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魅惑の夜会ー9



「はぁああー……」


 庭園の柵に腰を下ろした黒巣は、長い長い溜め息をついた。

 アリシアンは黒巣に伝言を頼むと、颯爽と帰った。

ハリーはアメデオとリュシアンに捕まって質問攻めを受けるウィルフレッドを待っている。

 彼らから離れた場所で休む黒巣のそばに、音恋は立って待つ。


「……なんか、気に入れられてたな、宮崎。吸血鬼を任せたって、言ってたし」

「半吸血鬼で、鴉天狗と交際しているからだよ。あとリュシアンの友人だから」


 アリシアンは学園に入学させる予定の吸血鬼達を、音恋に任せると告げて消えた。

アリシアンに気に入られていることは確かだ。


「はぁああー……教師一人だけでも桃塚先輩、胃に穴が空きそうって青ざめてたのに……。……俺が生徒会長のうちに何人もの吸血鬼が学園にっ……」


 また長い長い溜め息をついた黒巣は、これから押し寄せるであろう疲労を想像して口を押さえた。

 そもそも純血の吸血鬼が学園に通うなど、リュシアンが初めてだった。それなのに、複数の純血の吸血鬼が入学する。強制的にだ。

 力が強い故に、他のモンスターも人間も見下す純血の吸血鬼。

学園のモンスターをまとめなくてはいけない現役生徒会長の黒巣には荷が重すぎる。


「私もいるから……一緒に頑張ろう?」


 そんな黒巣の両手を取り、音恋は握り締めた。

 音恋は黒巣の生徒会選挙を手伝った。これからも生徒会でなくとも、黒巣を支えるつもりだ。


「……ありがと」


 音恋がそばにいてくれる。それだけで頑張れると思えた黒巣は、素直な気持ちを伝えた。

音恋はただ、微笑む。


「……」


 そのままなにも言わない音恋を見上げて、黒巣は気付く。音恋と踊る約束をしていて、音恋はそれを待っている。

 もう目的は果たされたようなものだ。次は踊る約束を果たすだけ。

 少しの間、俯いて頬を掻いたあと黒巣は、音恋の手を握ったまま立ち上がった。


「……俺と、踊って」


 ほんの少し恥ずかしさと戦いながら、音恋の目を見つめて告げる。

鮮やかな青いロングドレスと白いファーのボレロ姿の音恋は、そっと微笑んで頷いた。

 パーティー会場から漏れる音楽が静かに響く、美しい夜の庭園の中で音恋と黒巣は見つめ合いながら踊る。

上手いと自覚できない黒巣は不器用ながらも、音恋をリードする。音恋は気にすることなく優しい眼差しで微笑む。

 時折落ちる黒い羽根が二人に合わせるように舞った。

それは夜の庭園の中に溶けて消える。

 見られていることも知らず、鴉天狗の少年と吸血鬼の少女は、ただ互いを見つめて楽しげに笑い合った。




 翌朝。

踊り疲れた音恋と黒巣は着替えもせずに、ホテルのベッドで寄り添って寝ていた。

朝陽に照らされても、二人は規則正しい寝息を立て続ける。

 そんな二人を椅子に座ってガムを噛みながら眺めているのは、サングラスをかけているハリー。

 ダークブラウンのライダージャケットとダークブルーとホワイトのボーダーを着ている。白いズボンをインしてダークブラウンのロングブーツを履いた足を組んでいた。

口の中でクチャクチャと噛んでいたガムを、ぷくーと大きく膨らませる。白っぽいガムは限界まで膨らむと。


  パンッ!


破裂音を響かせて割れた。

銃声を聞き慣れてしまった黒巣と音恋は身の危険を感じて飛び起きる。


「Hiya!」


 そんな二人に、ハリーはサングラスを外して笑顔で挨拶した。


「ハリー、さん」

「No! オレのことはハリーでいいよ、音恋ちゃん」

「な、なんでここにっ」


 ハリーと確認し、音恋は強張った肩を竦めて安心するが、黒巣はハリーがいることに戸惑う。


「リュシアンとアメデオは、"街"に行っちゃったんだ。生憎"街"に君達をまだ招待できない、吸血鬼とオレの一族しか出入りしてないからさ。吸血鬼達の方も来客には慣れてないんで、許してね。代わりとなんだけど、オレが二人の護衛を兼ねて、ロンドンを案内するんでよろしくー!」


 へらへらと笑ってハリーは言う。

"街"とは、アリシアンが吸血鬼カップルが穏やかに暮らせるように守っている場所を差す。

 なにも言わず、リュシアンとアメデオは行ってしまったようだ。

「そのまま戻って来なきゃいいのに」と黒巣は呟いた。


「てか、護衛って……なんでアンタが? 華奢な身体でモンスターの護衛をするなんてよく言うな」


 音恋に馴れ馴れしいハリーを警戒心剥き出しで黒巣は睨む。白人らしく身長が高く足の長いハリーが憎たらしい。


「伊達に始祖の吸血鬼に寵愛されてないぜ? 他のモンスターから吸血鬼を守って来たんだ。安心しろよ」


 ニヤリと強気に笑うと、ハリーは音恋に向かってウィンクした。


「オレ、笹川仁について聞きたいからさ。教えて? ね、れ、ん、ちゃんっ!」


 にっこりと綺麗な顔で笑いかけるハリーから目を逸らし、音恋と黒巣は顔を合わせる。

 アメデオ達を置いて帰る、という選択肢はない。せっかくロンドンに来たのだ、ホテルの中に一日いるのももったいない。

 仕方なく笹川仁について聞き出されながらも、ロンドンを案内してもらうことにした。

 ハリーが勧める雑貨店やフード店も回り味わう。ハリーは何度も音恋にベタベタしたため、黒巣が怒ったが音恋は気にしなかった。


「宮崎! なんでベタベタさせるんだよ!」

「え、だって……」

「音恋ちゃん! Un sfgreto!」


 賑やかなロンドン観光ができたと、音恋はそんな感想を抱く。

 その後、帰国のために乗った自家用ジェット機の中で、アメデオが黒巣がロンドン滞在中に宮崎と呼んだ数だけ音恋にキスをすると言い出したため、機体は激しく揺れたのだった。





ロンドン旅行、完。


20141229

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