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第9話 領主としては無能でも・・・



「なんだぁ?・・・ふんっ、この町の騎士か」


「所属とお名前を教えていただけますか?」


騎士団員がそう聞くと、銀髪の男はまた癇癪(かんしゃく)を起こすように喚き出す。


「何様のつもりだ!!見てわかるだろう!お前の所の下民があろう事かオレの馬車の前を横切りやがった!わざわざ止めてやったんだぞ!まずは謝罪とそこの下民どもを逮捕しろ!無能が!」



「必要ない」



ゴルドが毅然とそう言い放った。


親子に、怪我はないかと聞き、親子は震えて頷く。


「ミツキ殿。この方たちを頼む」


ゴルドに声をかけられ、美月はようやく我に帰り、分かったと返事をして親子と一緒に現場から離れる。


その間も、銀髪の男は目が飛び出るほどゴルドを睨みつけて、ワナワナと震えている。


「おい、てめぇ・・・服装からしてちょっと良いとこの坊ちゃんみてぇだが・・・自分が何を言っているのか分かっているのか?」


「ん?お前への謝罪とあの親子を逮捕する必要はないと言ったんだ。なんだ?よく分からなかったのか?難しい事を言った覚えはないんだがな?」


ゴルドがいつもの調子でそう返すと、銀髪の男は「てめぇ!」と大声を出して掴み掛かる。

それを騎士団員が間に入り、体を張って止める。


「おぉい!!騎士!テメェはバカか!オレに触れて良いと思うなよ!テメェらは知らねぇだろうが!オレはこの町の新たな町長だ!」


「お、お前・・・妄想は勘弁してくれよ。町長になりすますとか、無理あるだろ」


ゴルドが本気で引いていたが、構わず男は続ける。


「隣の領の筆頭商家、カストール家の次男だぞオレは!テメェら中途半端な階級どもは知らねぇだろうが!この町の町長の娘に入婿になるんだよ!だから!この町はオレのモンになる!」


「・・・まさか、フィ・・・フィオーナ嬢のか?」


ゴルドに少し驚きが入る。

それを、銀髪の男、カストール家次男は階級にビビったと勘違いして、薄ら笑いを浮かべる。


「ギャハハ!今更になってようやく分かったか!誰を相手にしているのかをよぉ!ここの領主のお古だが、そのフィオーナがオレの嫁になるんだよ!」


ゴルドが明らかにショックを受けた様子を見せ、カストール家次男はようやく良い気になってきたのか、饒舌(じょうぜつ)に話し始める。


「もしかしてお前、フィオーナに惚れてた口か?出てるぜ顔によぉ・・・領主に捨てられた女を、もしかして次は自分がって狙って期待してたのか?バァカが!あの女は次はオレのモンになるんだよ!ギャハハハハ!!」


