第6話 次なる転生者は転職希望者
昨日の会議では、結局なにも決まっていない。
いや、土を配るという目的は決まった。
あとは、ゴルドが付いていくのかどうかの部分だけ、三つ巴の話し合いになっている。
ゴルドは会議の翌日になって、家令に言った。
「1番、作物が育たない村を調べてくれ。そこにヒロだけでも向かわせて、すぐに土を届けてやりたい」
「・・・よろしいので?」
家令は努めて、いつものように振る舞った。
「もちろんだ。私がついて行くことよりも、まずはヒロの土だ。私が行っても、畑は実らんからな」
いつものように、最後にはっはっはと笑わない。
ゴルドはそれだけ言うと、さっさと自室に戻ってしまった。
ヒロは何も聞かず、騎士団の修練に混じっていた。
面白いくらいに剣技を吸収して、自分でも成長が目に見えて、楽しくて仕方がないくらいに夢中になって修練をしていた。
だが、今日はいまいち乗り切れない。
ローガンがそれを見抜いて、ヒロを呼ぶ。
「・・・聞かないのか?」
「昨日の、件ですか?」
水を飲みながら、ヒロは困った笑顔で答える。
ローガンは肩身が狭そうに、こくりとうなずいた。
「・・・聞きません。ゴッド様も、みんなも聞いてほしくなさそうなので。僕にもありましたから、聞いてほしくないなぁ、ってこと」
あっけらかんとそう言って、ヒロは腰掛けに座る。
「・・・家令より、ゴルド様からの勅命が下った。まずは作物の育ちがひどい村へ、急ぎヒロだけで土を届ける」
「・・・良いと思います。ゴッド様も、1番気にしていることはそこですからね。い~っぱい実って、お金がバンバン入ったら、慰問に行きましょうよ!」
「あぁ。ワシも、昨日は急がず、そう提案すればよかった・・・」
ローガンが同じく腰掛けに座り、体は相変わらずデカいが、そのため息は、老人に相応しい疲れを滲ませていた。
自室でゴロゴロするゴルドは、なんか今日はみんな優しいなと不思議に思いながら惰眠を貪っていた。
昨日の会議は結局結論がつかず、ゴルドとしてはヒロについて行って、何も考えず土を耕す手伝いをして、感謝されたいと目論んでいたが、金がないという尤もな指摘を受けて、実はもう諦めていた。
そりゃ作物の生産が低くなっていて、税収減っているのに、お金のかかる提案ができるわけない。
ゴルドは難しいことはよく分からないからこそ、単純に考えるようにしている。
それでいえば、あくまでも大切なのは、結局土を届けることなのだ。
ならば、それに注力すればいい。
「とはいえ・・・参謀役か」
ゴルドは昨日の会議で、ヒロが言っていた人手が足りない点について、考えていた。
家令が収支に関する財務関連をまとめてくれているが、そのせいで本来家令としてすべき業務に滞りが出ている。
リンゼが屋敷を仕切っているおかげで、ギリギリ成り立っているのだ。
そして、人材不足というのは歯痒く、見つけ出すことにも時間とお金がかかるし、見つけ出したら今度はスカウトする為にまた金がいる。
「何もするにも金金金、その金を手に入れるためにも金がいる・・・んあー!手詰まりもいいところじゃねぇか!!」
気長に考えるなら、ヒロの土が巡ればそのうち税収は増える。
そこから金を貯めて人材発掘に取り掛かる。
うん、それが無難だ。
だが、そこに落とし穴があると、予感めいた不安をゴルドは抱えていた。
ヒロの土は、的確に崖っぷちの村々へ適切に行き渡るだろうか。
少しでも遅れれば、収穫時期は過ぎ、深刻な村は廃村となる。
村を捨てた難民たちは、それは厳しい生活を強いられる。
金がないゆえに身売りされるか、野良モンスターに襲われる可能性だってある。
ヒロが居なければ、その村々を救う手立てすらなかったが、今その救える手立てがあるのに、それを万全に扱えているか?
