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魅惑の夜会ー3 黒巣漆視点



 ホテルの一室の中は、俺のためにエアコンがつけられて暖かった。

最上階の部屋は一番高いらしく、カーペットからベッドまで高級感が駄々漏れしている。生活感もなくて、落ち着かない。

 夕暮れが一番綺麗な場所を探していたら、唐突にリュシアンとアメデオが現れてここに連れてこられた。初デートはおしまいだ。

 現在寝室では、宮崎はまた不機嫌に戻っている。今夜の吸血鬼の夜会で、宮崎が着るドレスをリュシアンとアメデオが選んでいるせいだと思う。


「先ずは恋人の意見を聞こう、漆くん?」


 リュシアンが椅子に座る俺の意見を求めてきた。

いや、先ずは本人の意見だろ。


「……茜色、とか」


 宮崎を気にしながら言うが、リュシアンはオッドアイを鋭く細めて呆れた。


「だから、文化祭と同じ色を選ばないでくれ。赤に執着しすぎだよ」


 宮崎にも言ったことを俺に言うと、やれやれとリュシアンは首を振る。すごく俺と宮崎を見下している目付きだ。

 赤系のドレスは却下らしい。文化祭で着た赤いドレスは、強烈なほど素敵だったのに……。


「まぁ、恋ちゃんには赤が似合うけどねー。今回は別のにしようよ」

「なんと言っても、半吸血鬼である恋ちゃんのデビューだからね」


 元はアメデオがあげたドレスだと思い出すと、ちょっと嫌になる。

 つまりは赤以外のドレスを宮崎に着てもらって、夜会デビューをさせたいらしい。

二人はご機嫌だが、宮崎は口を閉じて静かに怒っていた。


「とりあえず、白にしようか! これ着てね!」


 アメデオは一着の白いドレスを宮崎に渡すと、リュシアンと一緒に部屋を出た。

俺も遅れて部屋を出ようとしたのだが、押しても扉は開かない。びくともしなかった。

 バカ力の吸血鬼どもが押さえている。宮崎が着替えるのに出るなってか!?


「っ!?」


 宮崎に文句言おうと振り返ると、宮崎は既に着替え始めていた。

咄嗟に顔を背けたら、扉に額をぶつける。


「恋人なので、ドレスを着る手伝いをしてあげてね、漆くん」

「恋人だから、背中のファスナーをあげてね、なぁなぁくーん」

「アンタらなにがしたいんだよっ!?」


 扉越しにリュシアンとアメデオが、ふざけたことを言う。

 面白がっているのか!? 面白くないから!


「宮崎も! 俺がいるのに、ぬ、脱ぐな」

「あーっ!! 今恋ちゃんを苗字で呼んだね! 罰として、恋ちゃんにチューします!」

「絶対に入るなっ!!!」


 うっかり禁止されていた呼び方をしてしまい、アメデオが宮崎にキスするために扉を開けようとしたため、俺は全力で扉を押さえた。

 着替え中の恋人に、キスされてたまるかっ!!


「大丈夫、漆くん。シルバー持ってるから。返り討ちにするわ」


 着替えながら宮崎が静かに言うから、俺だけじゃなく扉の向こうのアメデオとリュシアンまで息を止める。

 つ、ついに……宮崎が手を出すのか……こえぇ……。頼むからアメデオ、もう宮崎を怒らせないでくれ。


「漆くん。ファスナーをお願い」


 思わず、ビクリと震える。躊躇したあと、振り返ってみた。

 ベッドの前には、白いドレスを着た宮崎が背を向けて立っている。百合の花を逆さにしたみたいなスカートは膝丈で、宮崎の白い素足がよく見えた。

白をよく映える長い黒髪を退かして俺に見せている背中もしかり。純白のドレスはまるで……。

 そこまで思考して、止める。意識してしまう前に、ただファスナーを上げることだけを考えた。


「……えっと……」

「?」


 歩み寄りながら、口を開く。なんて言おう。

あまり露出した肌を直視しないようにファスナーを上げれば、宮崎は髪を下ろして俺を振り返った。


「どう?」

「……どうって……まー……えっと……可愛いけど」


 感想を求められて、俺は小さく言う。白いドレスも、ありだと思う。

 なんか、ほんと、可愛い。

黒い瞳と黒い髪の宮崎が、白い白いドレスを着ている。


「確かに可愛いけど、幼く見えてしまうね。そのドレスは却下だ」


 リュシアンの声がクリアに聞こえると思えば、二人が扉を開けて戻ってきた。

 ……入っていいって、言ってないだろ。暴君どもめ。


「お人形みたいでキュートだけどねー。ただでさえ色気が足りない恋ちゃんには、幼さを強調する白はだめだね」

「……」


 アメデオが言いながらベッドに置いたドレスの山を漁り出す。

 なんで宮崎の気に障ることを言うんだよ、アメデオ! 十分宮崎は可愛いし色気もあるだろ!


「夜会に参加するなら妖艶なドレスにしよう。そのドレスは他の機会にぜひ着てみせて」


 それは俺がアメデオを睨んでいる間にやられた。

リュシアンが宮崎の頬にキスをしたのだ。

 宮崎はリュシアンをきょとんとしたように丸めた目でみたが、怒った素振りは見せずにウエストを気にし始める。


「オレがするって言ったのに、なんでリューくんがすんだよ!?」

「さて、次はこのパープルのドレスを着てみてくれ」


 アメデオが怒り出すが、リュシアンは相手にすることなく、宮崎に紫のドレスを渡した。

二人がまた部屋を出る。

 宮崎はまた髪を上げると、ファスナーを下ろしてもらおうと俺に背を向けた。


「怒れよ!」


 フリーズしていた俺は、思わず声を上げてしまい、宮崎はギョッとする。


「まじで怒れよ! キスされたら怒れよ!」

「……ごめんなさい。あまりにもさらりとするから……気に留めなかった」

「流されるなよ!」


 確かに俺も一瞬流しそうになるくらい、さりげなくだったけども!

