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彼女はまさしく傾国の姫  作者: 池中織奈
姫の周りは変化していく、そして少女は嗤う。
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3.その心は、何を思うか。

 ルミダ・ミグが、転入生に落ちた。

 そんな噂が学園中に広まっている。

 マリアローゼ・フィス・カイザへの思いをいつも口にしていた魔術師長の息子。

 マリアローゼ・フィス・カイザの幼馴染。

 アイゼス・トールという彼女の幼馴染の一人が彼女の傍を離れた。

 ただそれだけでもざわついていた学園は、さらにざわついている。

 動揺するものも多く居る。だけど、それでも学園を揺るがすほどではない。

 マリアローゼ・フィス・カイザの楽園。

 彼女の収める一つの国のような場所。

 それが、この学園である。

 故に彼女という唯一無二の基盤が壊れる事さえなければ、学園は揺るぐ事はない。




 マリアローゼ・フィス・カイザは、普段通りの姿を見せている。



「マリアローゼ様が……」

「アイゼス様だけではなく、ルミダ様まで」

 ささやかれる噂はもちろん、彼女の耳にも響いている。

 学園の生徒達は、マリアローゼ・フィス・カイザの傍から人が減っているという事実に、不安を感じているようだった。

 マリアローゼ・フィス・カイザと、その幼馴染達。

 その、学園にとって絶対的な存在たちが、変化している事。それを不安に感じている。

 だけど、彼らは、彼女がいつも通りの姿を見せているのを見て安心をするのだ。

 マリアローゼ様が、あんな風に笑っているのならば何も問題はないと。

 マリアローゼ様が笑っておられるのだから、自分たちが不安に思う必要はないのだと。

 学園の、マリアローゼ・フィス・カイザを慕うものたちは、ただ彼女がそこで笑っている事実に安堵し、心にかすかな不安が残ろうとも安心するのだ。

 それとは別に、数少なくはあるがマリアローゼ・フィス・カイザの事を疎ましく思っている集団もいる。

 彼らは逆にこの事態を喜んでいる。

 頂点から決して落とす事が出来ないと思い込んでいたそんな存在を落とせるかもしれないと。

 学園の頂点に立つ事を夢見る存在は少なからずいるのだ。ただし、そういう存在は必ずマリアローゼ・フィス・カイザという学園の絶対的王者という壁にぶち当たる。

 何よりこの学園は身分というものの力が大きく作用する。

 王族より上位に立つ事は基本的に無理である。ただし、身分といった点以外で上に立つ事が出来るかもしれないという思いがあるものもいるだろう。

 そんな少数だけだが彼女を気に食わないと感じている存在たちは、マリアローゼ・フィス・カイザを無様だとあざ笑う。

 その視線に気づいているだろうに、彼女は決して気にした様子はない。

 幼馴染の少年が、転入生の元にいるという事実に対し彼女は決して動揺しない。

 彼女は、何時だって彼女であり続ける。

 マリアローゼ・フィス・カイザという少女の軸は、心は、このくらいではぶれる事はないのだ。

「マリア、行きましょう!」

「ええ」

 マリアローゼ・フィス・カイザの隣には、転入生の元へといったルミダ・ミグの幼馴染であるカルド・ヤーングスが居る。

 その少女もまた、自分の婚約者が不可解な行動をしているというのに何も気にした様子はない。ルミダ・ミグという存在が他の女性に現を抜かしているというのに、ただ少女は普段通りマリアローゼ・フィス・カイザの隣にいる。

 そんなカルドに声をかける女子生徒がいる。

「あ、あの、カルド様」

「なーに?」

「ミグ様の事は……」

「ああ、ルミダの事? 転入生の隣にいっているんでしょう? それはあいつの自由だもの。貴方が気にする事ではないわ」

「……で、でも」

「むふふ。というか、私はルミダが居ない分、マリアの事を独り占めできるから嬉しいもの!」

 ……悲しむどころか寧ろ喜んでいるカルドの様子に周りの生徒達は驚いた顔をしている。気にしていないのは知っていたが、それでよいのかという視線を向けているが気にした様子はない。

「本当にカルドはマリアが大好きだね」

「当たり前でしょう。こんなに可愛いマリアを好きにならない方がおかしいわ。貴方もマリアの事大好きでしょう、ヒート」

「当然だね」

 マリアローゼの傍に控えていたヒートがつぶやけば、そんな会話が展開される。

 マリアローゼ・フィス・カイザには婚約者がいない。それでいて、ヒート・ウスラチルにも婚約者はいない。だというのにこういう発言をするからこそ、マリアローゼとお似合いなどとささやかれるのだろう。

 マリアローゼのファンである生徒達がヒートの発言に騒いでいる。

 マリアローゼ・フィス・カイザはただ騒ぐものたちににこりと微笑んで、カルドとヒートを連れてその場から去っていった。その首元には、ネックレスが光っていた。

「マリアローゼ様って、いつもネックレスつけていますよね」

「亡くなったお母様の形見だと聞いた事がありますわ」

「まぁ……マリアローゼ様のお母様の……」

「あのマリアローゼ様のお母様ですから素晴らしい方だったのでしょうね」

「それにしてもヒート様とマリアローゼ様はお似合いですわ」

「どうして婚約者にならないのかしら?」

「マリアローゼ様は……」

 マリアローゼが去った後も、彼女の話題がささやかれるのであった。





 彼女は動じない。

 彼女はただ笑う。

 彼女の基盤は揺るがない。

 幼馴染が消えても揺るがない。

 そんな彼女は、何を思っているのか。



 

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