第5話 会議は唐突に始まり、そして終わる
「ゴルド様。ハタテ村より文が届いております」
「ん?ハタテ村・・・一昨日ヒロと行ったあの端の村からか?」
執務室で書類とにらめっこをしていたゴルドに、リンゼが届いたばかりの手紙を届ける。
「なんだろうな、あの時の感謝をわざわざ手紙にでも書いたのか?律儀な奴らだなぁ、どれどれ・・・」
ほんわか手紙を読み始めるゴルドは、読み進めるうちに驚愕の表情になり、ぷるぷると震え出す。
「ひ、ひひ、ヒロを呼べい!村に行くぞ!」
「承知いたしました。馬車を用意いたします」
団員に混じって稽古中だったヒロを慌てて呼び出し、馬車に詰める。
「ど、どうしました?ゴッド様」
「畑が実った」
「???・・・あ、あの村のですか?良かった~、少しは良くなりましたかね」
「村始まって以来の大豊作だ」
「へ?」
馬車の中で手紙を読ませてもらい、ヒロは驚く。
「すごい!見たことない文字なのに読める!」
「え?そこ?」
「あ、実りに実って天変地異の前触れかもしれないって書いてますね、大袈裟だなぁ」
「ともかく、見てみよう。これは、これはひょっとすると、ひょっとしたら、ひょっとするかも知れないぐらいにはひょっとして」
「まぁまぁ、落ち着いてゴッド様。一昨日ですよ?2日ぐらいしか経ってないのに、そんな大きな変化ないですよ~」
馬車で到着すると、村人総出で迎えられた。
もはや、何かの祭りか?と騎士団員たちも引いている。
「おぉ!おぉ!領主様!英雄様!よくぞ、よくぞこの村に恩恵をぉぉお」
「お、おう。村長。とりあえず説明してくれ、こっちはちょっとドン引きしている」
「説明よりも見てください!見れば説明なんて要りません!」
村長に手を引かれ、村の畑を目の前にする2人は、確かに目をまんまるにした。
トマトにきゅうりにナスと、色とりどりの野菜が立派にどっさり実っている。
2日前との差は歴然である。
同じ畑とは到底思えない。
ビビるくらい実っている。
「既に実をつけていたものが、まるで別のものだったかのように、生き生きとしたかと思えば、たった数日でこの生りよう!まさに神の 御業です!」
「おぉ、なんかもう、スゴすぎてよく分からんな」
そう言って、とってもいいか?とゴルドが村長に聞き、もちろんと答える村長。
トマトを一つもぎ取り、ゴルドはかぶりつく。
「うお!うまい!めっちゃうま!」
「え?僕も食べたい僕も食べたい!」
ヒロも一つかぶりつき、もぐもぐ食べ進める。
「こ、これはすごいぞ。魔法の土に匹敵する出来なんじゃないか?!魔法の土使ったことないから知らんが」
ゴルドがもはやただの感想を述べるが、そんな事はどうでも良いと身体が打ち震える。
やはり、希望であった。
同じくトマトをかぶりつくヒロを見ながら、ようやく村人と同じ興奮にまでゴルドも到達した。
「これで我が領の憂いは消える!はっはっは!とりあえず!ヒロよ!良くやった!」
「んー?えへへ、どういたしまして」
「よし!有益と分かればこうしてはおれん!直ちに我が領内にヒロの土を広める!馬車を出せい!」
「いやいやいや、ゴルド様。いくら領土が広くないとはいえ、この馬車で移動できる範囲は限られてますよ」
普通に騎士団員に止められる。
「それに、どの領地が不作かとか、諸々ご存知ですか?」
「いや全く」
「え?そうなの?」