 俺は手を伸ばして、宮崎の頬を親指で拭う。


「吸血鬼のキスはマーキングも同じだろ! 許すなよ!」

「ん。ごめんね……」


 宮崎は焦った様子もなく、俺に頬を拭かれている。なんでこう、冷静沈着なんだろう……俺の恋人。

 俺だけ疲れきって、ファスナーを下ろしてあげてから、扉と向き合って待機。

 やっぱり扉は暴君どもが押さえていて、俺は出れない……。なにがしたいんだよ。


「……漆くん。これは……なしだよね」

「ん? 終わったか」


 宮崎が声をかけるから振り返る。

紫のドレスを着た宮崎は、何故か胸元を隠すように腕を置いていた。

 スカートは長いけれど、Vの字にパックリと露出したドレスみたいで、宮崎の胸の膨らみがちらりと見えてしまい俺は固まった。


「うわ、恋ちゃん、セクシー!」

「んな!?」


 アメデオが入ってくるなり、ドサリと宮崎をベッドに押し倒してダイブする。

 後先考えず、俺はアメデオを風でぶっ飛ばして宮崎から離した。壁に叩き付ける勢いの風だったのに、アメデオはその壁に着地。

 蜘蛛みたいに壁に張り付いたアメデオが、ニヤリと笑みを深めた。翡翠の瞳は、捕食者の鋭い光を帯びている。

 ゾクリと恐怖が突き抜けた。

 暴君の本気を、忘れていた。吸血鬼の怖さって、やつ。

倍返しなんてされたら、俺は死ぬっ……!


「やるのー? 漆くん。……やってやるよ!」

「っ!!」


 翼を出して逃げようと思った瞬間に、もうアメデオが飛び掛かってきた。

 すると襟が掴まれ、引っ張られる。かと思えば、ベッドに放り込まれた。

 セクシーすぎるドレスを着ている宮崎の上。宮崎は相変わらず動揺していないが、俺はフリーズしてしまう。


「やめなさい。風を吹き付けられたくらいで。そのパープルのドレスでは背伸びをしすぎていて、品に欠けてしまう。恋ちゃん、次はその漆くんの手が置かれているブルーのドレスを着てみて」

「えー、黒は? 黒にしようよ」

「黒は取っておくって、先話したでしょ」


 リュシアンの声。顔を向けてみれば、アメデオの首を掴んだリュシアンが部屋を出ようともう歩いていた。

自分の手を見れば、鮮やかな青色のドレス。これか。

 パタン、と扉が閉められた。真下の宮崎と目が合い、固まる。

 タイミング……いつ、退くタイミング……逃した。


「……」

「……えっと」


 じっと真っ直ぐに見上げられて、いたたまれなくなった俺はゆっくりと上から退く。

 ベッドからも降りて扉に手をかけたが、開かなかった。またかよ……。


「はぁ……疲れる」


 暴君達の相手、まじ疲れる。溜め息をついて、扉に額を押し付けた。


「……宮崎もなんでそう、付き合ってられるわけ?」


 扉の向こうに暴君達がいるとわかっているにも関わらず、うっかり言ってしまう。


「……誰かと過ごすって、なにか犠牲になるものでしょ。性格の違いとか、意見の違いとか、我慢すべきことは少なからず起こるでしょ。彼らの場合、その犠牲が大きすぎるだけ」

「犠牲って……」


 淡々と言う宮崎が、犠牲って言葉を使うとすごく怖いんだが。


「彼らに振り回されることが、心底嫌ならそう言うし絶交する」


 ガタン、と微かに扉が揺れた。……絶交するって台詞だけで暴君達が動揺してる。


「でもしないのだから、一緒にいたいのだと思う。誰かと過ごす時間って、彼らにとってはとても貴重なことだし、私と過ごしたいと思ってくれているのなら嬉しさも感じるわ」


 もや、と嫉妬がわく。

まぁ、宮崎は嫌なことははっきり嫌だと言うからな……。


「傲慢で力も強い彼らを怖がるのもわかるけど、そう怖がることに疲れなくてもいいよ。怪我させることだけはしないわ。漆くんに怪我させたら、その時点で絶交する」

「お、おう……」


 その点の心配していないみたいだ。

 ……そう言えば、俺は両方に殺しかけられたんだっけか……。本当にその点は丸くなったよな。


「終わったよ」

「ん?」


 着替えが終わったと言うから、振り返る。

 今回のドレスは、首の後ろでリボンを結んで着るタイプみたいだ。長いスカートのドレスは、鮮やかな青色。

 宮崎は髪を退かして背を向ける。これも背中が露出するタイプだ。


「……どう?」

「あ……」


 それはもう、綺麗としか言いようがない。でも言葉が出なかった。

文化祭の時と同じだ。

綺麗な宮崎に見惚れてしまう。


「美しいよ」


 リュシアンの声が真横から聞こえたかと思えば、リュシアンが手を伸ばして宮崎の頬を撫でた。

 先を、越されたっ……!


「恋ちゃん、綺麗だぁ。押し倒していい?」

「だめです」


 アメデオも宮崎の目の前に立っていた。心なしか、嬉しそうにニコニコしている……。


「さて、飾りつけはアメくんに任せて。次は漆くん」

「え、俺も!?」

「当然」

「ちょっ、待っ」


 リュシアンが俺の襟をまた掴んだ。そのまま部屋を引き摺られるように連れ出されてしまう。

 宮崎とアメデオを二人きりにするなよ!!




20140904

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