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彼女はまさしく傾国の姫  作者: 池中織奈
姫の思う事はきっと誰にもわからない。
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4.平穏の中に彼女はいる。

本日二話目の更新になります。

 マリアローゼ・フィス・カイザの周りは、此処最近あわただい。

 彼女の周りから、一人、二人、三人と、姿を消している。

 『至高の姫』の幼馴染の男たち四人のうちの三人もが。

 だからこそ、周りはひそひそとささやき合っている。

 『至高の姫』は、学園の中でも最上位に位置する特別な存在である。

 そんな特別な存在の周りから人が消えていく。

 それは周りにとっても許容できることではないのだ。

 だけど、その中心にいる彼女は笑っている。

 彼女は何時だって、いつも通りの笑みを浮かべていてそこにいる。

 彼女は揺るぐことなどない。

 彼女は何があっても彼女としてそこにいると、そんな風に証明しているかのようだ。



 彼女は、今日も笑みを浮かべている。





「マリア姉様、お手紙がまた届いたって聞きましたけど、あの方からですか?」

「ええ。そうよ」

「マリア、嬉しそうね」

 笑みを浮かべながら会話を交わす三人の少女が居る。

 ネル・ヤーングスと、マリアローゼ・フィス・カイザと、ミーレアン・イクナである。

 この場には、現在カルド・ヤーングスとリューリ・ミサは居ない。扉の外にヒート・ウスラルチが居るだけで、部屋の中にいるのは三人だけである。

 彼女はミーレアンの言葉に頷いて、微笑む。

「ええ。嬉しいわ」

「マリア姉様が嬉しいと私も嬉しいよー」

「そうね。マリアが嬉しいと私も嬉しいわ」

 彼女が「嬉しい」と口にすれば、二人は口々にそういって笑う。

 彼女は手紙が届いた事が嬉しくて仕方がない様子で、そんな彼女の様子を見た二人も嬉しくて仕方がないといった態度を見せる。

 彼女の幸せが自分の幸せだというように、二人は微笑んでいる。

「落ち着いたら来られるって言ってたよね。じゃあ、その手紙はもう落ち着いたってこと? マリア姉様」

「ええ。こちらにこれそうだから、来てくださるといっていたわ。本当に楽しみだわ」

 ネルの問いかけに彼女は頷いて、心の底から幸せそうに微笑む。

 手紙の相手の事を彼女が大切に思っている事、そしてこちらに来る事を喜んでいる事が誰の目から見てもわかるだろう。

「まぁ、それは良かったわ。私も楽しみですわ」

 ミーレアンもにこにこと笑う。

 そんな風に彼女達三人が親しそうに話し込んでいれば、扉の外から声が聞こえた。

「ヒート!!」

 部屋の中にまで響く声。それはマリアローゼ・フィス・カイザと、傍に居る二人にとって最近少なからず聞き覚えのある声である。

「あら……、アンジェさんが来ているのね」

 ミーレアンがいった。

 そう、その声はエンジュ・アンジェの声である。

 どうやらすぐそこまで来ているらしい。そしてヒート・ウスラルチと会話を交わしているというより……話しかけているようだ。

「まぁ、アンジェさんは本当にヒートたちが好きね」

 彼女はヒート・ウスラルチにエンジュ・アンジェが話しかけているのを聞きながらただ笑っている。

「兄様たち、かっこいいもんね! 皆が好きになるのも当然だよ」

 ネルもそういって笑って、特に気にした様子はない。

「そうね。シワン達はかっこいいものね」

 ミーレアンも婚約者のシワンがエンジュ・アンジェの傍に行ったというのに落ち着いている。

「ヒート、一人でこんなところにいるのも大変でしょう? 私たちと一緒にお茶でもしない?」

 扉の前にいるヒートに向かって、そんな風に誘いをかけるエンジュの声も彼女達の耳に響く。けれど、彼女たちは一切それも気にしていないようだ。

「それよりも、マリア姉様、迎え入れる準備をしなければね!」

「ええ、王宮で進めているわ。私も喜んでもらえるようにドレスを新調しているの」

「マリアの新しいドレス楽しみだわ。私も準備をしなければね」

 彼女たちの話は、手紙の主を迎え入れる準備の話に映っていた。

「すまないね。行くことは出来ないよ」

 ヒートの断る声も聞こえてくるが、部屋の中の彼女たちの会話にその出来事は関係ないようだ。

「私もドレスを新しくしよーと、そしてマリア姉様に可愛いって言ってもらえるように精一杯着飾るの!」

「ネルは今でも十分可愛いわよ。それにしてもネルは私じゃなくて、可愛いって言って欲しい男性の方は居ないの?」

「私もそれ気になるわ。ネルは婚約者がいないし、誰か良い人いないの?」

「んー、私は兄様たちをずっと見てたから、あんまり周りに良い男いないなーって思っちゃって」

 彼女たちはそんな会話を交わす。ネルはアイゼスたちをずっと見てきて育ってきたのもあって、男の基準が高いようだ。

「もう、マリアローゼ・フィス・カイザにそんなに縛られなくていいのよ! 私がいつか、貴方を救ってあげるから」

 外から聞こえてきたそんな言葉にも、彼女たちは一切の反応を示さない。ただ彼女たちは和やかにその場で会話を交わすだけだった。





 彼女はただ、微笑んでいる。

 彼女はただ、いつも通りに過ごしている。

 何が起こっても、彼女は動じない。

 彼女は何を思っているのも、周りはわからない。

 わからないからこそ不安に思う。

 けれど彼女が微笑んでいるから、周りは安心する。

 周りがどう嘆こうと、慌てようと。

 それでも平穏の中に彼女はいる。

 そしてその平穏は、崩れない。




 

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