3.手紙
さて、マリアローゼ・フィス・カイザはその日王宮にいた。
王宮の自室の中に、信頼のおける侍女たちとともにのんびりと過ごしている。
窓の外を見れば、シランやミーレアンがお城の兵士たちとともに剣の鍛錬をしている。
マリアローゼの幼馴染たちはただ優秀なだけではない。その優秀さを磨くための努力も惜しまない。カイザ国の王宮で彼らは益々磨かれるのだ。
―――マリアローゼ・フィス・カイザの幼馴染として。
「二人とも頑張っているわね」
「皆様、マリアローゼ様のために必死なのですわ。他の皆様もそれぞれ学びに費やしておりますわ」
「私も、もっと頑張らなければね。彼らの頑張りに答えるためにも」
「本当にマリアローゼ様と幼馴染様方は仲がよろしいですね」
「自慢の幼馴染たちだもの。私、皆が大好きだもの」
そういってほほ笑むマリアローゼの顔は、幼馴染たちに対する誇りが見えた。
マリアローゼが嬉しそうに、そして美しくほほ笑むのを見て周りに侍っている侍女たちも笑みを零す。
マリアローゼが笑っている。
ただそれだけで至福であるというのは、マリアローゼ付き侍女たちの総意である。
「皆様もマリアローゼ様が大好きですわ」
「ふふ、知っているわ」
マリアローゼ・フィス・カイザは王族の姫。
そして幼馴染たちはカイザ国の貴族。
そういう立場だからこそ、出会いは引き合わせから始まった。お姫様の友達候補として王宮に集まった者たち。それが彼らである。
マリアローゼは眼下のシランとミーレアンを見つめながら、であったばかりの頃を思い出して口元を緩める。
「マリアローゼ様、どうなさいましたか?」
「ふふ、少し、皆とであった時の事を思い出していただけよ」
マリアローゼは侍女たちとそんな風に会話を交わす。どこまでも穏やかな空間がそこには広がっている。
そんなマリアローゼの部屋の扉が、ノックされる。
入ってきたのは、手紙を持った侍女。
「マリアローゼ様、お手紙が届いておりますわ」
「まぁ、届いたのね」
差し出された手紙を見て、マリアローゼは笑みを浮かべる。心の底から嬉しそうな笑みで、それを受け取り封を開ける。
その表情だけでもその手紙がどれだけマリアローゼにとって特別なものなのか見て取れるだろう。
侍女たちはマリアローゼが嬉しそうにほほ笑むのを見て、笑みを深くする。
至高の姫であるマリアローゼがただ笑ってくれるだけで彼らにとってみれば幸せなことなのである。
「ふふふ」
「マリアローゼ様、何が書かれていたのですか?」
「情勢が落ち着いたら会いに来てくださるそうですわ」
侍女の問いかけにマリアローゼは、そう告げる。そのお手紙を送ってきたものはすぐに会えるような位置にはいないのだろう。
会いに来てくれる、それだけでマリアローゼが嬉しそうにほほ笑むのだからその手紙の主はマリアローゼにとって親しいものであることが見て取れる。
「まぁ、それは国をあげて歓迎をしなければなりませんわね」
「それは素晴らしいことですわ!」
「それまでにもっと私自身磨かなければなりませんわ」
侍女たちの感嘆の声にマリアローゼはそう告げる。
マリアローゼは絶世の美少女である。その美しさは、女神と形容されることもあるほどのものだ。だが、マリアローゼ・フィス・カイザの頭の中には妥協の文字はない。
何事にも彼女は妥協しない。
自分が出来得る最大の努力をする。
だからこそ彼女は美しく、だからこそ彼女はあらゆる事が出来る。
「まぁ、今でも十分お美しいですわ」
「当然よ。でも、美しさに上限はないわ」
自分が美しいのは当然だと、堂々と言い切る。マリアローゼは自信に溢れている。
よっぽど鈍感なもののだと自分の見目の良さに気付かなかったり、美しさに気付いているものでもあまりにそれを誇示すると周りによく思われないと謙遜したりとするかもしれない。
だが、マリアローゼは一切、謙遜はしない。
磨き上げた自身が美しいのは当然であり、その当然の言葉を口にしているだけなのだ。
「それに見た目の美しさだけではなく、もっと様々なことを学ばなければならないわ」
「マリアローゼ様は本当に努力家でございますね」
「出来ないことが沢山あるのは嫌だもの。それに私が何かできるようになったら、皆ほめてくださるでしょう? 私はそれが嬉しくてやっているのもあるのよ。だから、貴方たちも遠慮なく私のことをほめたたえなさいね」
昔から仕えてくれている侍女たちに向かって、マリアローゼが微笑む。
上から目線の物言いであるが、それに気分を悪くするような侍女たちはこの場にはいない。
「ええ、マリアローゼ様」
「こんなに美しく努力家のマリアローゼ様をほめないわけがありませんわ」
親しい者達以外は、マリアローゼが妥協しない努力家だということは知らない。
「では、今から―――」
マリアローゼは手紙を見てやる気を一層だし、行動をし始める。
手紙。
マリアローゼ・フィス・カイザはその手紙に笑みを深くする。




