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第7話 次なる英雄は量子頭脳を使い、想像する



応接室で、急遽(きゅうきょ)ヒロと家令も呼んで、美月との面接が始まる。


一通り領地の現状と、ヒロの経緯と土、そして雇用条件とかも話した。


「んー・・・とりあえず、思ったより崖っぷちね。普通ならここに就職しないわよ。未来ないじゃない」


「うわぁ、やっぱそうなのね~」


ゴルドは分かっていたが、改めて椅子から崩れ落ちる。


「まずね、無いものが多すぎる。お金も人も。でも言いかえれば、コストカットすれば死に体でも生きながらえることはできる」


美月は元々、経理を担当していたと言っているので、サラサラと提案が出る。


「まず騎士団の削減ね」


「うぉおおい!ダメダメ!それはダメだよおお!」


ゴルドが慌ててストップをかける。


「軍縮は1番早い手よ。だって、戦える状態じゃないんだから。兵糧も武器も満足に用意できないのに、いる?」



「いるんだ。絶対」



まっすぐ見つめてくるゴルド。

先ほどまでのおちゃらけた様子ではない。


ちょっと美月は意外に思った。

なので、提案を下げる。


「わかった。私はこの世界の常識や、急な戦闘のリスクは分かんないわ。だから、防衛の力は削れないとして考えるわね」


「ありがとう」


ゴルドはふぅと息を吐いて、席に着く。

美月はちょっとだけ、ゴルドを見直した。


「じゃあ、税率あげるわよ」


「ええー!!いや!それヤバいよ!あ、あれかな?ヒロの土を配った後?」


ゴルドが焦ったり、急に納得したりとコロコロ表情をかえる。


「違うわよ。まずね、なんで領地内全域で同じ税率なの?豊作の所も不作の所も一緒にして、不作の所が困らない税率にしているじゃない」


「・・・え?そういうもんじゃないの?ウチは昔からそうよ?だって、高く設定したら不作の村が困っちゃうし・・・」


「村ごとの収穫に応じて税率を決めろってことよ。収穫多い所はそれだけ余裕があるって事。余裕のある所から多くとって、低い所の補填に充てるのよ」


「え?不公平じゃない?」


ゴルドが未だピンときていないようだが、ヒロがなんとなく察する。



「ゴッド様。同じ1割の税率で統一してしまうと、極端な話、リンゴが10個しか無い村からは1個だけ税収で残りは9個。リンゴが100個ある村は10個取るけど、残りは90個もあるんです。税率は公平かもしれませんけど、村に残される作物量はすごい差が出ますよ?」



「・・・確かに。いや、でも畑が多いと言うことは、それだけ村人が多かったり、頑張った証でもあるわけで・・・んん~?」


「おぉー、そこに気付けるくらいには頭があるのね」


美月の指摘に、ゴルドは「ふっ、侮るなよ」と返すが、美月は皮肉が通じないと諦める。


「そこは考慮するわよ。でも、それを加味しても、豊かすぎて作物が余る村もあるし、本当にギリギリの村もある。まぁ、ギリギリの村は免除して繋いでるみたいね。そこの判断ができているのはまだマシね」


