第4話 騎士団長と対峙する英雄
「護衛もつけずに端の村まで行くとは言語道断!何をお考えなのですかこのくそボケがぁ!!」
ゴルドとヒロは正座させられていた。
そして、巨体のじい様にバチくそ怒られている。
ゴルドは、あぁ~、やっちまったなぁ、という感じだが、ヒロは硬直しており、ガタガタ震えて目が白黒している。
「わかっているのか!御身の大切さを!万が一がある可能性を考えて行動をだな!」
「ローガン騎士団長様。一度そこまでで。お食事が冷めてしまいます」
リンゼが間に入り、じい様、もといローガンはむぅ、と不満げだが、さすがのリンゼに止められると、引き下がるようだ。
「ゴルド様。それと転生者とかいう小僧。飯が終われば修練場に来い」
「いや、オレ結構畑仕事して疲れたんだが・・・」
「ゴルド様・・・」
ローガンの説教が続くと思い、ゴルドは逃げようと言葉をつなげるが、それに対しリンゼが口を挟む。
「わたくし、ゴルド様が近くの畑を見に行くことはお伝えいただいておりました。本来なら徒歩ではいけない遠方の村を見に行かれるなど、その命を聞いておりません。我ら従者、全員がゴルド様の行方を知らなかったのです」
リンゼお得意の、正論と、無表情ながら、その背には業火が燃え盛っていた。
ローガンですら冷や汗をかいている。
ヒロは失神寸前だ。
ゴルドは目の前が真っ白になった。
「ご、ごめんなさい・・・」
腹は減っていたので、ゴルドもヒロも晩御飯はもりもり食べた。
怒られたばかりだが、味がしないとか言っている場合ではない。
疲れた体に、食事による栄養や、美味いと感じる喜びが駆け巡る。
そして、腹を満たしたところで、騎士団長ローガンに呼び出された修練場へ2人は向かった。
「あの、ゴッド様・・・ごめんなさい。僕が話を聞かず無理やり連れて行ったから・・」
「あん?気にするな。そもそも私は従者全員に黙ってよくサボっている。それに、ヒロが走ればあっという間に帰れたが、それを提案しなかった私が悪い」
「で、でも、僕が悪くて・・」
「ヒロ。お前は悪くない」
キッパリとそういうゴルドの言葉は、不思議とヒロの胸に入って行った。
「オレの領土のために働いたお前を、悪く言う奴がいれば、オレが成敗する。これでも領主だぞ?ここにいる従者全員に命令できる立場だ」
ニカっと笑うゴルドに、ヒロは嬉しくなって涙目で頷く。
修練場に着くと、騎士団長のローガンだけでなく、騎士団員の数名も集まっていた。
「お、おいおい。非番の奴らまで集めて、ローガンよ、さすがに説教だけのためにやりすぎしゃないか?はっはっは」
「あー、ゴルド様。俺たち確かに非番ッスけど、長老から端の村に向かったって聞いて、ゴルド様捜索のために駆け回ってたんスよ」
「本当に申し訳ありませんでした」
流れるような美しい土下座をゴルドは見せ、ヒロもそれに続く。
「あー、いや、それはやめて下さい。無事見つかったんでそれで良いです」
「良くないわ!たわけ!あまりに軽率!あまりに無防備!考え無し!能天気!ボケナス!」
「後半ただの悪口ですよ団長・・・」
怒りが止まらなそうなローガンだったが、ふぅと大きく息を吐くと、今度はヒロを見る。
「お初にお目にかかる。我が名はローガン・ベル。アイハンド家に仕えるベル家当主にして、騎士団団長を仰せつかる」
「た、田中浩史です。ヒロと呼ばれています・・・」
2人は視線を互いに定め、じっと見合う。
そして、ローガンはおもむろに木剣を2つ掴み、1つをヒロに投げた。
「え?」
「ゴルド様から信頼を得ているのは一目瞭然。その点に憂いは無い。だが、小僧、お前の力を見せてみろ」
「いやいやいや。ローガン、勘弁してくれ、ヒロは確かに英雄として呼んだが、その力は石を出したりとか、こう自然のものを手品みたいに出す能力でな。あとは足が速いとか体力があるだけで、お前のような歴戦の猛者の熊とは違うんだ。お前のはジジイ詐欺というか、とにかく次元が違うと言うか」
「そんな者と端の村まで行ったのですか?ーーー何かあれば死んでましたな」
ゴルドを睨み付けるローガンに、ゴルドは何も言えなくなる。
だが、ヒロは立ち上がり、目の前に落ちた木剣を拾う。
「お、おい、ヒロ・・・」
「ゴッド様は死なせません。僕が守ります」
キッと睨み返すヒロを見て、ローガンは強張った顔を崩さず、しかし心なしか、面白いと言うかのように、剣を構えた。
ローガンとヒロ。
その対峙の構図は、まんま大人と子供に見える。
巨体の筋肉ゴリゴリじいさんと、小柄で華奢な少年なのだ、その体の差は見ての通りである。
ゴルドは他の騎士団員と一緒に離れて見守るが、めちゃくちゃヒロを心配していた。
先にローガンが動く。
正面から一刀両断にでもする気なのか、振り上げた木剣は正中線をたどり、ヒロの脳天を目掛けて振り下ろされる。
激しい衝突音がして、ゴルドが瞬きをする。
「ふん。よく受けたな」
ヒロは己の木剣で、ローガンの攻撃を受け止めた。