采配の失敗により、救えたかもしれない未来が失われる。
それを知れば、ヒロは傷つくだろう。
自分がもっと頑張っていればと、苦悩するだろう。
あの英雄は、そういう男だ。
短い付き合いだが、容易に想像できる。
「やるしかない・・・転生魔法だ!」
ゴルドは飛び起き、覚悟を決めた。
馬鹿の一つ覚え、他力本願、他者に丸投げする無能な領主。
あぁ、そうとも、その通りだとゴルドは自分の良心に対して開き直った。
この転生魔法が、相手の同意を得て転生するかは分からない。
場合によっては、呼ばれた者にとって不本意な転生を招くかもしれない。
だが、もし、ヒロのように、手助けをしてくれる、そんな差し伸べてくれる手があるのだとしたら・・・。
ーーーその手を取る選択肢を、プライドがないのかだとか、かっこ悪いやら、助けてもらうだけで見苦しいやらの苦言を、自身へ投げつけるだけで済むのならーーー
「掴むしかない。その私への評価は正しい。それを分かって、私は他者へ頼る」
ゴルドは書庫へしまっていた転生の書を持ち出す。
そして、中庭へ赴くのだった。
「あの・・・ゴルド様。こちらの魔導書は、その、リスクはないのですか?」
リンゼが珍しく、言葉を詰まらせながらゴルドの後ろに控えていた。
無表情ではあるが、どこか心配の色を見せる。
「ん?魔導書ってリスクあるのか?」
「魔導書によりけりです。ただ純粋に魔力だけで使用するものだけでなく、噂によると、寿命や幸運を吸い取る類のものも・・・」
「えぇええ!!寿命?!聞いてないヨォ!」
ゴルドが本気でビビって魔導書から距離を取ろうとする。
「いえ、あくまでも推測です。使用者が偶然、魔導書を使用したのち、天命が来た可能性もあります。ですが・・・これほどの・・・異世界から英雄を呼べる転生魔法を、なんの対価もなく使用できるのは、出来過ぎな気がします」
「うーん・・・まぁ、確かに。だがなぁ・・・ヒロを召喚した際も、その後も、特に何もないしなぁ」
ゴルドは腕を回して、体に不調が無いことを改めて確認する。
「・・・考えても仕方がない。魔力を込めるぞ」
ゴルドは悩む素振りを見せつつ、さらりと結局召喚に入る。
魔力を込めて、魔導書はぼんやりと輝き始める。
「内政特化、内政特化、内政特化、内政特化、内政特化、内政特化、内政特化・・・」
「それ、意味あるのですか?」
リンゼのため息に反して、魔導書の反応は少し強くなる。
数日前に1回目を見たせいか、明らかに風や光が強くなっていた。
「ふぉぉおおおお!!なんか来てる!来てるゾォぉおおお!!」
ゴルドは興奮していたが、この瞬間、初めての時よりクリアに状態に入ったと気づけた。
体はここにあるのに、まるで浮遊するかのように、周囲の空気がゆっくりになる。
「 またね、 」
「え?」
ゴルドは、ヒロを呼んだ時と同じく、何かが聞こえた。
今度は、一瞬だけ、柔らかい声が、しかと聞こえた。
そうこうしている間に、召喚の儀は完了し、目の前に長い黒髪でメガネをかけた女性が立っていた。
ヒロより大人、ゴルドと同じくらいの年齢か。
不思議そうに周りを見て、戸惑いを隠せない様子だ。
「えー、あの、うぉっほん。急な異世界からのお呼びだて申し訳ありません。私の名前はゴルド・アイハンドです」
カチカチになりながら、ゴルドは自己紹介をする。
ちょっと女性が来ることが想定外だったためか、余計に気が動転していた。
女性だと、急に異世界とか訳のわからない世界に連れて来られたら、精神的に辛いのではないかと心配したのだ。
「・・・はぁ、どうも。 平塚美月です・・・これ、転生ですか?」
おぉ、異世界の英雄たちは転生を知っているんだな、とゴルドはちょっと安心して、首を縦に振り肯定する。
「あの、私、魔王を倒すとか無理ですよ?命かけるのとかイヤですし」
「いやいやいや!いないですから魔王とか!」
ヒロも似たような事を言っていたなぁとゴルドは思いながら、丁寧にお辞儀をして美月に頭を下げる。
「手前勝手な依頼で申し訳ないが、我が領地の財政管理を助けてほしい」
「はぁ!?え?何これ、異世界転職?そりゃあのブラック会社こっちから辞めてやったけど、スカウトエージェント仕事しすぎじゃ無い?!」
美月が驚き、ちょっとゴルドもリンゼも何を言っているかよく分からない感じになるが、美月はコホンと咳を一つして、ゴルドを見た。
「・・・あの、それって、ここで今すぐ返事しなきゃダメですか?」
至極尤もな質問をする美月に、ゴルドはいやいやと否定する。
「まずは改めて我が領地の状態を見てもらったり、質問があればなんでもお答えします!それから決めていただければ!」
「良かった。じゃあ帰る選択肢もあるのね」
「ごめんなさい。もちろん帰りたい場合は全力で帰る方法を探すので、ちょっとお待ちいただきたいです・・・」
「はぁ!!?帰る方法も用意できていないのにこっちに呼んだの?それ拉致じゃない!」
「あ、あの、す、すみません。はい」
ゴルドが小さくなり、美月がピリピリする。
「なーんか読めてきたわ。あなた無能領主ね。そんでなんか手に入れた魔法とかで転生者を呼んで、楽して領地経営やら助けてもらおうって魂胆でしょ」
その通り過ぎてゴルドは、はいそうです、としか言えなかった。
「あー!もう!結局上司はハズレガチャじゃない!こう言う時は超有能で"君は選ばれし聖女なんだ"ぐらいの話を用意するもんじゃ無いの?!」
一通り叫ぶ美月をゴルドはただただ眺めていた。そして、美月はふー、と一息つくと、ゴルドの方を向く。
「あ、ごめんなさい」
「いや、もう謝らないでよ。ていうか領主ならどしっと構えるというか、堂々としなさいよ。まぁとりあえず働かないとご飯も食べられないし、雇用条件とか諸々詰めるわよ。そして帰る方法も並行して探す事、これは絶対よ」
「はい」
項垂れながらも、ゴルドは返事をしてリンゼに部屋の用意とお茶を淹れるように指示した。
「・・・かしこまりました」
無表情のリンゼの、いつもの返事だが、ゴルドは違和感を覚えた。
だが、美月が次々に質問するので、ゴルドは精一杯答えるのに意識が行ってしまった。