美月がペラペラと書類に目を通してそう話す。


「え?平塚さん・・・すごい数字がたくさんあるけど、そのスピードで読めているんですか?」


ヒロが聞いてみると、美月は自分でも軽く驚きながら言う。


「元々こういうのは仕事柄読んでいたけど、まー、転生のチートかしら?PCみたいに一瞬で読み込めるわ。気持ち悪いくらい」


ぱっぱっぱっと書類に資料にと読み込み、頭の中で必要な情報の整理を行っていく。


「おぉ~、名付けるなら、PC頭脳・・・量子頭脳だね!」


ヒロがワクワクしながら言う。

ゴルドたちは何のことやらと理解していないが、美月はソレっぽいわねと意外と気に入る。


「ゴッド様!平塚さんがいれば、きっともっともっと領地は良くなりますよ!」


「お、おぉ!ありがたい!」


「あ、でも私帰るんで」


ヒロとゴルドは互いに手を合わせるも、美月のその言葉に固まる。


「いや、私の栄養を補給できないもの。ここって漫画もアニメもPCも無いでしょ?私死ぬ。間違いなく飢えて死ぬ」


「な、何かよく分からないが、ミツキ殿は特殊な食事がいるということか。それは・・・申し訳ない事をした」


ゴルドがどよーんと暗いオーラでまた謝る。

ヒロはオロオロとゴルドのそばで手を振る。


「ゴッド様!元気出してください。全てうまくいくなんて事、そうそう無いんですから、帰るまでの間に手伝ってくれるだけでもありがたいですよ!」


「お、おう・・・そうだな!」


2人のやり取りを見て、リンゼも家令も微笑ましいいつもの光景にしか見えていなかったが、美月がいつの間にか資料を読む手を止めて、ゴルドとヒロの2人を見つめる。


2人も気づいて、何か美月が喋るのかな?と待っていたが、美月は喋る事なくただただじーっと2人を見つめていた。


見つめてはいたが、妙に視線は合わない。何というか、2人を見ているようで、2人を通して何かを見ている。


「・・・年下転生者x異世界ダメ領主・・・いや、リバースも可か?・・・ダメ領主x純粋少年・・・」


ぶつぶつと何かを言いながら、美月は量子頭脳をフル稼働し、2人の尊い偽記憶を妄想していく。



「ど、どうした?何かあったか?ミツキ殿?」


「平塚さん?・・・おーい?」



「質問に答えなさい。2人はどういう関係かしら?」



ゴルドとヒロが頭にハテナを浮かべて困る。

だが、美月の目は真剣だ。



「どっちが攻めなのかって聞いているのよ!!」



「あ、平塚さん。そっちのタイプかぁ~」


ヒロが何か納得しており、ゴルドは相変わらず何も理解できなかった。



「ヒロ、説明を頼む」


「え"」


ゴルドがいつものノリでヒロにそう言うが、ヒロは急に振られて困ったように挙動不審になる。


「あ、いや、その、これはちょっと、説明が難しいというか・・・」


「攻めとは何だ?ヒロとオレとで何かをするのか?」


「いや、しないよ!何もしないから!」


顔を赤くしだすヒロ。

両手をバタバタと交差させて慌てている。

ゴルドは更に頭の上にハテナを出す。


「ワォ!マーベラス!無知!無知なのね!?年上なのに天然?!そして純粋少年が顔を赤らめる!恥ずかしがる!あぁ!生よ!生搾りよ!!」


急に美月が元気になる。

まるで栄養が身体中に行き渡るが如く、イキイキとして興奮し始めた。


リンゼは変わらず無表情であったし、家令は仕事があるのでと、そそくさと部屋を退室した。






「やるじゃない・・・しばらくはお世話になるわね」


なぜかすごく満足した美月は、スッキリした顔をして晴々とそう答える。


ゴルドは何もしていないが、美月が満足そうなので、とりあえず良しとガッツポーズをする。


ヒロは頭に湯気が出そうなほど赤くなっており、両手で顔を覆っていた。



「ゴルドさんに、ヒロくんだね。とりあえず、毎日私の前でイチャイチャして。それが対価よ」


「やめてよ!イチャイチャとか言わないで!」


「あーん!その反応いい!年下の恥ずかしがる姿尊い!心がぴょんぴょんする!」


ゴルドはこの流れというか、ノリがよく分からなかったが、きっと異世界の共通言語か文化風土なのだろう。


ともかくして、期限付きかもしれないが、第二の英雄である、内政家の美月を仲間に引き入れることができた。


ゴルドは更なる領地の安定と、難しい内政を美月に全てやってもらえるとワクワクしていた。





「はい。とりあえず10個ほど案を出したから、ゴルドさん決断してください」



「・・・へ?」



この短時間で10個の案?とかいう驚きもないこともないが、ゴルドはそもそもお任せできると思っていただけに、面食らって理解が追いついていない。



「あの、ミツキ殿・・・ミツキ殿の頭脳で算出された案であれば、もう、それだけで領地がウハウハのイケイケに・・・」


「あんたバカぁ?って言わせたいのかしら?」


美月がやれやれとメガネを指でぐいっとあげる。


「勘違いしてると思うけど、私はただ情報整理しているだけよ。そして見えてきた課題に対して案を提示するだけ。最良の答えなんてあるわけ無いじゃない」


「え?あ、そ、そうなの?」


「ていうか、私の好きにしていいなら騎士団解散するけど?」


「あぁん!ダメだってばぁ!」


ゴルドが美月に縋り付きながら首を横に振る。

まるでだだをこねる子供そのものだが、美月は攻めの手を緩めない。


「あんたが1番偉いんだから。ゴルドさん、貴方が決断しなさい」


「・・・わかった」


ゴルドは観念したかのように椅子に座る。


そして、美月からの提案を聞く。

あの膨大な書類とデータを元に、かなり凝縮された案が出来上がっていた。


裏を返すと、単純ではなく、それらに相応なメリットとデメリット、リターンとリスクが絡み合い、むしろ今まで以上にハッキリと決断する事による切り捨てが目に見える様になった。


ゴルドは目が死んでいたが、美月に何度も質問して理解をしようとする。


その頑張る姿を見て、リンゼはホッとしていた。

表情はいつも通りだが、昨日の件以来、不安だった。

ゴルドは滅多に弱味を見せない。

サボるだの、おちゃらけるだので誤魔化すが、本当の辛さや悲しみを隠す傾向にある。


今は、それがいくらか払拭(ふっしょく)された。

その要因は、新たな英雄、平塚美月によるものだ。


だが、リンゼは美月に礼を言う気になれなかった。


それは、ゴルドという領主を、転生早々(さげす)まされたからでもあり、今でもゴルドという領主相手に対等に近しい不遜(ふそん)な態度をとったり。


「・・・お茶がはいりました」


リンゼはいつもの調子で、無表情で淡々と業務をこなす。

ヒロも美月も、ありがとうと答えて受け取る。


リンゼは感情を表に出すのが苦手で良かったと思った。

いつも笑顔だったら、今美月に笑顔を向ける自信がない。

だが、領地を助ける英雄に向かって、そんな態度を侍女がするわけにいかない。


ホッとする束の間、ゴルドが言う。


「はっはっは、なんだリンゼ?怒ってるのか?」


「っ・・・」


(あぁ、この人は・・・こういう人だな)


ゴルドのいつも抜けている癖に、こういう時だけきちっと外さないところは、ズルいとリンゼは思う。


「任せとけ、領地は良くなる」


「・・・期待しております」


リンゼは素っ気なくそう答えるが、ゴルドはニコニコしながら紅茶を飲む。






「ねぇ、ヒロくん。あの2人っていつもあんな感じなの?」


「うん。そうだよ」


「付き合っているの?」


「いや・・・どうなんだろう?夫婦ではない、らしい」


ヒロと美月が紅茶を飲みながら、コソコソと話をしていたが、ゴルドとリンゼの2人には聞こえていないようだ。



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