる。
可愛い
「成功させたグループ両方があなたの名前を出してきたのよ」
この後はあれか?どちらが上かみたいに勝負に発展してから友情やら何やらが生まれる展開?
「だから!」
そういうのは第三者として見ているから楽しいんであって実際に巻き込まれるのはマジで遠慮したいんだけど
「お願い!どういう心構えが必要か、どうすればそういう思考に至れるかとかを私に教えて」
........ん?どういう事?勝負は?因縁は?発展は?
俺の呆けた顔を見てまだ説明が足りないと勘違いしたのかエルフさんはさらに説明を続ける
「私は今回の野外実習で世界というのは善意だけで出来ているわけではない事を学んだの。幸い私の周りには善意が溢れていただけで世界には悪意もまた存在すると」
このエルフさん何かを語りだしたぞ。
っていうかルナ達もそうだったが悪意に鈍感すぎないか?どんだけ優しい人達に囲まれてんだよ。
いや?そういえばこの世界に来てから最初に会ったヘンリーさんも誠実な人だったな。
何?この世界は優しい世界だったのか?
「今回は練習だからただの失敗で済んだ。しかしこれがもし大切な人の命を救う為の薬草採取だったとしたら?『失敗=大切な人の死』に繋がってしまうかもしれない」
俺の中の性悪説がぐらぐらと揺れているのを無視してエルフさんは頭を下げつつ俺にお願いをしてくる
「だからお願い!何でも良いの私に教えて。出来なかった、失敗したなんて起こらないように」
何でも良い!私に教えて!ちょっとだけエロワードを連想させる言葉を聞いて俺の思考は現実に戻ってくる事が出来た。
しかしこのエルフさん気が強そうなのはテンプレだが普通に良い人だな。
しかも頭を下げて相手に教えを願うなんて中々出来る事じゃないぞ。
だからだろうか俺の口からスルリとこんなセリフが出てきた。
「お尻を触らしてくれるならOK」
時が止まった気がする。
ヤベェ、俺はいつの間にか時空魔法を習得していたようだな。
ふっと気が付くと目の前のエルフさんがプルプルと震え始めているではないか。
ああ、甘んじて受けよう!空気を読まずに下ネタに走った代償をこの身に!
俺は自身が招いてしまった現状からは逃げないぞ!さあ!やれ!
俺が覚悟を決めて待っているとエルフさんは真っ赤な顔をして目をぎゅっと閉じながら
「ど、どうぞ」
と言い後ろを向いた。
...........................マジかよ
殴られるよりキツイ、教室にいる皆が俺の事を汚ないものでも見るような目で見てくる。
その後エルフさんに冗談だと説明するのにかなりの時間を要する事になる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「は~い、第三回常識講座です。早速ですが面倒なので何か質問して下さい」
開始早々やる気もなくぶっちゃけたシーラさん、まぁサービス残業だもんな。
しかし質問か、いざ質問してくれと言われても困るものがあるよな。俺が質問について悩んでいると
「はい!」
と元気良く手を上げる男ロキ
「はい、ロキさん質問どうぞ」
「はい!そもそも冒険者ってなんすか?」
こいつは何を言っているんだ?その質問に驚きを隠せない俺達
「え?ロキさん達は見習い冒険者ですよね?それでその質問ですか?」
シーラさんの反応にも納得だ、頭痛を押さえながら浩司が説明を始める
「ハァ、前にも言った記憶があるが魔物を駆除したり住民の生活へのフォローなど.........」
「いやいや、さすがに俺だってそれは分かってはいるよ。そうじゃなくてさ、この世界における冒険者の立ち位置みたいなものを聞きたいわけ、全体的な感じでは公務員みたいなのにやっている事は雑用や何でも屋だよ?資質を見たり学校へ行ったりしてまでやる仕事?」
ん?確かにそういう意味じゃ育成に時間を掛けすぎている感じがするな。
どういう事なのかシーラさんの方を向き答えをお願いする。
「ああ、なるほど そういう意味ですか。う~ん、なら冒険者について最初から話した方が良いですね」
※少し長いので適当にまとめてお届けします。
まだ異世界人というのが珍しい頃の冒険者とはゴロツキやチンピラ、職にあぶれた人がなる職業でまさに俺のイメージの冒険者(何でも屋)だったらしい。
異世界人の流入が増えるにつれて少しずつ制度が整えられていくと冒険者の仕事が激減する事に、それと同時に出てくる冒険者による問題行動
それを解決、管理するために冒険者ギルドが設立、ゴロツキ達には外敵、町の雑用やフォローには教育された職員と住み分けがなされる
この制度が世界中に浸透していくにつれて表れる地域毎 の冒険者の質問題、これに対し冒険者の質を一定基準にするため試験を導入
今度は合格基準に到達する冒険者が激減、冒険者ギルドは慢性的な人不足となる、さらに冒険者の職にあぶれた者達が野盗、盗賊となり治安が悪化する事に
ならばと冒険者試験の簡略化や免除へ、それによりまた冒険者の質問題が再浮上、以下何回かこれをループする事に
調整を繰り返した結果、現在のシステムの雛型とも言える学校制度が作られる。
当時の学校は教育施設だが人々の間では収容所や矯正施設と恐れられていたとか
学校制度により今度は成績による階級が出来る。(住み分けがなくなったのはこの時から)
「ざっと冒険者の歴史を話すとこんな感じかな。近代史はごちゃごちゃしてくるから省略するよ、気になるなら自分で調べてね」
とシーラさんが近代までの冒険者史を語ってくれた。
「で、近代史のごちゃごちゃしてる部分でギルドや役所が統廃合して今の形態になったの、だから今の冒険者の立ち位置はざっくり言うと国営の何でも屋ね」
「ん?じゃあ資質とかを見たりするのは近代になってからの習慣とかそういうの?」
「うん、昔の冒険者と違って今の冒険者は権利がすごいからね。まぁ仮冒険者までならチンピラでもアホでもなれるから最初の資質調査なんかは入学金稼ぎと町の労働力問題を解決するための政策なんだけど」
「あれ?冒険者ってそんなに権利がすごかったっけ?」
またしてもロキの発言が俺達の間に木霊する。
「それも知らないんですか!?」
シーラさんは驚きの声をあげた、そんなに一般的なのかな?
あ~、そういえば俺も冒険者の権利なんて特に気にしてなかったな。
第一に冒険者を目指したのだってヘンリーさんに元の世界に戻る方法を聞いた時に、取れるなら冒険者の資格を取った方が探すのに有利だと教えてもらったからだし。
「ん~~~、...........良し!」
その時、何かを考えていたシーラさんが手をポンと叩いた。
「皆さん!今日はここまでにしましょう!」
あ、この感じは前と同じ様な感じだぞ
「今日は色々な事を覚えて皆さん大変だったでしょう?」
「いや、特には...」
「うん!そうですよ!それが良い!続きは次回にしましょう」
うわ、シーラさん必死だよ。よっぽどメンドイんだろうな。
俺は皆に目配せしてコクリ
「ええ、今日は少し疲れたので続きは次回にしましょう」
それを聞いたシーラさんは輝くような笑顔を俺達に向けてくるのだった。
前へ、少しずつ進むんだ