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彼女はまさしく傾国の姫  作者: 池中織奈
姫は何故愛されるのか、それに少女は答える。
33/44

3.彼女が思い出す事は。

 マリアローゼ・フィス・カイザは、優雅にほほ笑む。

 ただ穏やかにほほ笑み続ける。

 何の心配もいらないのだと。

 なぜなら、幾ら周りが騒がしくても彼女は知っているから。

 大事な幼馴染達の事を。

 彼らがどういう存在であるかを。

 知っているからこそ、何も心配はいらないと思っている。

 彼女は彼らがどんな行動に出ようとも、幼馴染だからこそ、動じないのだ。

 大事な、大切な幼馴染だからこそ……彼らが起こす事に心配などしないのだ。



 彼女は、お城の中の自室にいた。






「マリアローゼ」

「まぁ、フィスお兄様、ごきげんよう」

 マリアローゼ・フィス・カイザはその日、自室に訪れた王太子――腹違いの兄を快く迎え入れた。

 椅子に腰かけて、嬉しそうに笑う。

 その微笑みを見るだけで、彼女の事が大好きな王太子は頬を緩めた。

 彼女は、王太子にとって可愛い妹である。可愛い妹が笑顔で受け入れてくれたのだから、普段は冷静な王太子がだらしない顔をしていても仕方がないのである。

 側仕え達もそんな表情の王太子に慣れきっているのか、取り乱す事もない。

「ああ。マリアローゼ、今日も可愛いな」

 王太子は当然のように彼女に向かってそんな言葉を告げる。この王太子がというより、彼女の兄妹はこぞって彼女に会う度に可愛い可愛いと告げるのだ。

「ありがとうございます。フィスお兄様。それで、何か御用でしょうか?」

「ああ……そうだ。学園の事を聞いておこうと思ってね」

「学園の事ですか?」

 彼女はそういいながら、王太子を見る。

「ああ、そうだよ。学園はあわただしいだろう? 彼らがどうにかすると思って放っておいたのだけど、そうもいかないようじゃないか。私の方からどうにかしようかと思ってね」

 学園でどのような事が起きているかを王太子はきっちり把握していた。把握しているからこそ、そんな提案を彼女に投げかける。

 その提案は全て彼女を思っての言葉だ。彼女の学園が乱れている事に心を痛めているからこその言葉だ。

 彼女が平穏に、心穏やかに過ごせるように王太子は是非とも動きたかった。

 だけど申し出に、彼女は笑って答えた。

「いいえ。フィスお兄様の手を煩わせるような事はありませんわ」

「……本当かい? ルグネが何やらこそこそとしていたようだが」

「ええ。何も問題はありませんわ」

 王太子は本当に? といった態度だが、彼女の態度は変わらない。

「フィスお兄様、本当にどうしようもなくなれば私はお兄様たちに助けを求めますわ。だから安心して待っていてください。私は大丈夫ですわ」

 彼女は「マリアローゼのために私は頑張る」と気合を入れてやってきたが、断られて拍子抜けた表情をしている王太子にそう告げて、退室を促した。

 そして側仕えの侍女達と彼女のみがその場に残る。

 侍女達は、彼女に向かって何も言わない。大丈夫だと告げる彼女に、これ以上何を言っても仕方がないと知っているからだ。

 椅子に腰かけたまま、彼女は幼馴染達の事を考える。昔の記憶を思い起こす。

「マリアって呼んでいい?」

 出会ったばかりの頃、緊張していた彼女にリューリは笑いかけた。

「マリア、無理するなよ」

 自分の限界も考えずに動いていた彼女にアイゼスは心配そうに言った。

「マリアは本当に頑張り屋さんね」

 忘れ去られた姫から脱しようと必死だった彼女の頭をミーレアンは撫でてくれた。

「マリア、俺達はマリアの味方だから」

 何時だって不安を抱えていた彼女にシワンは力強くそう告げた。

「マリアは本当可愛い! 私がマリアを守るから!」

 前に進む事を躊躇っていた彼女にカルドはぎゅっと抱きしめてくれた。

「マリアを苛める奴は俺たちがどうにかするから!!」

 忘れ去られた姫としてささやかれていた彼女をルミダは守ってくれた。

「マリア姉様の傍に居れて本当に嬉しいの」

 決して自分を好きにはなれなかった彼女をネルは慕ってくれた。

「マリア、忘れないで、俺達がマリアの事本当に大切に思っている事を」

 自分を大切にしなかった彼女にヒートはそんな風に言った。

 大切な記憶。大事な幼馴染との思い出。

 それを思い出すだけで彼女は自然と笑みを浮かべてしまう。

 昔、母親がなくなって一人ぼっちになった彼女。

 その後、彼女は幼馴染達と出会った。

 それからずっと幼馴染達は彼女の傍に居る。

 彼女は幼馴染達との記憶を思い起こして、微笑んでいる。

 周りの人々が彼女の周りがあわただしい事をどれだけ言い募ろうが、彼女は相変わらずだ。

 のんびりとしている。動じる事もなく、普段通り。

 穏やかにそこにいて、ただ思い出を頭に思い描いている。





 彼女の元へ訪れたのは王太子。

 『至高の姫』である妹を愛し、心配する王太子。

 王太子は告げる。

 自分が動く事を。

 だけど彼女はそれを拒否する。

 周りの心配する声を聞きながらも彼女は動かない。

 ただ彼女は、幼馴染達との思い出を思い起こしていた。

 幼馴染との思い出は、彼女にとって特別な記憶。




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