とあるプレイヤーはかく思う。
『VS傾国の姫~王子様を手に入れろ』についての補足。
「はぁ、や、やっとハッピーエンド!!」
テレビ画面の『happyend』の文字を見つめ、やりきったように私は叫んだ。
コントローラーを放り出し、床に手を付ける。そうすれば、ゲームの入れ物に手が当たる。そのパッケージには『VS傾国の姫~王子様を手に入れろ』という文字がでかでかと書かれており、攻略対象の男たちと、このゲームの最大の敵であるマリアローゼ・フィス・カイザのイラストが描かれている。
「こんなに難しいとは思わなかった!」
私は思わず叫ぶ。ずっとやり続けてようやくhappyendを勝ち取る事が出来たこのゲームは、いわゆる乙女ゲームというものである。主人公を操作して、男性攻略キャラを落としていくゲームだ。
しかしこのゲーム難易度が高い。というか、タイトルにだまされた。
タイトルにVS傾国の姫なんてもっともらしい事が書かれているのもあって、傾国の姫であるマリアローゼ様を排除しなければhappyendに繋がらないとプレイヤーは皆思って挑んだ。しかし、彼女を敵に回していたらhappyendになんてたどり着く事は出来ないのである。
絶対にbadendになるのだ。
『マリアの敵に慈悲はいらないよね?』
攻略キャラの婚約者の一人であるカルドちゃんがそんなことを言うエンドはぞっとした。
このゲーム、攻略対象がマリアローゼ様の幼馴染四人と、生徒会四人、隠しキャラでディスターニア帝国の皇太子であるジクサード・シン・ディスターニア様、そしてマリアローゼ様の兄二人の11人である。
ちなみにこのゲームは逆ハーエンドはない。代わりに逆ハーエンドもどきのbadendがある。
「魅了の魔法endはつらい」
そう、マリアローゼ様のネックレスに魅了の魔法がかかっていることをヒロインが暴くendがある。
魅了の魔法が『至高の姫』のネックレスにかかっていると知ったプレイヤーはこれを暴けば逆ハーendが待っていると疑わなかった。
なぜなら魅了の魔法を暴く過程で、幼馴染達と生徒会を傍に侍らすことが出来、彼らが愛をささやいてくれたから。しかし、それは叶わない。
紛れもないbadendが待ち構えている。
何でもマリアローゼ様のネックレスは亡くなったお母様の形見だそうだ。そして、そのお母様は魔力のほとんどない平民の侍女であり、効果のほとんどない魔法しかかけらなれないそうだ。そんなわけで魅了の魔法が解かれても彼女は『至高の姫』であった。
この場合傍に侍っていた幼馴染達は不審な動きでマリアローゼ様と敵対するものへの情報収集で侍っていたと明かされ……というか、幼馴染達のマリアローゼ様への愛が重すぎと思う。
で、どうやってhappyendに向かうかといえば、
「こんなタイトルで仲良くならなきゃって思わないし」
そう、マリアローゼ様と仲良くなる事である。
正確に言えば仲良くなり、認められることだ。マリアローゼ様に認められなければまず攻略が進まない。ちなみにマリアローゼ様と敵対せずに、そのまま放置して進んでもマリアローゼ様に認められないものにhappyendは来ない。
で、仲良くなり認められてこそヒロインは幸せになれる。
マリアローゼ様の婚約者のジクサード様に関しても、「貴方にならジクサード様を任せられるわ」とマリアローゼ様にいってもらえてジクサード様エンドが来るのだ。
あとアイゼス達、マリアローゼ様の幼馴染エンドは必ずディスターニア帝国が終着点だ。だってあの幼馴染達マリアローゼ様への愛が重すぎて結婚するマリアローゼ様について帝国まで行っちゃうんだもん。
ちなみに生徒会とかのendは普通に国内。難易度は隠しキャラとマリアローゼ様の幼馴染達より断然低い。
「それにしてもマリアローゼ様、好きだわー。もう一周しよう」
最初はマリアローゼ様の事なんだこの女と思っていた私だけど、ゲームをしていくうちにマリアローゼ様が好きになっていった。
そもそもプレイヤーがマリアローゼ様を排除しなければという思考に行ったのはヒロインの知人だという学園長がかかわる。この学園長はマリアローゼ様を嫌っている派の人間で、転入するヒロインにマリアローゼ様が好き勝手やっているとか、気を付けるようにとかもっともらしい事をつぶやくのだ。それもあってプレイヤーはマリアローゼ様を倒すべき敵と認識したのである。
しかしゲームをしてマリアローゼ様を知るうちにそういう評価は覆る。
だってマリアローゼ様が『至高の姫』なのは、平民の母親がなくなって、忘れ去られた姫が愛されよう、味方を作ろうと頑張って努力した結果なのだ。
一生懸命努力をして、着実に力をつけてきたのが『至高の姫』なのだ。そんないじらしいマリアローゼ様が私はキャラクターの中で一番気に入っている。
だからコンプしたくてジクサード様エンドみたけど、もうしないって決めたの。だってマリアローゼ様ジクサード様大好きなのに、ジクサード様をマリアローゼ様から奪うなんてしたくないもん。
そんなことを思いながら私はゲームをまた始めるのであった。
――とあるプレイヤーはかく思う。
エンジュ・アンジェの中の人は魅了の魔法endの手前までいっていて、それでhappyendになるはずと信じ込んでいました。




