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魔女っ子と蛇-4 緑橋ルイ視点



「宮崎! ルイ! 大丈夫か!?」


 ナナが一番に駆け付けたけど、ぼくは放心してしまい、なにも答えられなかった。


「怪我はないよ」


 宮崎さんは冷静な声で答える。


「教室に戻って自習! 風紀委員は残れ! ほら早く!」


 雪島先生が声を上げて、生徒達を避難させた。当然授業は中止だ。

 ぼくと宮崎さん、そしてナナも残されて、他の生徒が体育館を出ていく。その中に、橋本さんもいる。

心配している橋本さんに、ぼくはなんとか手を振り、大丈夫だと伝えた。

ほっとした様子で、橋本さん体育館を出ていく。


「風紀委員はカーテン閉めて。黒巣はライトのチェック」

「えー」


 1年生の風紀委員は、すぐに一般生徒に見られないようにカーテンを閉めに行く。ナナは嫌々そうな反応をしながらも、カーテンが閉まると黒い翼を広げた。

そして飛んで、体育館のライトが落ちないかを確認し始める。


「あ、あの、宮崎さん……ありがとうございました」

「いいの。ネジが外れるような音がしたから、振り向いたら落ちたから……。少し速く動いてしまったのですが」

「大した距離じゃないし、ライトが落ちた衝撃で見ていても覚えてないはずよ。大丈夫。助けたのは正しい判断よ。よくやった」


 宮崎さんは言いながらネジを1つ拾う。雪島先生に謝罪するけど、今回はセーフ。

 宮崎さんの人間離れしたスピードを微かに見られてしまっても、ライトが落ちた光景を目にしたら忘れてしまうはず。

ぼくがライトに押し潰されるよりはましだった。


「雪島せーんせぇ。他に落ちそうなライトはありませんよー」


 バサバサ、と翼を動かしながら、ナナがぼくと宮崎さんの間の上に留まる。


「運が悪いな、ルイ」

「う、うん……宮崎さんがいなきゃ、死んでたかも」

「俺達は丈夫だから死なねーよ」


 青ざめて俯くと、ナナはくしゃくしゃと頭を撫でてきた。


「……運が悪かったわけじゃないと思う」


 宮崎さんがネジを見つめて言うから、ぼく達は注目した。


「……キュルキュルって変な音がしたから、振り返ったの。ネジを外す音だったんだと思う」


 聴覚が優れた宮崎さんは、ネジが外れる音が聞こえた。まるでそれは。


「は? 俺達の頭上で誰かネジを外して、ルイの上に落としたっていうのかよ?」

「空飛ぶ透明なモンスターはいる?」

「……いないな」


 ナナは考えたけれど、首を振る。


「だいたい、モンスターがいたら、宮崎さんやリュシアンが感知するだろ」


 モンスターが侵入したとは考えにくい。

でも、ぼくは犯人に心当たりがあった。


「あ、あのっ……魔女じゃ……?」


 確信はないけれど、ぼくは魔女の転入生のことを言う。


「あの転入生? 魔女なら気付かれずに落とせるけれど……彼女に狙われる心当たりがあるの?」

「う、うん……理由はわからないけど、ぼくを睨むんだ……ね? ナナ」


 宮崎さんが首を傾げるから、ナナにも転入生はぼくに敵意を持っている様子だと言ってもらいたかった。

 でも黒い羽根を撒き散らしながら翼を消して足をついたナナは首を傾げる。


「は? 転入生がいつ睨んだんだよ?」

「えっ、ずっとぼくを睨んでたよね?」

「いや、知らねーけど」

「で、でもっ、橋本さんも言ってたし……」

「見間違いじゃね? 眼鏡かけてるし、見えなくてこうやって目を凝らしてただけとか」


 ナナが言うような感じではない。まるで憎むような眼差しだった。

 考え事をしていたぼくならともかく、ナナが気付かないなんて……。


「魔女かもしれないって言うから、授業中何度か見てたけど睨んでいる様子はなかったわよ?」


 雪島先生も、転校生の敵意は感じなかったらしい。更にはクラスメイトの風紀委員も、睨んでいなかったと言う。

 ぼくと橋本さんの勘違い?