ヒロが素で驚くが、ゴルドはまぁ安心せよと不敵な笑みを浮かべる。
「いいか?どうせこの土は領土内で超有益なのだから、とりあえず片っ端から届けて行けば、遅かれ早かれ土は行き渡る。そもそもここであーだこーだ考えることこそ愚の骨頂!行くぞ!土配りだ!」
ついて参れとトマトを食べながら馬車に乗り込もうとするゴルドだが、ヒロも疑問を口にする。
「え?でもゴッド様、領内全部となるとかなりの時間がかかりますよね?ご飯とかどうするんですか?護衛の騎士様たちも、もっと要りますよ?この数名でずっと護衛ですか?というか、ゴルド様がわざわざ配るんですか?その間の領主様決裁の書類はどうするんですか?」
ゴルドはヒロに色々と言われて固まる。
早い話、その問いかけに1つもゴルドは答えられなかった。
ヒロは純粋な目でゴルドを見る。
きっと何か考えがあるという期待の目だ。
「・・・いったん帰って作戦会議だな」
「はい!」
「おぉ、あのゴルド様をこんなにも上手く操作されるとは」
「リンゼ様並みだな」
騎士団員たちはコソコソと話す。
村人たちと別れて、ゴルドたちは屋敷にとんぼ返りする。
「領主会議を行う!団長並びに、家令、そして町長を呼べい!」
ゴルドが早速帰るや否や、会議を開くと宣言。
リンゼは承知いたしました、とだけ答え、すぐに準備に入る。
夕刻時、屋敷の広間に町長が到着し、これにてアイハンド家の首脳メンバーが揃った。
「・・・ごめんなさいリンゼさん。僕詳しくないんだけど、領主様に騎士団長に家令さんに町長さん・・・だけなの?他の人って忙しいのかな?」
「各々の村の村長を呼ぶのは大変ですので、すぐ呼ぶのはここにいる皆様だけです」
「まぁ、各村の村長さんはね・・・それ以外の人は忙しいの?」
「・・・村長以外の、他の人とはどなたを指しますでしょうか?」
リンゼが逆に質問してきて、ヒロも少し詰まる。
「えっと、イメージで言うと、こう参謀とか、書記官とか、財政担当とか?」
「はっはっは、そんなにいればオレなんかいらないから楽で良いんだがな~。ヒロよ、うちは男爵家だぞ?公爵や伯爵家じゃないんだから、そんなのいないいない」
カラカラ笑うゴルドが、改めて首脳メンバーを紹介する。
「ローガンが騎士団長にして、軍部代表兼作戦参謀、その他武略面を担当する」
「うむ」
「そして家令が我が家の財政担当及び人材育成やら登用やら、まぁ人事面を担当する」
「よろしくお願いします」
「そして、町長が町の運営をしつつ、商人でもあるので、我が領の交易関連と他の領の偵察や情報収集と、まぁ他にも相談に乗ってもらって色々やってもらう」
「は、ははは・・・よろしくお願いしますね」
ヒロは一気に説明されて、少しポカーンとしたが、とりあえずよろしくお願いしますと返事しつつ、感想を述べた。
「めちゃくちゃ兼任してますね、皆さん・・・」
しかも、口にこそ出さないが、一番若そうなのが町長でも、50歳はとうに超えている。
優しそうな面持ちだが、更に老け込んで見えるほど疲れているようにも見える。
そして、家令は絶対ローガンより年上に見える。
ピンと背中をまっすぐにして、姿勢良く立っているが、白髪とシワの深さが、年齢を物語る。
そして、ローガンだ。
ムキムキの筋肉だるまで、まぁヨイヨイではないが、高齢なのは間違いない。
何故こんなにも年齢層が高いのだ?
