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『孤独な人形』 西園寺理玖

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西園寺(さいおんじ) 理玖(りく)

西園寺財閥のご子息。

西園寺財閥の後継者として厳しい教育を受け、両親とは一年に一回顔を合わせるか合わせないかという環境で育ったため、他人への甘え方を知らない。

中学までに何人か信頼できる友人を作ったが、そのどれもが西園寺財閥とのつながり目当てであり、裏切られており、人間不信となった。

結果、『孤独の人形』と称されている。

ヒロインは一般家庭の女の子で、アルバイター。怖いもの知らずで、正義感が強い。理玖とはホテルのレストランでアルバイトしているときに出会った。




 人は誰だって孤独なもんだろ。

 他人が自分の人生の責任を取ってくれるわけでもあるまいし。

 所詮、他人は他人。

 慣れあったところで、意味なんてない。

 孤独がかわいそうなんて、そんなことを言うやつは幸せボケしたバカだろ。

 裏切りも、別れも、何も知らない奴だけだ。


 ――そう、思っていたのに。


「……まだそばにいろ」

 俺の口から、そんな言葉が出るなんて。

 お前の腕をつかんで引き留めて、勢いのまま抱きしめるなんて。

 お前以上に俺がびっくりしてる。

「どうしたの? ……らしくない」

「うるさい、黙ってろ。……んなこと、お前に言われなくても俺が一番わかってる」

 一人になりたくない。

 だからといって、こいつ以外の誰かにそばにいてほしいわけでもなくて。

「寂しいわけじゃない」

「……」

「笑ってんじゃねーよ。犯すぞ」

「やっだぁ、物騒だなぁ」

 危機感なんて微塵もない。

 このまま押し倒して、どうにだってできるのに。

 まるで「君にはそんなことできないでしょ」なんて言いそうなくらい余裕満々の顔で。

「……お前は、俺じゃないやつにもこんなふうに抱きしめられたりすんのかよ」

 もし頷かれたら――。そんなことを聞いた後で考えた。

 嫌だ、ってすぐに答えは出たけど。

 認めたくないから否定した。

「じゃあ君は、私以外を抱きしめる?」

「こっちが聞いてんだろ」

「聞くときは自分が先に答えを示すべきだよ。自己紹介と一緒」

「……屁理屈女」

 そんな言葉を吐いても、のんきに笑ってる。

 その笑顔が好きだ、なんて素直に思ってしまう俺もたいがいなわけで。

「……お前以外、いらねーよ」

 本当に、らしくなさすぎて笑える。

 虫唾が走りそうなセリフを吐いて、もうやけくそだった。

「だから他のやつに触らせたりすんな」

 離したくなくて、もっと強く抱きしめたら、こいつは「苦しいよ」なんて言って困り顔で笑った。

「私なんかを抱きしめるのは君くらいだよ」

「じゃあ抱きしめるやつが現れたらどうすんだよ」

「君はどうする?」

「そろそろお前も答えろよ」

 こっちばかり白状させられてる気がして。いや、気のせいなんかじゃなくて本当で。

 こいつの口車に乗せられてる。それも悪い気がしてない自分も確かにいるけど。

 いい加減、本音が聞きたい気持ちもあるから。

「他の人に抱きしめられるのは嫌だよ。だって私は君の腕の中が好きだもん」

 聞いたのがバカだった、なんて気づいたときには遅くて。

 抱きしめた腕を解くことなんかできなくなった。

 好きな気持ちが止まらなくて、泣きそうなくらい好きで好きでたまらない。

「物好きすぎだろ」

「その物好きを好きな君は、もっと物好きじゃない?」

 俺の想いなんて当然分かっていて、いつだって余裕そうなその顔が少しくらい俺で焦りを帯びるのが見たい。

 でも困らせて壊したくもなくて。

『孤独な人形』――そう揶揄された俺を救い出したこいつを失えば。

 俺はまた『孤独な人形』に後戻り。戻ることすらできないかもしれない。

 こんなにも、もうお前は俺のすべてなんだって、どうしたら伝わるんだろうって。

「理玖くん、あったかいね」

 この温もりを教えたのはお前だから、責任取って最後まで俺にこの温もりを抱きしめさせてって。

 女々しい感情が溢れて消えない。

「……好きだ」

 こんな言葉じゃ想いの1ミリも伝えられた気がしないけど。

 俺の知ってる言葉じゃこれが限界なのが悔しくて、こんな感情もお前がいなかったら知らずに済んだのに。

 この感情を愛おしく思わずにはいられなくて。

 お前に出会えたことを喜ぶことしかできない。

 ある意味で、お前の世界に俺は『孤独』に閉じこもってるのかもなって。

 意味不明だな、やっぱり。たぶん、どんなに言葉を尽くしてもこの気持ちは表現できない。

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