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彼女はまさしく傾国の姫  作者: 池中織奈
姫は何故愛されるのか、それに少女は答える。
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1.少女が思う事は。

本日、三話目の投稿です。

 少女はその理想のために動いている。

 ただ突き進んでいる。

 一人、二人、三人……と、少女にとっての特別が少女の傍に現れる。

 少女に向かって笑いかけてくれる。

 それは少女の理想に向かって、現実が確かに動いているという証であった。

 少女は、この世界にやってこれて、理想を追い求めた。

 少女の理想。少女が願っていた現実。

 それが現実になる瞬間を求めていた。

 少女は、理想を願う。

 願った理想が現実になることを信じて疑わない。


 けれど、全てが上手くいっているわけではない。







「どうして……。あと、三人なのに。少なくともヒートがこちらに来てくれたら……、生徒会はともかく、マリアローゼ・フィス・カイザの幼馴染達はコンプできるのに」

 エンジュ・アンジェは、寮の自室の中でぶつぶつと何かを言っている。

 絶頂の中にいた少女だったが、その後が上手くいっていなかった。愛らしい顔を、不機嫌そうにゆがめている。

 少女にとっての幸せのために、あと三人が足りなかった。

 少なくとも少女の理想のためには、ヒート・ウスラルチがマリアローゼ・フィス・カイザの傍から離れるのは必然であった。

 なぜなら、此処は……、

「『VS傾国の姫~王子様を手に入れろ~』の世界なんだから……」

 少女にとって、そうだからだ。

「マリアローゼ・フィス・カイザをどうにかしなきゃ。そうしなきゃ、理想のために。でも三人もこちらに来ているなら、もう……」

 ぶつぶつぶつぶつ、一人でただ告げる。一人の部屋の中で自分に言い聞かせるように少女は独り言を言い続ける。

 少女が手に持つノート。

 その中には、少女がこの世界で覚醒してから思い出す限りの『VS傾国の姫』の情報が書かれている。

「『VS傾国の姫』とは違う場面もあるし……皆私の魅力にやられているし、これなら、マリアローゼ・フィス・カイザを追い詰める事はしても大丈夫なんじゃないかしら」

 ぶつぶつぶつと、自国の王族を追い詰めるなどという国家反逆罪としか言えない事をつぶやいている。しかし本人には誰かに聞かれたら一目でまずい事を言っている自覚は一切ないようで、笑みを浮かべている。

 彼女を蹴落とす事を、少女は考えている。

 決して彼女と共に歩む道を考えないのは、その『VS傾国の姫』というものの情報があるからだろうか。

「マリアローゼ・フィス・カイザを蹴落とすための協力者も手に入れたわけだし。あれをどうにかできれば……マリアローゼ・フィス・カイザの魅了をどうにかすれば……そうすれば、きっと」

 マリアローゼ・フィス・カイザ、この国のお姫様に対してたかが伯爵家の庶子という立場でありながら少女は一切の敬意を払っていない。

「私は、エンジュ・アンジェなんだから……。ヒロインなんだから。そして、マリアローゼ・フィス・カイザは、倒されるべき傾国の姫なんだから……」

 自分をヒロインなどと痛々しい呼び名で呼び、『至高の姫』に対して倒されるべきなどという。

 『至高の姫』は、マリアローゼ・フィス・カイザは、誰よりもこの国で愛され、必要とされているお姫様であるというのに、少女にとっては忌々しい存在でしかないようだ。

「ルミダはこっちに居るんだから、出来るわ。きっと、出来る。だってゲームでもそうだったもの。そう、ルミダに作ってもらって、そしてマリアローゼ・フィス・カイザの化けの皮を剥ぐ」

 ノートに目を通して、少女は歪んだ笑みを浮かべる。人に見られたら怯えられてしまうであろう、笑みを浮かべて、嗤っている。

「むふふ、私が”エンジュ・アンジェ”。あの時できなかった事を、此処で出来る。そしてマリアローゼ・フィス・カイザを倒して、私は幸せになれる」

 自分を”エンジュ・アンジェ”だと、認識していないとでもいうような言葉。

「マリアローゼ・フィス・カイザを、『至高の姫』の地位から落とす。そしたら、私は……幸せになれる。ちょっとはやいけど……いいよね。大丈夫なはず。だってアイゼス達が居るから」

 少女は焦っている。心のどこかで焦っているからこそ、少女の知っている情報よりもはやく動こうとしている。

 上手くいかないことに少なからず焦っているからこそ、自分に言い聞かせるようにぶつぶつと告げている。

 少女は自分に言い聞かせる。

 それで成功するはずだと、大丈夫だと。

 それを成功させれば、”エンジュ・アンジェ”としてこの世界で幸せになれるのだと。

「とりあえず………あの、まがい物の愛されたお姫様をどうにかしなきゃ。傾国の姫さえどうにかできれば、あとはどうにでもできる」

 少女にとって、マリアローゼ・フィス・カイザへ向けられた愛は全てまがい物だとでもいうような言葉だ。

 事実、少女はそれを知っている。少女にとってはそれが真実である。

 だからこそ、『至高の姫』を蹴落とす事を考えている。

「よし……っ、じゃあ、早速……」

 少女は決意したように声を上げて、寮室から出て行った。向かう先は、ルミダ・ミグの元だ。





 少女は寮室の中で考える。

 『VS傾国の姫~王子様を手に入れろ』について。

 少女は上手くいかないことに焦っていた。

 だからこそ、『至高の姫』を蹴落とそうとする。

 『至高の姫』さえ蹴落とせば、全てが上手くいくと少女は思っている。

 だからこそ、少女はそれを行って自身が幸せになることだけを思っている。





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