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初実習4

今回は時間がかかった。

実習4日目(最終日)


「うん、良い出来だ」


 俺は出来上がったビーフシチューの味を確かめながらポツリと呟いた。


「あ、出来たの?」


 3人でおしゃべりをしていたはずのミャールが耳ざとく俺の呟きを聞き付けて近付いて来た。


「うわ~、美味しそう!早く食べようよ」


鍋の中を見ながら歓声を上げるミャール


「ちょっとミャール、お行儀がわるいよ」


「そうですよ。でも本当に美味しそうな良い匂い」


 他の2人もまたおしゃべりを中断してこっちに歩いて来ていた。

あんな事を言っている2人だが、フフフ体は正直だぜ。

ルナは鼻をヒクヒクさせて尻尾に至ってはブンブンと振れている。

リーザもまた尻尾が嬉しそうに動いているのが見てとれる。

流石は浩司印のビーフシチュー威力は抜群だ!3人の乙女の胃袋をガッチリキャッチ!


 とこんなに和やかなムードの俺達だが実はまだ実習中だ。

とはいっても既に俺達がいる場所は実習のゴール地点、昨日のうちに薬草採取を終えた俺達は4日目の今日朝一に出発、かなりの時間を残してゴール地点に到着という運びだ。


「初日はどうなる事かと思ったけど終わってみれば余裕だったね!」


とビーフシチューを食べながら上機嫌のミャール、初日の慌てっぷりが嘘のようだ。


「ミャール!まだ実習は終わってないんだからね。気を抜きすぎたよ。それに食べながら話さない!」


「そうですよ。担当者に薬草を渡して初めて終了なんですからね」


と2人がミャールに注意をしてるが、そんな2人も随分とリラックスしている感じがする。

 まあ3人共、初日から気を張っていたからな。

しょうがない、しょうがない。

そんな風に3人を微笑ましく見ているとルナが俺にチラリと視線を向けてきた


「でも、今回の実習が上手く行ったのはフミヤのおかげだよ。ボク達だけじゃ初日で躓いたまま何も採取出来ずに今日を迎えていたと思うんだ」


というルナの言葉に他の2人も頷きながら


「そうですね。私達だけでは失敗していたと思います」


「っていうか私なんかは初日にフミヤに八つ当たりなんかして足を引っ張っちゃってるし」


と言葉を重ねてくる。


 その後3人はそれぞれ俺を誉めてくる、何だよ急にホメ殺しか?女の子にホメられる状況自体があまりないから俺ってば3人に惚れちゃうよ?しかしここはカッコ良く決めないとな


「惚れちゃうよ?」


オイ!思った事をそのまま声に出してしまった。

何やってんのオレ?

 それを聞き3人はキョトンという感じの顔をした後、示し合わせたかのようにニヤッと笑うと


「フフッボクに?それとも」


「私に?それとも」


「私ですか?」


 ほら!やっぱりイジられる。

っていうか素晴らしい連携だな!一瞬でノッて来たぞ。

等と話していると草を踏みしめる音が聞こえてきた。

 俺は太陽の位置を確認した。

ん?おかしいな早すぎる、終了の時間までかなり余裕があるぞ

俺は疑問に思いながら足音の主が現れるのを待った。





「驚いたよ。こんなに早く到着しているなんて君達は優秀なチームなんだね」


 姿を表したのは行きとは違う人だった。

確かあの人は他のチームを担当していた人だった気がする。

そんな人が何故この場に?そんな俺達の疑問を余所に彼は話を続ける


「早速だけど今回の実習目的である薬草を回収させて貰おうかな」



「あ、あの!行きの時の担当者はどうしたんですか?」


 全員の気にしていた部分をルナが代表して質問した。


「ああ、ゴメンゴメン説明がまだだったね。君達の担当者なんだけど他に急な仕事が入って来れなくなってしまったんだ。だから1番近い場所のチームを担当している俺に白羽の矢が当たったという訳さ。早い時間帯に来たのはこれから俺が担当しているチームの収集にも行かなきゃいけないからだよ」


