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彼女はまさしく傾国の姫  作者: 池中織奈
姫の思う事はきっと誰にもわからない。
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3.絶頂の中に少女はいる。

 少女はそこに存在出来る事が幸福だと思っている。

 少女にとって、少女の特別が溢れる世界はかつて望んでいた世界だった。

 ”かつての少女”が求め、望んだ世界。

 少女はそんな世界を求めていた。

 少女はそんな世界を愛していた。

 少女は彼らが大好きだった。彼らの事を求めていた。

 自分が彼らと同じ世界に存在していたらと、ずっとそうかつての少女は焦がれていた。

 少女はずっと、彼らの事を求めてた。

 そんな求めていた彼らの傍に”エンジュ・アンジェ”として存在出来る事が少女にとっての幸せであった。


 あの、マリアローゼ・フィス・カイザから順調に彼らを奪える事に、少女は愉悦を感じていた。







 少女は、目の前に立つ少年を前に、心の底からの笑みを浮かべている。

 目の前には、赤髪の少年が居る。じっとこちらを見つめている彼――シワン・ワスア。

 あの、マリアローゼ・フィス・カイザの幼馴染の一人。

 『至高の姫』の幼馴染の、男四人のうちの三人目が少女の元へとやってきた。

 少女はずっとシワン・ワスアに接触していた。この国の騎士団長の息子。次期騎士団長だと噂されている少年。

 必要最低限しかしゃべる事のない、『寡黙の騎士』。

「シワン」

 少女はシワンの名をいとおしげに呼んだ。

 学園の中のカーストトップ、マリアローゼ・フィス・カイザとその幼馴染達。そんなカーストのトップに位置する彼らを、少女は躊躇いもなく呼び捨てにする。

 そのことにざわめく周りに、やはり少女は一切気にしない。

 寧ろ気にしているのは、少女の周りに存在するスザクとカタロスである。二人は周りの嫌な視線から少女を守るようにしている。アイゼス・トールと、ルミダ・ミグの二人は視線に気づいていないのかそんな素振りも見せずに、ただそこにいた。

「シワン様までどうして……」

「でも、マリアローゼ様は……」

「笑っていらっしゃるから、多分」

「それにしても……あの子は」

 ひそひそ、ひそひそと、ささやかれる。

 周りの生徒達がささやく単語の中でさえ、マリアローゼ・フィス・カイザの名前が出る。それは、彼女がこの学園の中心であり、この学園のトップである事の証であろう。

 マリアローゼ・フィス・カイザの周りに彼らが居る時には、何の不満もいう事なく、それが当たり前だと受け入れている。

 だけど、周りはエンジュ・アンジェの周りに彼らが居る事を受け入れない。受け入れないからこそ、ひそひそと何かをささやいている。当たり前だと納得出来ないからこそ、少女を不審そうに見つめている。

 そんな視線を、少女は気にする事はない。

 少女はまっすぐにシワン・ワスアの事を見つめている。

 少女は愛おしげに彼を見ている。これがたった一人に対してのみそうであったなら周りもここまで反発はしなかっただろうが、少女はシワンにだけではなく、周りに存在する男たちすべてにそういう目を向けている。

 愛おしげに、嬉しそうに笑う。

 そして周りの男たちが自分を愛するのは当たり前だとでもいうような態度を浮かべている。

 まるで自分が世界の中心だとでもいう風に、まるで自分がお姫様か何かだというように、少女はそこに存在している。そして、そう主張している。

 この国のお姫様は、学園の『至高の姫』は、別に居るというのに、自分こそが彼女より上の存在だとでもいうようにそこにいる。

「アイゼス、シワン、ルミダ、スザク、カタロス」

 五人の男の名を呼んで、嬉しそうに笑う少女はこの上ないほどに幸せを感じている。

 シワンがこちらにやってきて、もう少しで全てが上手くいくと少女は考えている。

 少女は、理想に向かって全てが進んでいると確信している。

 だからこそ、幸せそうな笑みを浮かべている。

 少女の世界は、少女を中心とした限られた範囲内で納まっている。少女の見ている世界は、本当にその場だけなのだ。

 それを証明するかのように、少女は周りが何をいっても、どんな目を向けていても、何も気にしていない。少女は世界を閉じている。閉じた世界の中で、少女は幸せの中にいる。

「私ね―――」

 少女は何気ない会話を口にしながら、本当に幸せそうに笑うのだ。

 周りの事を何も気にせず、ただ限られた世界しか知らない異常性に気づくこともなく、ただ笑うのだ。

 今、此処に居る事が幸せだという風に。

 今、こうしていられる事が幸せだという風に。

「エンジュ」

「エンジュ」

 そう、特別な彼らが自分の名を呼び、周りに居る。

 それは少女にとっての幸福である。そしてこの場にシワンが加えられたことで、益々少女は幸福の渦にのまれた。

 少女は、幸せだと声を上げるのだ。








 少女は目指している理想が。

 かなえたいと望んでいる理想が。

 近づいてくる足音を確かに聞いている。

 そしてその理想が来ないはずがないと思っている。

 だからこそ、少女はその時絶頂の中にいた。

 一人の少年が少女の元へやってきて、彼女の傍からまた一人消えたから。

 彼女の元から、少年をまた一人奪う事が出来たから。

 上手くいっていると、理想に向かっていると、少女は確信していた。

 絶頂の中にいる少女は、嗤っている。



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