騎士団員がさすがに我慢の限界なのか、額にいくつもの青筋を立てて、腕が剣の柄を掴み、今にも抜刀しそうなのを必死に止める。


町民達は一連の会話を聞き、信じられない顔をする。

ゴルドは、ただただ目を見開いて、銀髪の男を見ていた。


美月がようやく親子を安全な場所に離れさせて、戻ってきていた。

そして、高笑いする銀髪の男を見て、いい加減怒りが沸いてくる。


「ちょっと!ゴルドさん!もうこいつ早く捕まえなよ!貴族相手の態度じゃないでしょ!」



「ギャハハ、は・・は・・・え?」


銀髪の男が笑いをやめて、見る見るうちに青ざめていく。


「あ、さすがに貴族が相手って分かったら、マズイって思うんだ」


美月が観察するようにそう言いながら、ゴルドの横に立つ。

ゴルドは変わらず固い顔をしていた。


「あ、あの、あののの、ももも、もしかして、ご、ゴルド、様、と言う事は、その、この地の領主様の、アイハンド家様のその」





「・・・あぁ、領主のゴルドだ」


最高に不機嫌な顔で、ゴルドが答える。




「ももも申し訳ございません!本日この町に来たばかりで!何も分からず!どうか!どうか寛大なるご容赦をぉぉぉおおおおお」


先ほどまで、チンピラのような言動を繰り広げていた銀髪の男は、今は土下座をして、地面に頭を擦り付けていた。

想像を絶する情けない姿を晒す。



だが、町民は笑えない。

先ほどの、ゆくゆくはこの町の町長になるだの、町長の娘と結婚をする云々の言葉は、嘘か誠か・・・。

そこが気になり、誰もが不安に思っていた。



「・・・立てよ、カストール家の次男よ。そこの馬車の家紋を見れば、貴様の出自が、高名な商家である事は間違いないだろう」


ゴルドはリンゼばりに、無表情で冷やかに銀髪の男を見つめる。


銀髪の男は恐る恐る立ち上がる。


「だが、己の伴侶を(おとし)めるとは、いただけないな。いや、ぶっちゃけめちゃくちゃ腹立たしい」


冷やかな視線の次は、ニッコリと急に笑った。


「フィオは素晴らしい女性だ。俺なんかには勿体ないほどな。だから、テメェじゃもっともっと勿体ない。不釣り合いにも程がある。今すぐ婚姻を破棄して家に帰れ。あぁ・・・」


たっぷりと溜めてから、ゴルドは言った。





「拒否できると思うなよ?生きて自分の領に帰りたいだろ?」






銀髪の男は発狂するように、すみませんでしたと言って馬車に飛び乗ろうとする。



「おい止めろ」



ゴルドが指示して、騎士団員が待ってましたと言わんばかりに馬車に乗り込もうとした銀髪の男を力一杯引きずり出し、地面に叩きつけた。


「あぁぁぁあああ!!ご容赦を!お許しをおおおお!!!」


もはや号泣し、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになった銀髪の男に、ゴルドは言った。


「お前の馬車、危ないから。ウチの領土出るまでは、お前馬車禁止な」


「はいぃぃいいい!畏まりました!!」


銀髪の男は自ら走って逃げていく。

御者も、必死に謝りながらゆっくりと馬車を動かして去っていった。



「二度と来るんじゃないわよ!」


美月も全力でそう言い放ち、すっきりした顔でザマーミロと舌を出した。


そして、ゴルドにチラリと目をやると、ゴルドは何となく、肩身の狭そうな、申し訳ない顔をしていた。


「ど、どうしたの?ゴルドさん・・・やっぱりまずかった?他の領からつっ込まれる弱みになっちゃうかしら?」


恐る恐る美月が聞くと、ゴルドは首を振りながら言う。


「んー、ぶっちゃけオレにも分からん。交渉ごとは商家を通じてやってるから、よほど親密な関係でない限り貴族同士では文ぐらいだ。オレも領主になった挨拶の文出したぐらいだし。ま、なんか言ってきても悪いのあっちだろ」


