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彼女はまさしく傾国の姫  作者: 池中織奈
姫は微笑みを絶やさない。
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4.彼女の大切な人

 少女の周りに侍る理由は、彼女のため。

 彼らが動くのは全て彼女のためであり、彼らが彼女の味方なのも当然の事。

 当たり前のように、彼女も、彼らも思っている。

 彼らが彼女の敵に回るはずはないと。

 そんな信頼感があるからこそ、彼女も彼らも、互いにどんな行動を起こしても心配をしない。

 ただ、知っているから。

 互いに互いの事を。

 ただ、理解しているから。

 どういう人間であるのかを。

 だからこそ、彼女達の絆は固い。

 




「ご、えい?」

「そうだよ。君は俺も横に侍らせたかったようだけど、俺達の内誰か一人はマリアの傍に居るようにと決めていたんだよ。君がボロを出すように俺もそちらに行った方が良かったのかもしれないけれど、それは俺らの取り決めに反するからね」

 いうなれば自分たちを餌にして、ヒートたちはエンジュ・アンジェのボロを出そうとしていた。何を企んでいるか探っていた。

 あまりにも怪しすぎたから。

 あまりにも少女の存在は異端であったから。

 ただマリアローゼ・フィス・カイザを嫌って行動をしているだけにしてはう色々と不審な点が多すぎた。

 そもそも貴族の令嬢として色々おかしかった。だからこそ、彼らは傍に行った。すべては彼女のために。彼女が幸せであるために。

「まさか、マリアのネックレスに魔法がかけられているとか思わなかったけどな。ほとんど違和感も感じないぐらいい小さな魔法だったし」

「というか、何故それを、知っていたのだ?」

「俺達も知らないマリアの事を知っているとは、不思議だ」

 上からルミダ、アイゼス、シワンの言葉である。

 彼らからしてみれば、本当にエンジュ・アンジェという少女は不思議な存在である。

 なぜかアンジェ伯爵家の庶子にしては知らない情報を多く持っている。彼らと交流なんて学園に入るまでしたことがなかったというのにもかかわらず彼らの事を知っているといった態度を示す。

 彼女の幼馴染の男たち四人にしても、生徒会のメンバーにしても、少女は彼らを知っている風で、彼らに執着しているが、何故知られているかも、何故執着されているかも少なくともアイゼス達にはさっぱりわからない。

 わからないからこそ近づいたというのもあるが、まさか、本気で自国の王族を蹴落とそうと思っているとは彼らもまた思っていなかった。

「なんで……どうして。その女は男をはべらせて、悦に至っているに決まっているでしょう。だって、『傾国の姫』なのに、男を、侍らせて、この国を揺るがす悪役で……」

 ブツブツブツと少女はただ告げる。どうしてと、今の状況が理解出来ないとでもいうように。

「私の可愛いマリアが悪役なわけないじゃない! マリアは凄い可愛いのよ。それに男をはべらせてっていうけど、護衛なのよ。ご・え・い! 私たちはマリアの事本当大切に思っているし、大好きだけど、アイゼスも私の婚約者だし、マリアに恋慕を抱いているとかそんなわけじゃないし」

「そうよねぇ。そもそもシワン達がマリアに恋愛感情を抱いていたらあの方も傍に置くこと許さないもの。私もシワンがマリアに恋愛感情抱いているっていうならちょっと……ってなるわ」

 男をはべらせる、『傾国の姫』。

 この国を揺るがす悪役。

 なんてどこ情報なのだと問いかけたくなるような事を少女は言う。

 それに呆れたように答えるのは、カルドとミーレアンである。

 彼女達二人からしてみれば、何を言っているんだという話である。

 周りの生徒達だって、彼女達の話を聞きながらも思い込んだままの少女に怪訝そうな目を向けている。

「でも、王族だっていうのに婚約者も作らずにふらふらしているのは本当でしょう! それで男をはべらせているっていうのだから、悦に至っているに決まっているでしょう!」

「それは君だろう?」

 はぁと溜息混じりにヒートが答えた時、周りがざわめいた。

 何事だろうとそちらに視線を向ける。野次馬達が道を開けていた。

 彼女達の元へと歩いてきているのは、三人の男と、彼らの護衛だろう騎士達である。

「ジク様」

 声を上げたのは、しばらく黙って様子を見ていた彼女である。

 彼女はこの国の王太子であり、兄であるフィスオと共に歩いてくる男を見て嬉しそうに笑った。

 黒髪の美しい顔立ちの男、ジクサードは彼女の頬を向いて頬を緩めた。それを後ろを歩く男に「人前でだらしない顔しないでください」と注意されている。

「ローゼ、久しいな」

「ええ。お久しぶりですジク様」

「それで、これは何の騒ぎだ?」

 彼女とジクサードは互いに言葉を交わす。そしてジクサードは問いかけた。

「ああ、ジクサード様。この女が例の少女ですわ。お手紙でお知らせしたでしょう? どうも私たちのマリアの事を男をはべらせている悪女などと根も葉もない勘違いをしているようなのです。婚約者もいないのに男をはべらせてと」

「そうか」

 ジクサードはミーレアンの言葉にそういって、少女を見る。少女は口をパクパクさせていた。指をさすという無礼な行為をして、告げる。

「な、何で、隠しキャラの、ジクサード・シン・ディスターニアが……!」

 ディスターニアという言葉を聞いた瞬間、周りの生徒達に緊張感が走った。それと同時に、その尊き名を敬称もつけずに呼んだ少女を青ざめた目で見ている。

「ほう、俺を知っているのか。女」

 ジクサードの声は冷たかった。冷たい声で、少女を見下ろしている。そして続けた。

「俺は帰りの遅い婚約者を、ローゼを迎えに来ただけだ」

 ジクサードがそう告げた瞬間、その場は固まった。






 少女は言い募る。

 彼女は悪女だと。

 彼女は男をはべらす傾国の姫だと。

 だけど、そんな少女の前に男が現れる。

 その男は、彼女の婚約者だと告げた。





 

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