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彼女はまさしく傾国の姫  作者: 池中織奈
姫は何故愛されるのか、それに少女は答える。
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4.少女が暴く事は。

 少女は望んでいる理想が現実になることを。

 少女が追い求めた理想のためだけに動く。

 そして少女はそのために躊躇わない。

 なぜならこの世界は、そうなるべきであるから。

 なぜならこの世界の事を、少女は知っているから。

 少女にとってそうあることが当然なのだ。

 少女にとって彼女は踏み台である。

 彼女を蹴落としてこその未来があると少女は信じている。

 少女は自身のために彼女を蹴落とす事を躊躇わない。

 彼女が自国の王族という尊い存在であろうとも少女は気にしない。



 そして少女は暴挙に出る。










 王太子との会話からそれなりに時間が経過したその日は、まだ相変わらずマリアローゼ・フィス・カイザの幼馴染達は少女の元に居た。

 少女がヒート・ウスラルチを手元に置こうと躍起になって行動を起こしていたが、それは叶わなかった。学園の生徒達はヒートが少女の元へ行かなかった事に安堵の溜息をもらしていた。

 そんなある日、彼女はヒート・ウスラルチと、カルド・ヤーングスとミーレアン・イクナの三人と共に中庭を歩いていた。

 彼女は学園が慌ただしくなっていても相変わらず彼女のまま存在していた。

 彼女の傍から三人が消えたというのに、彼女も、彼女の周りも彼らが消える前から何も変わらない。

 中庭を歩いている彼女達に周りからは視線が向いていた。

 彼女がその場に存在するだけで、周りは彼女に注目をする。

 それは彼女が『至高の姫』と呼ばれるほどに、この学園にとって、いや、この国にとって特別な存在だからであろう。ただ存在するだけで周りから注目される、それが彼女だった。

「マリア、嬉しそうだね」

「ええ、当然よ」

 彼女には何か嬉しい事があったのだろう。ヒートの言葉に彼女は頷いて、心の底から嬉しそうにほほ笑んだ。

 その笑みを見て反応を示したのは、カルドである。

「嬉しそうな顔しているマリアってば、凄い可愛いー」

 そういって彼女にくっつく。それに歩きにくそうだろうに彼女は嫌な顔一つせずに、微笑んだままだ。

「カルド、そんなにくっついたらマリアが歩きにくそうでしょう?」

「ふふ、ミーレ、羨ましいの? ミーレも羨ましいならマリアに一緒にくっつこうよ」

「羨ましいとかではないわよ。でもまぁ、マリアは可愛いからくっつきたくなるのもわかるわ」

「でしょー! マリアは世界で一番可愛いんだもん」

 ミーレアンとカルドがそんな会話を交わし、それを聞きながら彼女とヒートも笑っている。

 何処までも穏やかな会話がなされる。平穏な空間がそこにはあった。

 学園の変化にもやもやした気持ちを抱えている生徒達もそんな穏やかで、優しい会話がなされるのを見て笑みを浮かべている。

 学園の生徒達は、彼女の事が好きな生徒が多い。

 『至高の姫』が笑っている事を望むものが多い。

 そして、彼女が幼馴染達と楽しそうに話しているのを見るのが好きなのだ。

 だから嬉しそうにその様子を見ていた。

 だけど、その場に望まない来訪者が訪れた。

「マリアローゼ・フィス・カイザ!」

 エンジュ・アンジェがそういって呼びかけた時、多くのものが眉を潜めた。

 彼女の幼馴染達を傍に置いており、残りのヒートまでも傍に置こうとしている少女であるが、彼女と直接対峙し、会話を交わした事はほぼない。

 そんな少女が、彼女に話しかけた。

 加えて勝ち誇った顔をしている。

 それに周りの生徒達ははらはらしながら見つめる。

 何が起こるのだろうかと。

「あら、アンジェさんね。何か御用かしら?」

 彼女は少女が勝ち誇った顔をしていても気にした様子もなく、ただ微笑んでいた。

 それが癪に障ったのか、少女の顔は歪む。

「貴方がそんな風にしていられるのも今日までよ! ルミダ! それを貸して」

 少女がルグネに向かって言えば、ルグネは液体の入った瓶を渡す。渡された少女は、彼女に向かってそれをかけるという暴挙に出た。

 周りが制止する暇もないほど素早くである。

 そしてその液体がかけられた瞬間、彼女の首にかけられたネックレスが光り、ピキンという何かが壊れるような音が響いた。

 それと同時に壊れたネックレスが地面へと落ちていく。母親の形見のネックレスが。

 それを見た少女は勝ち誇った。

「ほら、皆、効果があったでしょう! 周りの生徒達もよく聞きなさい! これには魔法がかけられていたの。それも、魅了の魔法がよ! だから、この女は、魅了の力で皆に好かれていただけなのよ! この女が愛されているなんて嘘なのよ!」

 そしてそんな風に叫んだのだ。

 彼女が『至高の姫』である事は嘘なのだと。

 それは全て魅了の魔法のせいなのだと。

 宣言をした少女は勝ち誇ったように彼女を見た。

 宣言を聞いた周りは驚いたように彼女を見た。

 彼女の幼馴染達は顔色も変えずに彼女を見た。

 周りの視線を一心に受けた彼女は―――。







 少女は勝ち誇ったように嗤っている。

 少女は自分の幸せを疑わない。

 試みが成功し、実際にそれがなされたから。

 これで少女は理想が現実になると嗤う。

 これで少女は幸せになれるのだと嗤う。

 少女は自分の欲望のために、それを暴いた。




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