 うわ、マジで怪しい。

ルナ達も同じ事を思ったようでどうすれば良い?といった様子で目配せをしてきた。

 それを受けた俺は担当者ににこやかな笑顔を向けながら話しかけた


「そうですか、お疲れ様です。じゃあ早速採取した薬草の確認をお願いします。ほらルナ渡してあげて」


 俺のこの言葉にルナは『本当に良いの?』という表情を向けてきたが無視をして薬草を渡すように促した。





 

「うん!確かに全部揃っているね。お疲れ様!」


彼は薬草の確認を終え、俺達に労いの言葉をかけてくると用は終わったとばかりに踵を返した。


「それじゃあ、俺はこれから自分の担当チームの方に行くよ。君達は早く町に戻りな」


と言って彼は慌ただしく森の方に消えていった。

 しばらく待ち彼が行ったであろう事を確認した後にルナが


「フミヤ、本当に渡して大丈夫だったのかな?どう考えても変だったよ」


 他の2人も同じ気持ちらしく、どこか不安そうに俺を見ている。

 うん、うん、自然に物事を疑う事が出来るようになっているな。

実習前の3人なら特に疑う事をせずに渡して終了だったであろう事を考えると確かな成長を感じる。


「フミヤ?」


 おっと少し感じ入ってしまっていたな反省反省


「ああ、もちろん駄目だったよ」


「「「え!?」」」


3人の声がキレイに重なった。

いや~、この3人良いリアクションをするな


「っていうか、最初に言っただろ?今回の実習は俺達を失敗させる目的で動いているって。だから渡しても渡さなくても同じ結果になるんだよ」


「「「?」」」


またしても3人のリアクションが重なった。

可愛いな、コイツら


「まあ、まだ時間もあるし説明しようか」




    まずさっきのように渡した場合

          ↓

 代理だという話をウソとして行きと同じ俺達のチームの担当者に薬草を渡す事が出来ずに失敗



     次にさっき渡さなかった場合

          ↓

 代理だという話を本当の事として担当者に薬草を渡す事が出来ずに失敗



 だから結局はどっちの行動を取っても俺達は失敗するという訳だ。

とこの説明にリーザから質問が入った


「半分ずつにして渡すという方法はダメだったんですか?」


 お!良いとこに気が付くな。

だけどその方法は使えなかったと思う。

 おそらくだがギルド側には俺達の行動をある程度把握されていたんじゃないかと思うんだ。

行動の把握って事はもちろん薬草の収集量もおおよそ分かっていたんだと思う。

その事を伝えると


「フミヤさんがそう思うのでしたらそうなんでしょうが、一応根拠も聞かせて下さい」


との事、

 根拠は3つ


1、他のチームの担当をしている人が俺達の所に来た事


2、薬草の確認をしたけど量の確認をしなかった事


3、最後に俺達に実習終了を伝えなかった事


と3つの根拠を話した


「誰が来てもかわらないんじゃないかな?」


「量の確認ってする?」


「実習の終了は言われませんでした?」


 いやいや良く考えれば変だろう。


 まずは1つ目だが普通は来ないよ他のチームの担当者なんて、ゴール地点に先に着いてなきゃいけない人間が他のチームの面倒を見るって有り得ないでしょ。

多分だけど終了時刻よりも早く来るための理由作りが目的じゃないかな?


 2つ目は半分ずつ渡されるという可能性を潰すために普通はやる事だろ?なのに確認がない、となるとあっちが薬草量を把握していた証拠だよ。

半分ずつ渡していた場合、もっともらしい理由でもう半分も持ってかれてたと思うし。


 3つ目は代理とはいえ担当だよ。お疲れ様ではなく実習の終了を宣言するだろうし、それと普通は俺達を森に置いていかないよ。

行きは引率したのに帰りはなしなんてことはないだろ?


