1.生徒会
その場所において、マリアローゼ・フィス・カイザの存在は絶対である。
カイザ国の至高の姫君。
誰よりも美しく、誰よりも気品のある。
学園の王者は、彼女である。
それは不変の事実であり、それは変わらないものである。
そもそも身分制度の確立しているこの国において、王族というものは高見の存在である。誰も犯すことのできない、まるで神のような存在。王族に逆らうことなど、人はまず犯さない。
そんなことをしてしまえば、待っているのは破滅のみというのを知っているから。
身分制度が絶対的に存在する国において、それは当然のことである。
王族とは、最も尊い存在であり、それに逆らったところでどうしようもないのは歴史が語っている。
マリアローゼ・フィス・カイザは王族の姫君である。
しかし、言ってしまえば彼女は第三王女である。先に生まれた王子殿下、王女殿下に比べて、国としての重要度は低い。
だが、彼女は誰よりも絶対的な存在としてその国に存在している。
その日、マリアローゼは学園に姿を見せなかった。
王族であるマリアローゼは王家の所要や自分の意思で学園に来ないことも時折ある。マリアローゼが学園にやってこない時、取り巻きたちは学園にいたり、いなかったりする。
マリアローゼの幼馴染たちは、王族ではないにしろ、この学園においては権力者である。
この学園の権力者は、マリアローゼ、その幼馴染、そして次にこの学園の生徒会と続いていく。
そんなわけで生徒会というのは、カーストのトップには立てない存在である。他国の学園を例に挙げてみると、カーストトップ者が、権力を有する生徒会に基本的に属する。それは王族として、貴族として、上に立つものとしての練習を兼ねてといった意味もある。
だが、マリアローゼもその幼馴染たちも生徒会には属していない。そかし、属していないにしてもマリアローゼは学園では絶対的な存在である。
さて、そんなカーストのトップには決して立てない生徒会の話をしよう。
「くそおおおお」
王族や貴族の生徒たちが通う学園であるため、この学園の生徒会室は無駄に豪華である。生徒会長の机に腰をかけて、声をあげているのは一人の少年である。
彼の名前はミラン・ルミダル。
ルミダル侯爵家の長男である。赤みがかった茶髪を持つ美男子である。
ミランは何においてもトップに立つことができないという少しかわいそうな存在である。身分といった面でいえば王族であるマリアローゼがおり、トップに立てない。生徒会長という権力は確かにあるものの、生徒たちにとってミランよりもマリアローゼのほうが人気である。もしミランが押し通そうとしたことがあったとしても、マリアローゼが否といえば誰も支持をせず、実行はできないだろう。
加えて見た目といった面でいってもそうである。確かにミランは美男子である。しかし、この学園にはマリアローゼの幼馴染の少年たちがいる。彼らに比べれば、ミランは普通である。
そして、成績や剣術などといった面でいってもマリアローゼたちにはかなわない。
よって、ミランは学園において永遠の二番手……いや、それすらも違う。三番手か四番手、もしくはもっと下という位置にしかいれないのである。
「ミラン様、また負けたのですか」
「…アイゼス様に勝てるわけがないでしょう」
生徒会会計の少年であるディーラー・カッラと、生徒会書記の少女であるチュルカ・ジェルの言葉である。
生徒会メンバーは生徒会会長、副会長、書記、会計、庶務の五名で、チュルカは唯一の女性である。
ミランがアイゼスたちに負けているのはいつものことである。
「次こそは、俺様は次こそは、勝ってみせる!!」
ミランはアイゼスたちのことをライバル視していた。しかし向こうからは相手にされていない。
学園内では相手にされていないのに一生懸命に彼らに突っかかるミランのことがかわいいと密かに噂になっているが、そんなこと本人はもちろん知るはずもない。
「そうだ、ミラン様、聞きましたか。スザクのこと」
「ん? どうかしたのか?」
「スザクが転入生の少女を気に入ったらしいですよ。珍しいですよね」
「そうなのか?」
ディーラーの言葉にミランは驚いた様子である。
如何にアイゼスたちに勝つかを常に考えているミランはスザクが転入生の少女を気に入ったということも知らなかったようだ。
「まぁ、俺様にはどうでもいいな! それよりも次にどうやって奴らを打ち負かすかが重要だ! はははっは、俺様が頂点に立つのだ」
一度も勝てたことがないというのに、次はかつと気合を入れて高笑いをしているミランは残念な美形である。
「ミラン様は相変わらずですね。まぁ、いいですわ。それよりもディーラー、その少女はマリアローゼ様の害になるのでしょうか?」
「……どうだろう? もともと平民という話だから何も起こさなければいいのだが」
高笑いをする生徒会の隣で二人は転入生のことを話すのであった。
生徒会長、ミラン・ルミダル。
勝手にライバル視し、勝手に突っかかり、しかし、相手にされていないそんな美男子。




