3.生徒会室にて
生徒会とは、マリアローゼ・フィス・カイザの通う学園のカーストの二番手にしかなれない存在たちである。
圧倒的な力を持つ存在が上におり、それを覆す事はどうあがいても出来ない。まず生まれが違う。王族と、貴族では天と地ほどの差がある。
王族は、王の一族である。
貴族は、王に付き従う権力者たちの一族でしかない。
学園の王者は、マリアローゼ・フィス・カイザという王族である。決して生徒会では成り代わる事も出来ない。
学園のトップは紛れもなく、彼女である。
でも学園を事務的に回す権力は、生徒会にある。
決して彼女を上回る事は出来ないが、それでも生徒会という権力を持ち合わせている。
彼らは決して、驕らない。
彼女の上に立つ事は出来ない事をちゃんと理解している。
だからこそ、生徒会長は彼女の周りに突っかかろうが排除をされる事はない。
さて、そんな生徒会長であるミラン・ルミダルは頭を抱えていた。
「あいつらは……アホなのか!!」
あいつらというのはもちろん……マリアローゼ・フィス・カイザ達のことではなく、エンジュ・アンジェの傍にいる生徒会のメンバーの事である。
副会長であるスザクだけではなく、庶務であるカタロスという男もエンジュ・アンジェの傍にいってしまったのだ。それは別に個人の自由のため、ミランは何も思わない。ただ理解出来ないのは、エンジュ・アンジェの傍に居たいからと職務を放棄している事にである。
スザクが放棄しただけでもミランとしてみれば意味がわからない事だったのだ。それがもう一人増えたとなれば、生徒会という組織の長としてみれば意味がわからないという言葉につきるだろう。
ミランは自分の事を俺様などという男であるが、まじめな男である。その言動からは考えられないほど基本的にきっちりしている男なのだ。
だからこそ職務を放棄して女を追いかける意味がわからない。
「ミラン様、あの人たちをアホっていっても仕事が終わるわけではないのですから手を動かしてください」
「そうですよ、ミラン様。あの二人はミラン様が何を言ってもこちらに戻ってくる気がないのですから解職するべきでしょう」
残っている生徒会メンバーの二人、ディーラー・カッラと、チュルカ・ジェルは口々に言う。
「いや、しかし、解職は……」
「甘いですね、相変わらず。ミラン様はアホ達は切り捨てればいいと思います」
「切り捨てても問題はないでしょう」
「……マリアローゼ・フィス・カイザはあいつを切り捨ててないだろう。俺様もそんな簡単には……切り捨てられないぞ」
ミランは俺様な性格をしているが中々身内に甘い性格であるようだ。会計と書記の二人は逆に冷めた性格をしているのか、さっぱりしている。
「アイゼス様たちは……なんていうか別だと思いますけど」
「ディーラー、それはどういうことだ」
「どういうことだも何も、言葉のとおりですよ。僕はマリアローゼ様がいつも通りであるのだから、こちらとは事情が違うと思いますよ? マリアローゼ様が取り乱すほどの事態が起きていないということに他ならないですから。ミラン様は……取り乱しすぎです」
ばっさりとディーラーは言う。
そこにあるのは紛れもない信頼である。
マリアローゼ・フィス・カイザという学園のトップに対する紛れもない信頼。
彼女が彼女である限り、何も変わらないという無償の信頼。
「……そうか?」
「はい。そうですよ。マリアローゼ様が普段通りであるのですから、何も問題はないと思います。なぁ、チュルカ」
「ええ。その通りですわ。マリアローゼ様が動くほどの事態が起きていないという事です。スザク様たちについてもマリアローゼ様にとっては特に問題ではありません。私たち生徒会にとって彼らが膿となったというだけなので、すりかえればいいでしょう」
ディーラーもチュルカもさっさとスザク達二人をやめさせればいいだろうと思っているようだ。スザク達がエンジュ・アンジェの傍におり、職務を放棄していることが問題であって、それ以外は問題というのにも値しないのだ。
彼らの中心である彼女がいつも通りだから。
彼女が変わる事もなく、笑っているから。
それだけで学園の生徒たちはただ安心するのだ。たとえ少しの変化があっても学園が揺らぐ時は、彼女が揺らぐ時であり、彼女がいつも通りならば何も変わらないのだから。
「はぁ……貴様らはマリアローゼ・フィス・カイザを本当に信頼しているな。まぁ、言われてみればあのマリアローゼ・フィス・カイザが何も行動をしていないのなら、問題はないな。スザク達に関しては…もう少しだけ様子を見させてくれ。俺様は……そんな簡単には切り捨てたくない」
「まぁ、それはいいですけどそれなら助っ人が居ると僕は思いますが。流石に五人分の仕事を三人でするのは大変ですから」
「ミラン様は甘いですねぇ……。でもミラン様がそうしたいならどうぞ」
ディーラーもチュルカも一番のトップはマリアローゼ・フィス・カイザとしていてもなんだかんだでミランの事を認めているので、そういって笑うのだった。
生徒会室にて
三人は職務放棄者についての会話を交わす。