 根拠を説明しながら太陽の位置を確認、お?そろそろか。

3人に説明している間に良い時間になったようだ。

 その時タイミング良く先程と同じ様に草を踏みしめる音が俺の耳に聞こえてきた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 やって来たのは今度こそ俺達の担当者だった。

担当者は俺と目が合うと苦笑いを浮かべた。

どうやら俺の話を聞いていたのかもしれない。


「さて早速で悪いけど採取した薬草を渡してくれるかな?」


 困った様な表情をしながら俺達にそう話しかけてきた。

多分自分でも今のセリフが白々しいと思っているのだろう。


さて対するは不満げな顔をしている3人(リーザの表情は分からないが雰囲気で)おっと早速ルナが動いた!


「採取した薬草は先程代理の方に渡しましたけど」


いつものルナと違いかなり冷たい感じだ。

さぁ!これにどう答える?担当者!


「残念だけど、そんな話は聞いていないからなぁ」


おおっと、白々しい!白々しいぞ!先程俺に見せた苦笑いがウソのような態度をとって来たぞ!どうするルナ~


「代理の方は他のチームの担当だと言っていました。調べてもらえればすぐにでも分かる筈です」


「う~ん、だけど、()()()()で受け渡しが出来なければ意味がないからね」


 暖簾に腕押しである。やはり駄目なのかとルナは悔しそうな表情を浮かべている。

その時黙って見ていたミャールの感情が限界を迎えた。


「ズルい!ズルいよ!私達はちゃんと採取したのに!地図はデタラメ、橋は落ちてる、代理はウソだし、そんなのばっかじゃん!ズルいよ!」


ミャールの叫びが木霊した。


「ミャール.........」


 まあ気持ちは分からなくもないがな、だけど俺としてはミャールの意見は甘えだと思う。

っていうか失敗させるのが目的だってちゃんと教えたじゃん!

どうやらミャールは精神的にまだまだ子供なのかもしれないなと俺が内心で思っている時に担当者がおもむろに口を開いた


「........確かにズルいよね、でも世の中にはそんなズルいが蔓延っているんだよ。それに覚えておいて『頑張りました』が通用するのは子供のうちだけなんだ。大人はどんな状況、どんな環境、どんな状態でも求められるのは結果なんだ」


 担当者の静かで重い言葉にミャールは黙ってしまった

他の2人も静かに担当者の話を聞いている


「君達も薄々感づいているんだろうけど、今回の実習の目的は失敗を経験させようというのがコンセプトになっている。ズルい、汚い、卑怯、言いたい事はあるだろうけど成功させられなければ意味がないという事を学んで欲しかったんだ」


 空気が一気にシリアスモードになってしまった。

うわ、俺ってばこういうシリアスな雰囲気って苦手なんだよな。という訳で俺はさっさとこの空気を壊す事にした


「なかなかタメになる話をありがとうございました。ところでさっさと薬草の確認をしてくれませんか?」


と俺は皆が話している間にカバンから取り出した薬草の入った袋を担当者に向かって放り投げた。


「「「「え」」」」


4人の声が重なった。

今日これ多くない?流行ってんのかな?



