1.マリアローゼ・フィス・カイザ
「ごきげんよう、皆様」
光に反射して輝く金色の髪が、風に揺れている。意志の強い緋色の瞳は、迷いなど一切見せない。
高級そうな生地でできた学生服を身にまとっている。その制服の一部には細かい刺繍も施されており、この国でも有数の技術が詰め込まれている。
制服越しでも、その少女の豊富な胸は強調されており、見目も美しい少女を見て顔を赤らめている男子生徒も数多くいる。
しかしにこやかに周りを歩く生徒たちに微笑みかける少女には近づけるものはいない。
というのも、その少女はマリアローゼ・フィス・カインズといい、この国の第三王女という高貴なる身分であることも原因である。
王族のお姫様。それが、その少女である。
それに加え、マリアローゼの周りにはいつも複数の男たちが存在していた。
公爵家の長男、アイゼス・トール。
騎士団長の息子である、シラン・ワスア。
魔術師長の息子である、ルミダ・ミグ。
神童と呼ばれる侯爵家の養子である、ヒート・ウスラルチ。
この貴族たちの通うリィト学園の中でも有名な少年たちである。
マリアローゼは、いつも彼らの誰かと共にあった。高貴な者たちはいつもマリアローゼの周りに集まった。それは異性だけというわけではなかったが、この四人は少なからずいつも彼女の傍にいた。
「マリアローゼ様だ」
「マリアローゼ様、相変わらず美しい」
そしてマリアローゼは、そんな人気の少年たちを独り占めしておきながらも学園の人々に好かれていた。
何故と疑問に思うものもいるかもしれないが、マリアローゼはそういう少女だった。誰からも好かれ、誰からも愛される、そんな少女。
もちろん、マリアローゼに悪い感情を持っているものもいるが、それも少数である。
「アイゼス、私喉が渇いたわ」
一言マリアローゼがそう告げれば、公爵家の長男であるというのにアイゼスは一切嫌な顔もせずにマリアローゼのために飲み物を買いに行く。
マリアローゼの一言で、周りは動く。
それが当たり前であり、マリアローゼの言葉一つ聞き逃す事はまずない。
マリアローゼと周りにいつもいる四人の男は幼馴染である。そしてそれ以外にも時折マリアローゼの周りにいる男女の生徒たちはマリアローゼと昔から一緒に居る貴族たちである。
しかし、全員が全員、マリアローゼを優先する。
なぜかって、そういうものだからとしか言いようがない。本当にそういうものなのだ。それは、彼らにとって当たり前の事である。
カイザ国の王族・貴族の通うこの学園において、彼女たちは頂点であった。
いや、学園だけではない。
王宮に帰っても、彼女は特別だった。
上に四人の兄と、二人の姉が居る。王位継承権も低いマリアローゼだが、国王も、王妃も、側妃も、腹違いの兄と姉たちも、マリアローゼの事を可愛がっていた。
「ただいま帰りましたわ」
王族専用の馬車で王宮に帰宅したマリアローゼは、王宮の者たちに温かく迎え入れられる。
「おかえりなさいませ、マリアローゼ様」
「マリアローゼ様、おかえりなさい」
王宮に仕えるものたちだけではない。
「マリアローゼ、おかえり」
「マリアローゼ!」
王族たちだってそういってマリアローゼの帰宅を喜んで受け入れる。
「ただいま帰りましたわ、お兄様方」
にっこりとマリアローゼが笑いかけるだけでノックアウトである。
「マリアローゼは可愛いなぁ」
と、その顔をだらしなく緩ませる。
「ふふ、お兄様にそういってもらえると嬉しいですわ。ねぇ、お兄様」
マリアローゼは、笑う。
「お願いがありますわ。私欲しいものがあるんですの」
「なんだ? いってみろ」
「私は―――」
王宮に住まう王族たちだって、マリアローゼの願いを喜んでかなえようとする。
第三王女という立場でありながらも、マリアローゼは誰よりも影響力を持ち合わせていた。
マリアローゼ・フィス・カイザ。
誰よりも美しく、優れ、好かれ。
それゆえに彼女は至高の姫と呼ばれる。