木がしなり、ギリギリと音がする。
続けて、ローガンより怒涛の攻撃が繰り出される。
だが、その全てにヒロは反応して、攻撃をいなし、躱す。
「す、すげぇ・・・団長とやり合ってる」
「あいつ、ただモンじゃねぇぞ」
他の騎士団員が度肝を抜かれている中、ゴルドは生きた心地がしなかった。
それは、呼び出した責任からか、多少なりとも言葉を交わしたが故の、友に対するものかは、まだ当人にも分からない。
(なるほど、英雄か。その肩書きに恥じぬ、瞬発力と反射神経よ)
ローガンは止まらない攻めを繰り出しながら、冷静にヒロを分析していた。
(常人ではあり得ぬ位置から、無理やり剣でいなしよる。そして、力づくでワシの剣を叩き、飛ばそうと躍起になっておるな)
ヒロの攻撃も見抜かれていた。
当たり前だが、ヒロは平和な日本から来た。
そして、武術の経験すらない。
なので、どんなに筋肉だるまの頑丈そうなローガン相手でも、生身に攻撃をしようという考えはない。
それが既に読まれて、剣しか狙っていないことを看破されていた。
「甘い。攻撃する度胸もないか。弱い、弱いのぉ」
「んな!だってケガするでしょうが!」
「修練で本気の攻撃ができぬ奴が、敵相手に本気で攻撃できると思うてか!」
ローガンは様子見をやめて、本気の攻撃にうつる。
素直な太刀筋から、フェイントを混ぜる。
「ドゴォ!!」
まんまとフェイントに引っかかって、ヒロは頭を守った瞬間、脇腹にモロに木剣が入る。
そして、木剣は当たった部分から割れて、粉砕され飛び散った。
「ちょぉぉおおお!!待った!勝負アリ!勝負あり!もういいだろぉおお!!」
団員達でも、うっ、と声が漏れるほどの強烈な攻撃を受け、ヒロも固まる。
ゴルドが慌てて止めに入るが、ヒロが手を出して静止した。
「ご、ゴッド様、まだやれウ"ォエーー」
「わー!リバースした!おい!タオルタオル!」
嘔吐し、その場に崩れるヒロを、ゴルドが受け止めて指示を出す。
団員達がタオルや水やを用意してワタワタしている中、ローガンは折れた木剣を見つめる。
(おそろしく硬い手応え・・・まるで岩に剣を叩きつけたかのようだ・・・獲物が折れて、ワシの手が震えるとはな)
ローガンは震える手を隠しながら、ヒロに近づく。
「ヒロよ。お前の強さはわかった。そして同時に弱さもだ」
「頼むローガン、もう勘弁してやってくれ。オレが悪かった。もう勝手なことはしないから・・・」
グロッキーなヒロに代わり、ゴルドが誠心誠意込めて土下座する。
「おぉ、ゴルド様。分かっていただけましたか。今回が、模擬戦で良かったですな」
うっ、とゴルドはうめく。
ローガンは続けて言う。
「ヒロ殿の強さは確かに異常ですな。その速さ、動き、パワー、体の頑丈さ、確かに、英雄と呼ばれる器です」
だが、とローガンは怒鳴るように言う。
「動きは素人です。攻撃の術も知らず、覚悟もない。戦闘の駆け引きが何もできていないので、子供騙しの引っかけに盛大にかかる」
水で口をゆすぎ、ようやくヒロも息を落ち着かせた。
「相手が本気で殺しに来ていれば、ヒロ殿の英雄に近しいその肉体でも、死にます。あっさり死にます。モンスター相手なら尚更ですな」
ローガンの説教は、2人に沁みた。
ゴルドは、ヒロが来てくれたことで、漠然と何とかなると、心が浮ついていたと気付かされる。
そしてヒロは、転生して、何でもできる気になっていた。
現実は甘くない。
それに、気付かされた。
打ちのめされた2人を前に、ローガンは一息ついて、膝を曲げる。
「出過ぎた真似をお許しください、ゴルド様。ですが・・・分かっていただきたい。御身の代わりには、誰もなれませぬ。貴方様しか、もう居ないのです。我々がすがれる領主様は・・・」
「・・・うむ。本当にすまなかった・・・今日休みが潰れた者も、謝礼は出す。ローガンよ、感謝する」
ゴルドは深く反省する面持ちで、しかし、きちんと部下を労う。
ゴルドとヒロは疲労困憊で、風呂に入ったらさっさとベッドに潜り込み眠った。
翌日。
ゴルドはまだ疲れが取れないなぁと眠い目をこすりながら、リンゼにうながされて朝食を取る。
「ん?ヒロはどうした?まだ寝てるのか?」
朝食時に現れないヒロを心配してゴルドがパンをくわえながら言う。
「既に朝食を終わられて、騎士団の朝の修練に参加されています」
「え"・・・あいつ昨日、あれだけ走って、畑仕事もして、その後ローガンにやられたのに・・・もう動けるの?」
「ピンピンしておりました」
ゴルドが乾いた笑いで、さすが英雄、とだけこぼした。
「・・・ごめんな、リンゼ」
「・・・どの件でございましょう」
「昨日、勝手に遠くに行ったことだ。軽率だった・・・すまない」
「・・・もう、しないとお約束してください」
「うむ。約束する」
リンゼは相変わらず無表情だったが、絶対ですよ、と付け加えた言葉を言った際に、ほんの少しだけ、笑った気がした。




