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彼女はまさしく傾国の姫  作者: 池中織奈
姫の過去と現在
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3.王宮のこと

 カイザ国の王宮。

 煌びやかな上級社会の中心。

 高貴なる王族の住まう場所。

 その場所でも、マリアローゼ・フィス・カイザの事は噂されている。

 なぜなら彼女は『至高の姫』であるから。

 なぜなら彼女は愛されている姫であるから。

 美しく、優しい愛されるお姫様。

 彼女は何時でも何処でも中心に存在している。

 それもあって、学園の様子も王宮には伝えられていた。

 彼女の幼馴染の一人が転入生の傍にいることも。

 その転入生の少女が彼女の楽園を、崩そうとしていることも。






「やはり私の予感は間違っていなかったね。そもそも、マリアローゼの耳に転入生の話が前日に来た時点であれだったんだよ。あそこの学園長はダメだね」

 王太子殿下であるフィオス・フィス・カイザは報告書に目を通しながらもつぶやく。顔は優しい表情を、仮面を浮かべているが、その報告書が気に食わないといった様子だ。

「フィオス兄様、私がマリアローゼの学園に行きましょうか?」

 そう口にしたのは第二王子であるライ・フィス・カイザである。

「いや、特に必要はないだろう。それにしてもこの少女も何を考えているのだろうね。王族であり、私たちの愛する妹と敵対するような動きをしているのだろう? その時点でただの平民としてもおかしいとしか言えないね」

「そうですか。フィオス兄様がそういうなら……。それにしても王族の姫をおかしいなどと言っているみたいですから。マリアローゼの事をおかしいといっているその少女の方がよっぽどおかしいと思いますけどね」

 王は、国の一番の権力者であり、国を支配するもの。

 王族とは、その親族にして、高貴なるもの。

 それは常識である。王族は尊いものであり、それに逆らう事など許されない。

 この国では明確に格差が区切られている。王族、貴族、平民。その差は大きい。その分、王族や貴族には権力を行使する代わりにきちんとあることを求められる。横暴な権力者は、数の暴力に淘汰されるなんてことも歴史の中では多くあることだ。

「その通りだよ。下手すればその場で死刑されても文句はないだろうさ。この少女は周りにとがめられても自分の意見を曲げる事はないようだからね。それよりも、私たちは他にやることがあるさ」

「……そういえば、マリアローゼに手紙も届いたのですよね?」

「そうさ。そのこともある。我が国にとって重要な問題だからね。きちんとしなければならないさ」

 マリアローゼに届いた手紙は、カイザ国にとっても重要なものである。

「……私は反対ですけどね、マリアローゼのこと」

「はは、私たちが反対してもどうしようもないさ。今は私たちにとってマリアローゼは可愛い妹でしかない。でも、その件の始まりの時期、私たちはマリアローゼに関心がなかった。ならば、何も言えはしないだろ?」

 至高の姫は、昔は至高の姫ではなかった。

 誰にも顧みられる事もない少女。王宮に存在しているだけの姫。

 そういう扱いをしていたのは、他でもない彼らである。今の溺愛からは想像できないだろうが、そういうものなのだ。

「それは、そうですけど…」

「それに、マリアローゼ自身が望んでいるものだ。私たちが反対だなんて口にしたらマリアローゼに嫌われてしまうだろう?」

「……それは、嫌です」

「私だって嫌さ。マリアローゼが、お兄様と慕ってくれ、笑顔を向けてくれるという幸せを失いたくはないからね」

 フィオスはそういって笑った。

 王宮の中で王子たち二人はマリアローゼの事ばかり話している。

「それは当たり前です。……というか、それを思うとやっぱり反対なんですけど」

「マリアローゼの幸せのためだよ?」

「でも、マリアローゼが私たちから離れるのは嫌です」

「はは、それは仕方ないさ」

「……あいつらは離れないのに」

「それも仕方ない。私たちよりも先に、マリアローゼの味方になったのは彼らだよ。今のマリアローゼが居るのは、彼らのおかげともいえるって言ってただろう。本人も」

 彼らはずっと、彼女の事を話している。

 『至高の姫』と称されるマリアローゼ・フィス・カイザの事を。

「何故、私たちは彼らより先に手を差し伸べられなかったのでしょうか」

「私たちがマリアローゼを見ていなかったからだろう? 同じ場所に住んでいるのに、私たちはマリアローゼを捨て置いていた」

「……そう、だけど」

「私たちはマリアローゼを愛している。でもそんなマリアローゼが笑えるのはきっと彼らのおかげだろう? なら、私たちはそれを逆に感謝しなければならない」

 フィオスは一貫してそんな主張を続ける。

 捨て置かれたお姫様、それが至高の姫へと変わったのは何故なのか。

 家族であっても、血がつながっていてもすべてを知っているわけでもない。

 でもわかるのは、マリアローゼが信頼できるものと出会ったからこそ今の彼女があるということだ。

「この話はやめにしよう。それよりも――」

 そしてフィオスは話をきって、別の話題を振るのであった。






 王宮のこと。

 王宮で話される彼女。

 王宮での一番の話題である彼女。

 彼女は、王宮にとって重要な存在。




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