 慌てて宮崎さんを見るけれど、宮崎さんは肩を竦めて「今日は転校生の顔を見てないから」とわからないと言った。


「恋人が魔女だから、自意識過剰になってるんじゃないの?」


 ぼくの自意識過剰……。

 ナナは言うと、宮崎さんの肩に腕を回して、雪島先生の許可を得てから一緒に体育館を出た。

 結局、事故と片付けられた。



 教室に戻ったら、やっぱり彼女にギロリと睨まれた。眼鏡の奥から、まるで獲物を狙うライオンみたいに鋭くぼくを見ている。

 ナナの服を引っ張ったけど、ナナは転校生を見ることなく、ただぼくを見て首を傾げるだけだった。

 休み時間に、橋本さんがぼくの机まで来て、大丈夫かと話しかけてくれた。


「ビックリしたよね……緑橋くんが無事でよかった」

「あ、ありがとう……心配してくれて」


 前の席に座って、ぼくの手を握ると、橋本さんは微笑んだ。


「音恋ちゃん、わたしのすぐ隣にいたはずなのに……俊敏だね。怪我なくてよかった」

「う、うん」


 ちょっと焦りながら頷く。

 宮崎さんが人間離れした動きをしたと気付くのは、隣にいた橋本さんくらい。橋本さんも気付かなかったみたいだから、きっと大丈夫だろう。


「そうだ、今日は部活終わるまで待ってくれないかな? ほら、緑橋くんの台本で演技やってみようって話をしたでしょう? それを話ながら皆で帰ろう」

「え、ああ……宮崎さん達と……うん、いいよ。でも、ぼくの書いたものでいいのかな? 演劇部の皆には役不足だよね……」

「そんなことないよ、皆楽しみだって」


 宮崎さん、園部くん、七瀬さんの演劇部。

 ぼくは日記を書く習慣があって、弟達に物語を読み聞かせるために書いたこともある。

 子ども向けの話を、演技力の高い宮崎さん達にやってもらうなんて、ちょっと申し訳ない。けれど、皆で仲良く遊んでみるだけだと言い聞かせて、気楽になることにした。


「……あの、橋本さん」

「はい?」

「転入生は、ぼくを……睨んでいるよね?」

「……」


 橋本さんに問うと、ちらりと転入生の方に目を向ける。それから苦笑を溢して、頷いて肯定した。

 やっぱり、ぼくに敵意を露にしているよね。

 休み時間にナナに言ったのだけれど、ナナはそうは見えないって信じてくれなかった。


 休み時間を使って、生徒会と風紀委員は魔女探しをした。

 生徒会は、橙先輩と桃塚先輩と赤神先輩。

 風紀委員は、宮崎さんとリュシアン。

 手分けして、生徒会が用意したアンケートを書いてもらい、回収しながら彼らの嗅覚で甘い香りがする生徒を探す。


「むー。なんで宮崎はあっちなんだよ」


 宮崎さんが別行動だから、ナナはむくれて、ぼくの肩に顎を乗せた。


「ナナ……妬いてないで、先輩方のフォローしなきゃ」

「うるせ。お前だってカノジョのことで悩んでるくせに」

「うっ」


 こっそりと話してたけど、赤神先輩に睨まれてしまい、ぼくもナナも回収したアンケートを整える。

 大体、生徒の半分を確認を終えたけれど、その中に魔女の匂いの生徒は見付からなかった。

 残りの生徒の確認は、金曜日である明日となった。

 放課後、ナナと帰ろうと誘われたけれど、橋本さんとの約束があると話したら。


「えっ、俺聞いてない!」

「え、だって……演劇部だから」

「お前も演劇部じゃないじゃん! そこはトリプルデートでいいじゃん!」

「と、トリプル? あ、ああそっか……」


 ナナが加わるのはおかしいと思ったけど、前にこのメンバーで遊園地に遊びにいったことを思い出す。今じゃあ、3組のカップル。

ナナは仲間外れになる。


「ふふ。宮崎さんから、引き裂かれているみたいだね? 黒巣くん」


 あとから生徒会から出てきたリュシアンが、クスクス笑いながらボク達を横切った。


「緑橋くん関連で」


 付け加えられたそれを聞き、ナナはぼくを横目でじろりと見る。

 あ、確かに魔女探しはぼくがきっかけのようなものだし……否定できなくて苦笑を漏らす。