 袋の中を確認した担当は「そんなバカな」とか「採取はしてなかったぞ」等とブツブツ言っていたが、まあ無視で良いだろ。

それよりも何で?って顔をしている3人に話してあげる方が先だ。


「フミヤ、これ何で?」


説明するより先に何で?と言われてしまった。

先手を取られた、やるなルナ。


「決まってるじゃん。実習が始まる前に薬局で買ったから」


と言う俺の言葉に担当を含めた皆の顔が(゜ロ゜)になった。

おお、人の顔が顔文字みたいに、初めて見たがなるんだなと妙なところで感心をしている俺に


「いやいや、それはズルでしょ!」


と突っ込みを入れてくるルナ

真面目だな~と思いながらルナに聞き返す


「何で?」


「何で?って薬草を採取する実習なんだよ?」


「いや、したじゃん。採取」


「したじゃんって、()()()()()()を渡さないと意味ないじゃん!」


「違うよルナ。あくまで()()()()()()()であり、渡す薬草は採取した薬草じゃなきゃダメだとは言われてない」


「そんな屁理屈」


「屁理屈でも理屈だよ。担当さん、これで実習は成功でしょ?」


「う~ん、でも、なぁ」


俺の問いかけに担当者は悩む様子を見せる


「さっき自分でも言ってたでしょ?今、この場で受け渡しが出来なければ意味がないと。俺は今、この場で薬草を担当さんに渡しましたよ」


「いや、しかしだな」


尚も渋る担当者に正直面倒だなと思いながら俺は言葉を続けた


「大人は結果ありきなんでしょ?少なくとも俺は結果を出しています。それに禁止されてない方法で薬草を調達したんですから問題はないでしょ?大体やって欲しくない行動なら事前に禁止しないと、ルールの隙を突かれたから卑怯だなんてセリフ他では通用しないですよ」


「う....」


言葉を詰まらせる担当者、もう一息だな。


「今回の実習において地図、橋は良いとして最後の代理だけはいただけないですよ。失敗させる事が目的とはいえ、後から考えて失敗を回避する方法が存在しない学習なんて不満しか残りませんよ?そう考えると成功者がいた方がギルド側としても都合が良いんじゃないですか?」


 まあ、世の中の不条理を教える授業なんだから成功者がいなくても別に問題はないんだろうがな。

だけど、俺はチラリと後ろにいる3人の事を見た。

やっぱり初めての実習なんだから成功させてやりたいよな。


 そんな事を考えている間に答えが出たのだろう黙って考えていた担当者が苦笑しながら口を開いた。


「ふぅ、確かに君の言う通りだ。世の中のズルさを教えるつもりだったのが逆に教えられるとはな」


その言葉を聞いた瞬間、3人の表情が輝く


「実習達成おめでとう。おそらくだが今回の実習を成功させたチームは君達だけなんじゃないかな」


 担当者のその言葉を聞き3人は全身で喜びを表している。

こういう姿を見るとやはり失敗させるよりも成功させてあげたいと思ってしまうな。 


 一段落した為かフッと思い出した。

 そういえばあいつ等の方はどうなったかな?俺は他のクラスにいる友人達の事を思い出すのだった。




ー同時刻、別の実習地にて


「ハァ、いやまあ失敗を前提とした実習を成功させる方も凄いんだが、それよりも4日でどうやったらこんなに薬草を採取出来るんだ?」


積み上げられた薬草を前に担当は呆れた様子でそれを眺めていた。


「いや、5人で手分けして探した結果こうなりまして」


本人にも理解できない謎の居心地の悪さを感じながら浩司は担当者に説明する。


「手分けって1つ、2つの群生地じゃ無理な量だろコレ、どんな速度で採取して行ったんだよ」


納得のできない担当者はジト目を浩司に向けた。


「いえ、本当に手分けして探しただけですよ」


暫く浩司にジト目を向けていた担当者だったが浩司がそれ以上説明する気がないのをみるとため息を吐いた。


「まあ方法はどうあれ現に薬草はこうやって提出されている訳だから文句はないんだけどな」


 実のところ浩司は別にウソをついている訳でも隠している訳でもなくただ事実を口にしているだけだった。


 浩司達は担当者に説明した通り手分けして薬草を探しただけである、だだしスタート直後に()()()()()()薬草を探し4日目の本日ゴール地点にて合流したというだけで


(まさか全員が薬草を採取する事に成功するとは思わなかったんだよな)


 そう浩司達はフミヤから事前に実習についての注意を受けて考えた結果『数打ちゃ当たる』作戦に乗り出したのだ。

その結果まさかの大成功、偽りの担当者に薬草を渡しても全く問題ない量の薬草を採取し今に至るのである。


(絶対に誰かしら採取出来ない奴が出ると思っていたんだけど)


と自分が作った食事を食べている4人(主にロキ)を見ながら思う


(ま、良いか。これでフミヤに良い報告が出来そうだな)


と口元に笑みを浮かべて今は傍にいない幼なじみを思う浩司だった。


肩の腱が切れた為に時間がかかった。何だよ?肩の腱が切れるってあまり聞かないぞ。

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