転生少女
漆黒鴉学園には、モンスターの血を継いだ生徒が通っている。生徒会は皆がそう。風紀委員は監視役でハンターの見習い。密かに共存している。
私はそこの高等部に入学式の最中に、前世を思い出しました。
前世は大好きな乙女ゲームをしている最中に、吐血をして息を絶えた。病弱故に学校にまともに通えず、ベッドの上にいた私の楽しみは乙女ゲームや勉強だけ。けれども、大好きな乙女ゲーム『漆黒鴉学園』の影響で、頑張って生きた。少しは学生生活を楽しもうと努力をして、そして無理がきて息絶えた。
神様はそんな私の前世に感銘を受けて、『漆黒鴉学園』の世界を作って、私をそこに転生させた。
多忙な神様はうっかり間違えて、脇役の宮崎音恋にしてしまったようだけれど、乙女ゲームのようなハッピーエンドを迎えてほしいと願った。
私はそんなこと関係なく、ただ長生きして普通に生きたいと望んだ。
それでも、ヒロインである姫宮桜子とは親友になった。前世ではまともに友だちもできなかったから、初めての親友。必然のように乙女ゲームの攻略対象者とも関わっていった。
私のシナリオにない言動が原因で、シナリオのイベントが私に発生して、私が生徒会長の桃塚先輩に想いを寄せていた女子生徒に嫌がらせを受けてしまった。さらには、ハンターに追われる純血の吸血鬼に拉致されてしまう始末。彼が気まぐれに取り付けた見合いを、桃塚先輩に恋人のふりをしてもらって両親を通して断ったことで、逆に興味を増してしまった彼がわざわざ私の元まで来てしまった。
けれども、元最強のハンターの笹川仁先生の指揮で、生徒会も風紀委員も命懸けで私を救ってくれました。
吸血鬼の名前は、アメデオ・アルーノ。三百年を生きて、愛を求めて悪い方に足掻いた吸血鬼だった。愛されないのならば、一思いに殺されたがってハンターに挑発していた。今回も、その一環だった。
吸血鬼を殺す武器、銀の短剣。自己治癒のある血を巡らせる心臓を、再生不可能にさせる仕込みがある最強の武器。それを刺したのは、私だった。
もがき苦しんで生きてきたアメデオが、最後に満足したような笑みで倒れてしまったものだから、私はトドメを刺すことを拒んだ。柄部分の鍵を回せば、アメデオの心臓が破壊される。短剣を刺したままなら眠ったように動かない。アメデオは、このままにすることになった。鍵は私が持つことが許された。
イレギュラーは、そこまででは止まらなかった。
アメデオの友人であり、ゲームの悪役のヴィンス先生は、私に想いを寄せている。本来は人間の恋人を亡くしてしまってから人間と馴れ合わなかったのに、私と親しくなるために、教師になって担任になった純血の吸血鬼。
復讐を目論む東間紫織さんが、アメデオとヴィンス先生を一網打尽を虎視眈々を待っていた。
口裏を合わせて証拠も隠滅して、いつ東間さんが来ても大丈夫のように準備をした。それでも彼女が来ることはなく、夏休みを迎えた。
アメデオの一件で、彼らとより距離が縮まった。
私も、もう楽しむことにした。シナリオのような貴重な体験をしっかり味わうことに決めました。
夏休みは、一番好きなイベントがあった。
それは最期の時にもプレイしていたもの。皆で山の中の別荘に泊まって、川で遊んだりバーベキューやキャンプをする。私には前世でも縁がなくって憧れていた。キラキラと眩しくって、楽しい楽しい最高の夏休みの思い出になりました。
このまま不穏なイベントが起きることなく、二学期を迎えるかと思っていたのだけれど、告白をされた。
恋人のふりを続けていた桃塚先輩に、本物の恋人になりたいのだと想いを告げられた。
それは嬉しいことだったけれども、恋人のふりをお願いするほど頼りにしていて、毎朝寮のラウンジで肩を並べて食事をする仲だったのに、気づきもしなかった。家族のようで、兄のように思っていたし、そうだと言ってしまったこともある。傷つけてしまったのかと、自己嫌悪に陥ってしまった。
ヴィンス先生にも愛していますと告げられて、考えてほしいと言われていた。
悩みは演劇部の練習に影響が出てしまい、スランプになってしまった。文化祭の舞台で主役をもらったのに、迷惑をかけてしまい、その罪悪感から体調も崩れてしまった。
なんとか心の整理をして立ち直らなくては……そう思っていたら、もう一人、想いを寄せている人を見つけてしまった。
鴉天狗の孫、生徒会庶務の黒巣漆くん。
彼は神様に私がハッピーエンドに導くように手助けをするように頼まれて、唯一事情を知っている。初めは反発し合っていたけれど、不器用ながらにも黒巣くんは助けてくれた。
アメデオの時だって、私に手を差し出してくれた。絶対に助けてやると約束してくれたおかげで、皆が来てくれると信じて待っていられた。
他の攻略対象者と違って私に恋をしないと言っていた彼には、すでに想い人がいるというのに……。
黒巣くんの差し金で来た親友のサクラに、告白されたことを打ち明けた。ずいぶん楽になって、桃塚先輩にもじっくり考えることを伝えられた。
黒巣くんのことが引っかかった。
彼は私に想いを明かしていない。ただ私がその可能性に気づいてしまっただけ。私に不器用な優しさを向けているうちに芽生えてしまった感情を、迷惑に思っているのかもしれない。
すると、黒巣くんと二人きりで遊びに行くことになった。
本当は一学期の期末試験の勉強会の打ち上げと、夏休みの思い出に遊びに行こうと黒巣くんが前に提案してくれていた。
黒巣くんの親友、メドューサの孫である生徒会書記の緑橋ルイくんとサクラと私の四人で、遊びに行くはずだった。
けれども、緑橋くんがサクラにはキャンセルになったと連絡した。私には集合場所を連絡してきたから、どうやら黒巣くんと二人きりにしたいらしい。緑橋くんは、黒巣くんの気持ちをしているようだ。
素直じゃない黒巣くんが頼んだとは考えにくいけれど、私は行くことにした。
黒巣くんがどうしたいのか、はっきり知ろうと決めました。