「そうだ。明日の夜、宮崎さんを借りるよ。アメデオの就職祝いに付き合ってもらう約束をしているから」


 リュシアンは笑いながら、報告した。ナナが嫉妬するとわかってて言っているんだ。

 思惑通り、ナナは眉間にシワを深く寄せて、目を細めてリュシアンを睨み付けた。リュシアンはその反応を楽しんで、廊下を歩き去った。


「俺もまぜろ!」

「ええっ……」


 ぼくを振り向くと、ナナは橋本さん達との約束に参加させろと言ってきた。


「ナナも演技に参加するの? たぶん、園部くんと七瀬さんに参加条件だって言われると思うけど」

「うぐっ……し、しかたねぇ……それは」


 ぼくは台本を作る役で、宮崎さん達は演じる。ナナも当然、やるように強制されるはず。特に七瀬さん。

 ただでさえ演技なんて恥ずかしいのに、演劇部の部員の中で演じるのはハードルが高過ぎる。

 でも、それよりも、宮崎さんといたいみたい。なら、ぼくから話してあげよう。

 少しだけ、部活が終わるのを待つ。出てきた橋本さん達に、ナナの参加を話した。予想通り、七瀬さん達が演技の参加を条件だと突き付けた。


「ちゃんと演じなきゃ、だめなんだからねー」

「わあってるよ!」


 ニヤニヤする七瀬さんに、ナナはむすっとしながらも声を上げる。

そんなナナの隣を歩く宮崎さんが言った。


「黒巣くんがやってくれるなら、もっと楽しくなりそうだね。楽しみ。いつやる?」


 宮崎さんがほんわりと微笑んだから、それを見たナナの表情が柔らかくなる。

 ぼくが台本を書きあげるまで日にちは決まらないから、話は場所になり、橋本さん達で言い合いながら考えて、校門を出た。


「緑橋くん」


 つん、と背中をつつかれたかと思えば、宮崎さん。

ぼく達は、先を歩く。


「大丈夫?」

「え、あ、うん……」


 首を傾げる宮崎さんは、体育館の事故のことを心配してくれているとわかり、ぼくは力なくだけど笑って見せた。


「あ、あのね、転入生のことなんだけどね」


 思い出して、ぼくは転入生に睨まれていることを話そうとした。ナナが気付いてくれないけど。

その時だった。

 ぼく達を横切ろうとしたトラックが、歩道に乗り込んでぼくと宮崎さんに突っ込んだ。


 ガツン!!


 ぎょっと目を見開いたぼくの腕を引っ張り、宮崎さんが下がってくれたおかげで、トラックと住宅の壁に挟まらずに済んだ。

 壁は抉れた。それを見て、血の気が引いてぼくは青ざめる。

 もしも、避けられなかったら……ぺしゃんこに……。


「だ、大丈夫かい!? 君達!」

「私達は大丈夫ですが……血が出てますよ」

「す、すまない! ハンドルが急にとられて、本当に本当にすまないっ!」


 トラックの窓から運転手の男の人が、オロオロしながらも謝罪した。

 ぼくは呆然としていたけれど、宮崎さんが冷静に対処した。警察と救急車を呼び、運転手には安静にするように言う。


「み、緑橋くん……」

「あ……」


 腕を掴まれたかと思えば、橋本さんがぼくを見上げてきた。不安げな涙目。


「おいっ! ルイ!!」


 そこで、ナナが声を上げた。見ると、宮崎さんを引っ張って離れる。


「当分、宮崎に近付くな!!」

「え、ええっ!?」


 ギロリとぼくを敵みたいに睨むナナ。

 いきなりでわけがわからなかったけど、体育館の事故とこのトラックの事故。

 下手をしたら、宮崎さんが巻き込まれて怪我したかもしれない。

 事故に続けて遭った運の悪いぼくから、恋人の宮崎さんを離したいんだ。園部くんも、七瀬さんを自分の元に抱き寄せた。


「黒巣くん……そんな言い方しなくても」

「絶対に近付くなよ!!」


 宮崎さんが言うけど、ナナは譲らない。

 ぼくの運が良くなるまで、遊ぶことは延期しようと話になり、来た警察に事故について話してから、解散した。




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