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彼女はまさしく傾国の姫  作者: 池中織奈
姫と変化の前触れ
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3.幼馴染の少女たち

 マリアローゼ・フィス・カイザ。

 その名はあまりにも有名であり、その名を知らぬものはこの学園には存在しない。

 学園は、マリアローゼの城であり、マリアローゼの意のままに動き、マリアローゼの王国のようなもの。

 そんな学園で、マリアローゼは悠々と暮らしている。何不自由なく、沢山の人々に傅かれながら。

「マリア、相変わらずさらさらの髪ね!」

 カルド・ヤーングスはそう口にながら、マリアローゼの髪をいじっている。

 この場には幾人もの少女たちが存在する。男子禁制の場で、マリアローゼの幼馴染である少女たちはマリアローゼを囲んでわいわいしていた。

 ちなみに扉の外にはアイゼスとシランが控えていたりする。

「マリア、今度お洋服みましょう? マリアに似合うの選んであげるわ」

 リューリ・ミサはそういってにこにこと微笑んでいる。

「マリア、私もマリアを綺麗に飾り立てたいわ」

 熱っぽい視線をマリアローゼに向けてそう言い放つのは、藍色の髪を腰まで伸ばしたクールな外見の少女だ。マリアローゼよりも一つ年上の彼女の名は、ミーレアン・イクナ。

 皆からミーレと呼ばれている。ちなみにシランの婚約者であり、剣術の腕は女性とは思えないほどである。そのため騎士科に所属している。

「ねーねー、カル姉、私もマリア姉様の髪いじりたい」

 ネル・ヤーングスは、そういって恨めしそうにカルドを見ている。カルドとどこか似ている彼女は、名の通りカルドの一つ下の妹である。教育家に所属している幼さの残る少女だ。

 マリアローゼの幼馴染は、彼女たちといつも傍にいる少年たちを合わせて8人存在する。取り巻きといった意味ではほかにも大勢いるわけだが、幼馴染として特に傍にいるのは8人の少年少女たちである。

「嫌よ。私はマリアの髪いじりたいんだもん」

「もー、カル姉ばっかり、ずるい! 大体カル姉はマリア姉様と学年も学科も一緒じゃんんかー。私はマリア姉様とそんな一緒にいれないのに!」

 そういって文句をいってミネルはむくれる。

「ふふん、一年遅く生まれた自分を恨むのね」

「カルド、大人げないよ? それに私たちのマリアなんだから、独占しちゃだめよ」

 リューリがカルドにそんな風に言い放つ。

 ためらいもせずに「私たちのマリア」と口にして、その顔を嬉しそうに緩ませる。

 彼女たちはマリアローゼ・フィス・カイザのことがどうしようもないほどに大好きだった。男子禁制の場で、同性のみの空間でもマリアローゼが優先させる状況は続く。

「ふふ、喧嘩はしちゃダメよ」

 マリアローゼがそういってほほ笑めば、カルドとネルは「はーい」と元気よく口にした。

「もう、二人とも単純なんだから」

「だってマリアが望むことだもの」

「マリア姉様が嫌がることを私がするわけないじゃない」

 カルドもネルもそう口にする。そういうところは流石姉妹というべきかそっくりである。

「そういえば、転入生の方のことは調べられましたの?」

 ふと、マリアがそう口にする。

 そうすれば四人ともそれぞれ反応を示した。

「もちろんよ、マリア!」

「もちろんです、マリア姉様」

 真っ先に反応を示したのは、カルドとネルの二人である。ほめてほめてとでもいうように、マリアローゼをきらきらした目で見ている。

「流石、仕事がはやいわね」

「だってマリアが気にしていることだもの」

「マリア姉様のために一生懸命頑張りました!」

 マリアローゼの前では尻尾を振る犬のような幻想さえも見える二人であるが、実際のところカルド・ヤーングスとネル・ヤーングスは優秀な少女たちである。マリアローゼの幼馴染として傍に存在することを許されているとはそういうことなのである。

 マリアローゼは、この国で『至高の姫』と呼ばれるお姫様である。そのそばにいる彼女たちにもそれ相当のものが求められるのである。

「転入生の名前は、エンジュ・アンジェという少女ですわ。元々アンジェ伯爵が侍女に手を出して生まれた少女という話よ。珍しいことに、アンジェ伯爵夫人もその侍女を気に入っていて、子供を産むのも認めていたらしいわ。でもその侍女は伯爵夫人に悪いと感じ、子供を身籠ったことがわかると姿をけし、その後、アンジェ伯爵夫妻は侍女と子供を探していたらしいわ」

 リューリが淡々とその『転入生』の情報を口にする。

「珍しいわね、愛人と庶子をかわいがる夫人なんて」

「ええ、珍しいことです。普通、夫が自分の侍女に手を出そうものなら怒り狂うことです。まぁ、それで探し出したときには侍女はもうなくなっており、子供は孤児院にいたのです。それをアンジェ伯爵が引き取った形になりますわ。入学時期がずれているのは孤児院で見つけてからの教育期間が長引いたようですわ」

 補足するようにミーレアンが口を開く。

「それでね、マリア。その娘はとても優秀で、みるみるうちに貴族としての作法を覚えて、これなら学園に入れるだろうってことだったみたいだよ」

「正直、貴族としての作法はそんなに簡単に覚えられるものではないので、どう考えても親のひいき目だと思うの。ただ庶子であったとしても、マリア姉様の学園の生徒になるんだから、いろいろ教えてあげなきゃ」

 カルドとネルもにこにこと報告をする。

 マリアローゼの幼馴染である彼女たちにとってそういう情報収集はお手のもののことであった。

「そう、どちらの学科に入学になるのかしら?」

「マリアと同じだよ」

「まぁ、魔術にも優れているのね? それは楽しみだわ」

 魔術好きなマリアはそう口にする。そうすれば、周りの四人は少し不機嫌な顔をした。

「マリア、転入生のこと楽しみなの?」

「ええ、少しね。学園長のお気に入りのようですし、この学園の新しい生徒ですもの。迎え入れて差し上げますわ」

「マリアが楽しそうなのうれしいけど、私にもかまってね?」

「ふふ、もちろんよ。だってあなたたちは私の大切な幼馴染たちだもの。いくらでもかまってあげるわ」

 その言葉に四人の少女は嬉しそうに笑うのであった。




 マリアローゼの幼馴染の少女たち。

 彼女たちはマリアローゼ・フィス・カイザの手足である。




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