ゴルドはあっけらかんとそう言うが、まだ顔は曇っている。というかちょっと珍しくプリプリ怒っている。


美月は何となく、女の勘というか、予感ですぐに、女絡みだと気付く。

なんなら、フィオーナという女性の事だろう。



「も、元婚約者ってこと?どうなの?騎士さん」


「許嫁ですね。ゴルド様が領主にならなければ、間違いなく結婚してましたよ。お二人とも仲も良かったですし・・・」


コソコソ話しながら、美月と騎士団員はチラチラとゴルドを見る。


ゴルドは町民に囲まれて、やれ良くやってくれましただの、スカッとしましただの、やはり慕われているなぁと感じさせる交流をしている。


親子も泣きながらお礼を言って、ゴルドがもう気にするなと言って手を振る。

そして、そろそろ移動しようと美月に近づいてきた。


「さ、思わぬ邪魔が入ったが、町の視察の続きだろ?行こう」


「いや・・・行こうって言っても・・・」


美月は頬をぽりぽり指でかきながら、気まずそうにしていると、周囲にいた町民が声をかけてきた。


「あ、あの!グレイシスお嬢様が来ております!」


「へ?どなた?」


美月が不思議そうな顔を向けると、騎士団員は、あっ、という顔をした。そしてゴルドは、引きつった笑みを浮かべる。



「ご機嫌よう、ゴルド様」



日傘を差して、従者を連れた気品のある女性。

背が高く、ゴルドと同じくらいかちょっと低いぐらいなのだが、美月より高い。

銀髪の縦ロールとキツめの目をキリッとさせている。


美月はすぐに、悪役令嬢っぽいと思った。


もっとも、高飛車な笑いや、見下すような態度は全くなく、エレガントかつ丁寧な雰囲気を醸し出している。


「・・・フィオ。久しぶりだな」


「ふふっ、会えて嬉しいですわ」


屈託のない笑みで答えるフィオ。

彼女こそ、この町の町長の娘である、フィオーナ・グレイシスその人である。



あ、絵になるとはこういうことか。


美月が衝撃を受ける。

ゴルドは良くも悪くも、貴族っぽくないので、普通に接していたが、相対する人物によって、こんなにも急にヨーロピアンな世界が展開されるとは。


「まずは、謝罪を。あの者が連絡もなく急に町に入ったと報告を受け、急ぎ向かったのですが・・・大変なご無礼とご迷惑をお掛けしました。どうかお許しください」


「いや・・・むしろ、何と言うか、その・・・オレも謝ることが」


(うやうや)しく頭を下げるフィオに、ゴルドはまるで照れ臭そうにドギマギする中学生のように、挙動不審になっていた。


「そのだな・・・すまない。勢いに任せて、その、お前の婚約者・・・カストール家の次男とかいう奴に、お前との婚約は認めないと言って、追い出してしまった」


そこで初めて、フィオは驚いた顔をする。


さすがにそこまでの詳しい報告がいってなかったのか、初めて聞いたのだろう。

美月も騎士団員も、やはり不味いことだったかと身構える。


「・・・どうして、そこまでお怒りに?」


フィオが探るような質問を恐る恐るする。


「・・・あー、まぁ、端的に言えば、あのクソ野郎がお前に相応しくなかったからだ」


色々と端折(はしょ)って説明するゴルドだが、まぁ概ね間違いではない。




「・・・オレのものだって、言ってくださらなかったのですか?」


「ブッフォい!!」


美月はちょっと赤くなりながらそう言うフィオに、あ、この人強い人だ、と感想を持った。

ゴルドは咳き込み、息を荒げる。



「まぁ、実は申し上げますと、あんな野蛮な男と婚約どころか、縁談の話すらしておりません」


「「「え?」」」



ゴルドに美月に騎士団員が同時に驚く。

なんなら聞き耳をたてていた町民たちも驚く。


「あのカストール家の次男は、近隣領地で有名な迷惑者ですわ。ああやって、急に来ては縁談の話すら出ていないのに、婚約者だと(うそぶ)いて、勝手にそういう噂を流そうとするんです。そして、無理やりその家に押しかけて、婚約しようと言い出すそうですよ」


「マジもんのヤバい奴じゃない」


「ゴルド様、やはり切り捨てた方が良かったのでは?」


「やめろやめろ、物騒だな」


全員がドン引きする中、騎士団員の殺気がまた上がり始めたので、ゴルドがなだめる。


「いやでも、ゴルドさんって本当、お人好しよね。あんな奴目の前にいて、一発くらい殴ってやろうって思わなかった?私なら殴る」


「うぉーい、ミツキ殿も血の気が多いなオイ」


美月が拳を握ってそう言うと、ゴルドは手を横に振りながらやめなさいと優しく止める。



「そもそも、オレは暴力が好かん。そういうのは苦手だし、あと弱いし」



飄々(ひょうひょう)とそう返して、ゴルドは話題を一旦止める。

そのタイミングで、フィオより、我が家にお越しくださいと招待を受けたので、一行はフィオの家、町長の屋敷に向かうことにした。






「ゴルド様」


「ん?どうした?フィオ」



そっと、フィオはゴルドに近づき、耳元でつぶやく。



「私は、まだ・・・ゴルド様のもののつもりですからね」


真っ赤になるゴルド。

フィオもやっておきながら、扇子で顔を隠して足を進める。



「ゴルドさん、やっぱ刺されるって」


「やめてくださいミツキ様。洒落になりません」


美月のボソリと言ったセリフに、騎士団員は焦りながら答えた。


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