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彼女はまさしく傾国の姫  作者: 池中織奈
姫は微笑みを絶やさない。
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3.幼馴染達の理由

二話連続投稿です。

 少女の目論見は成功したけれど、理想は叶わない。

 少女の夢。

 少女の理想。

 少女が求めている、少女にとっての幸せな未来。

 そのためには、彼女を排除したかった。

 彼女を排除してこそ、そんな未来があると信じていた。

 なのに、望んだ未来が来ない。

 彼女が崩れ落ちる未来が来ない。

 彼女が絶望に嘆く未来が来ない。

 それが、少女にとって衝撃だった。

 どうしてなのかわからなかった。

 前の記憶の中の少女はこの一手で彼女を破滅に追いやれると信じていた。

 そして少女が”エンジュ・アンジェ”となった今も信じていた。

 なのに、その未来が訪れない。成功しない。


 そうして愕然としている少女を、見つめている女子生徒が居る。










「……やっぱり、あのお姫様を蹴落とすのは無理かしら」

 そう本当に小さな声でつぶやくのはタリナーラ・リツィアだ。

 マリアローゼ・フィス・カイザの事をよく思っていない筆頭の女子生徒。エンジュ・アンジェに彼女をつぶしたいと持ちかけたタリナーラは少女が愕然としているのを見ながら面白くなさそうに呟いた。

 タリナーラは、彼女の事を快くは思っていない。だから少女に蹴落とされるならば蹴落とされればいいと思いながら見ていた。だけどやっぱり、異分子である少女でも彼女を蹴落とせなかった。

 自信満々だった少女だからもしかしたらと期待したタリナーラだが、その結果を見てふぅと息を吐く。

 タリナーラは馬鹿ではない。彼女を嫌ってはいるし、隙あらば蹴落としたいなどと思ってはいるが、自分が破滅に導かれるような行動をしようとは思っていない。タリナーラがやっていることといえば、彼女達に排除されない程度の事。自分が潰されるような真似をタリナーラは決してしない。

 だから今回も少女をけしかけていたし、協力するような素振りも見せたものの、王族に対して直接的な行動に出るなどといった真似など一切していない。

 タリナーラはじっと、彼女と少女を見ている。野次馬達に紛れて、事の成り行きを見守っている。

「どうして、アイゼスが……」

「それは私も知らないわ。アイゼスも、シランも、ルミダも私に何も言わずに貴方の傍に侍ったの。だから私も貴方の傍に皆が居た理由は知らないわ」

「理由も言わずに離れても俺たちの事信用してくれているマリアが本当俺大好き!!」

 どうしてとつぶやく少女に、彼女が答え、それに反応してルミダが声を上げるのをタリナーラは聞きながら一人納得をする。

 学園の生徒たちは彼女の周りから幼馴染が消え、少女の元へ行った事に対して心配をし、色々な推測を立てていたが、タリナーラはまず彼女の幼馴染達が彼女が嫌になっていなくなったとは考えなかった。

 タリナーラは彼女を嫌っているからこそ、彼女をよく見ている。だからこそ、幼馴染達が彼女の敵に回ったなどとは思わなかった。決して彼女の敵に回るはずないと只一人思っていた。だからこそ、少女に接触をした時も彼らが居ない時に接触をした。

「そんな、どうして、ルミダが私が……」

「ど、どういう事ですか」

「エンジュが好きだからじゃ……」

 口々にそんな言葉を発するのは、少女とその取り巻きとかしていた生徒会の二人である。

 彼らからしてみれば、こちら側であると信じていた存在があちら側であったという事で衝撃が色々とあるのだろう。

「エンジュ・アンジェは怪しすぎた」

「え?」

 シワンがつぶやく。それに少女は反応をする。

「……アンジェ伯爵家が教育を十分にしたという理由でこの学園に来た庶子にしては、教養が足りない。加えてマリアを敵対視している」

「そんな存在が居たら、俺らがどうにかするのが当たり前だからな!」

 アイゼスがいった言葉に、ルミダが続けた。

「本当にねー、私たち八人がマリアの敵に回るはずもないもんね。ルミダ、お疲れ様!」

 少女と生徒会二人、周りの生徒たちが固まっているのもそっちのけで、カルドはルミダにねぎらいの言葉を告げる。

 それを聞いたルミダはカルドに近づき、「だろ、頑張った!」とドヤ顔を浮かべる。

「それにしてもアンジェさんに聞きたいのだけど、婚約者が居る身でシワン達が貴方を恋愛的な意味で好きになるわけないでしょう? 貴方はすっかり三人とも貴方を愛していて、そこの婚約者が居ながら貴方に愛をささやくお馬鹿さん二人と同一視していたようだけど、マリアの幼馴染として育ってきた三人がそのような真似するわけもないのは少し考えればわかる事だというのに」

 表情を固まらせている少女に向かって、ミーレアンは冷たい声を発した。

 アイゼス、ルミダ、シワンには婚約者がいる。婚約者が居る身で、他の女性に愛をささやくなんて真似、普通はしない。そもそも王侯貴族における婚約とは、感情的なものは抜きにしたつながりも多くあるわけで、愛している人が出来たからという馬鹿みたいな理由で婚約を破棄など出来るはずもない。

 『至高の姫』の幼馴染として生きてきた彼らが、そのような愚かな真似をするはずがないと少しでも考えればわかるはずである。

「………そ、それなら、その女はなんなのよ! 幼馴染とはいえ、いつも男たちをはべらせて!!」

 少女はミーレアンに冷たく言われても、予想外の結果が訪れていてもあきらめきれなかった。だからこそ、彼女に突っかかる。

「それは当然だろう? 俺たちはマリアの護衛でもあるんだよ」

 それに対して、ヒートはそう答えた。









 彼女の幼馴染達の全ては彼女のために。

 彼女が大好きで、大切でたまらないから。

 彼らを彼女は信頼している。

 たとえ、何も言わずに離れていったとしても信頼しているから。

 疑う事もせずに、彼女は彼らを信じている。




 

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