ヒロはそう思いつつも、高齢だとツッコむのは失礼だと分かっているので、口には出さない。
「さて!会議だ!皆よ!何か案を求む!」
ゴルドが威勢よく手を広げるが、全員何も話さない。
「ゴルド様。案を求める前に、目的をお話しください」
リンゼがこそこそ耳打ちをする。
「目的はヒロの土を我が領土内に広めるのだ!」
またもやシーンと会議は静まり返る。
ゴルドは一同を何度も見て、え?反対?みたいな反応をする。
「あー、騎士団員から話を聞いて、ハタテ村での報告は受けている。英雄殿の土が実りをもたらしたのは事実だ。そこは間違いない」
「ローガン!さすが団長!賛同してくれるか!」
見えない尻尾を振るかのように、ゴルドは喜んで助け舟を出したローガンに笑顔を向ける。
「ふー・・・ゴルド様、別に誰も反対はしておりません。我が領において、作物の実りは喫緊の課題、その突破口となるヒロの土を使う事、反対する意見などありません」
ローガンは眉間を指でほぐしながら、やれやれと説明をする。
「問題は、そのやり方です」
家令と町長もうなずく。
「いや、だからとりあえずオレとヒロで領地各地を巡って畑仕事するさ」
「「反対です」」
家令と町長が声を揃えてきっぱり言った。
「えぇ~?なんで?」
ゴルドが非難の声を上げると、家令が答える。
「英雄殿が行くのは至極尤も。英雄殿しか土は出せませんので。ですが、ゴルド様が付いていく理由はありません」
「いやいやいや、オレだって領主ぞ?少しは役に立つところを見せんとな!パフォーマンスというやつだ、パフォーマンス!」
「それよりもやって頂きたい仕事が山のようにありますし、そもそも護衛を伴うのでお金がかかります」
ぴしゃりと正論を叩きつけられて、ゴルドは顔を机に伏せる。
「まぁ・・・ゴルド様のおっしゃる事も、一理ある」
ローガンの一言で、ゴルドは復活し、早速申してくれ!と元気に指示をする。
ローガンはため息を吐きながらも言う。
「まだゴルド様は全ての領地を視察しておられない。これを機に、周るのは悪くない。領民の士気も、忠誠も上がる」
「慰問ですか・・・では、必要な村だけに絞りましょう。それなら、行程も短く済み、かかる予算が減ります」
「お待ち下さい。私としては、中途半端な慰問は村々に格差を生みますので反対です」
町長が初めて口を挟む。
「ゴルド様が土を配られるなら、公平に全ての村を回るか、それともしないかのどちらかです。ハタテ村は1番最初だったので致し方ないですが・・・」
まだゴルドが行っていないだけで、奇跡の土を領主から受け取る村と、そうでない村に分かれてしまえば、村民間で不満が出ると指摘した。
「・・・は、はなしが、ややこしい・・・」
ヒロは目をグルグルさせ、小さく縮こまっていた。
(ゴッド様は、この話をまとめないといけないのか・・・)
ヒロがチラリとゴルドに目をやると、ゴルドは死んだ目をしながら、ローガンたちのあーでもない、こーでもないと収拾のつかない話を眺めていた。
そして、ダンッと机を叩く。
「イッタ~・・・手が、手が痺れ・・」
ゴルドが勢いよく机を叩きすぎて痛がる。リンゼが仕方なさそうに両手でゴルドの手をさすったところで、話に入る。
「全箇所行くぞ!オレはそれが良いと思う!慰問になるし!ヒロと領主の関係をアピールできる!」
「お金が足りません」
家令がスッとそう述べて、ゴルドもスンと悲しい顔にした。
「どうにかならんか?騎士団としても、領民の心の支えになるなら、ゴルド様の慰問を行いたい」
ローガンが、ボソリと、あの件以来、どうしても領民は不安がっている、と付け加えた。
「え?あの件って何ですか?」
ヒロが気になって聞くと、全員がしまったという顔をする。
いや、全員ではなかった。
ゴルドだけは、先ほどまでの軽やかな雰囲気をまとっていたのに、急に顔色が悪くなる。
ヒロは空気で感じた。
聞いてはいけないことを聞いたのだと。
「あ、な、何でもないです」
「山から、モンスターの侵攻があったのだよ」
ヒロが慌てて質問を引っ込めるが、ゴルドが声色だけはいつもの調子で答える。
だが、いつもの笑顔と違う、辛いのに無理やり笑顔を作っている、そんな顔で答える。
全員が、まるで音を失ったかのように、黙ってしまう。
それぞれが、ゴルドに顔を向けれないのか、下を見てしまっている。
リンゼだけが、いつもの無表情で、でもゴルドの傍に、いつもより近付いて寄り添っていた。
会議はここで終わった。




