第2話 転生されし英雄は、小石を出す能力者
ゴルドはあの書庫で見つけた本を、とりあえず自室に持って帰っていた。
どこか信じきれない部分もありつつ、少し読み進めて見たが、魔法の知識は基礎程度しかないゴルドからすれば、ちんぷんかんぷんな内容であった。
何せどっからどう読んでも、ただの物語にしか見えないからだ。
数日が過ぎ、ゴルドはヤキモキした気持ちを抱え続けていた。
「・・・いやでもな・・・うーん、いや・・・いやいやいや」
「ゴルド様、お悩みになっているなんて珍しいですね。今晩のご飯でしたら、大好きなシチューでございますよ」
「リンゼよ、それは最高にうれしい報告だが、流石の私でも晩御飯では悩まないさ・・・なぁ、転生召喚魔法というのを聞いたことあるかい?」
「転生、召喚魔法・・ですか」
リンゼは表情は変わらず、ゴルドが差し出した本を、失礼しますと断ってから受け取り、中を見た。
「・・・異世界、から召喚させる魔法ですか・・・そういえば」
「聞いたことあるのか?」
リンゼは少し間を置いてから話す。
「歴史書で読んだことがあるのですが、異世界から英雄たりえる人物を転生召喚し、国を起こしたという逸話がありました。信憑性は低い、いわゆるお伽話に属する話でございます」
「ほぅ、確かに、お伽話のようだが・・・リンゼが読んだ歴史書にあると言う事は、格式高い教養書に書いてあると言う事だな」
「いえ、ゴルド様。流石に眉唾なお話でございます。この魔導書だって、本物かどうか・・」
「え?これ魔導書なの?」
「はい。この様に、市井では見かけない、硬いガワで包まれた本は、魔導書でございます。ただの本ではなく、魔力を流せばその書かれた魔法が発動する仕組みです」
ゴルドはほうほうと感心して聞きつつ、目がキラキラと輝き出した。
「・・・ゴルド様?」
「リンゼ、これやろう」
リンゼは無表情ながら、呆れた目線をゴルドになげる。
「いや、でもさ、この領地には今必要だろ!英雄が!作物は取れなくなってきてるし、経営は悪化していくばかり、そんな中でただ座して待っているより!希望を掴むのだ!行くぞ!」
「はぁ・・・では、場所はお外でいたしましょう。そんなに期待されましても、がっかりするだけでございますからね」
リンゼがしっかりと釘を刺しつつ、ゴルドは行くぜいと、張り切って本を片手に庭に出た。
「魔力流すだけでいいのか?」
「はい。魔導書はそういうものでございます」
ゴルドは基礎的な魔法は使えるので、魔力を手に込める。
「すげー英雄来い、すげー英雄来い、すげー英雄来い、すげー英雄来い、すげー英雄来い」
雑念バリバリの状態で、魔力を魔導書に込めるゴルド。
リンゼは変わらない無表情だが、雰囲気からして、相当呆れてゴルドを見つめている。
魔導書に込められた魔力は、魔導書を輝かせて、淡い光を纏いだす。
「ゴルド様。熱かったり、危なかったりしましたら、すぐに手を離してくださいませ」
「むぉおおお!なんか来た来た来た来たぁぁああああ!!」
冷め切っているリンゼと対照的に、ゴルドはその光を見てテンションを上げていく。
滅多に魔法を使わないので、無駄に魔力は有り余っているためか、ここぞとばかりに自分の持っている魔力をこめるゴルド。
興奮はより増して、胸の高まりが最高潮に達してきた。
魔導書より淡い光が空中で大きな魔法陣を描き出し、その円陣が球体となって幾何学的な模様が立体的に現れた。
風が揺れ、庭の草がその風に揺らされる。
「 」
「ん?なんだ?何か聞こえる?」
ゴルドは微かに何かが聞こえた気がしたが、さして騒音もなく、音らしい音は何もしなかった。
次の瞬間、球体がゆっくりと破裂し、中から少年が現れる。
そのまま、少年は地面に片膝をつく状態で、魔法陣は解けるように空間から消えていった。
「お、おぉ、ぉぉおおお!?」
ゴルドが、なんか出来ちゃった、どうしよう?みたいな雰囲気で、少年とリンゼを交互に高速で見る。
リンゼは変わらず無表情だが、右手を顔の前で断るように振って、私は関係ないですよと全力で拒否するように動かした。
「・・・こ、ここは?」
少年が周囲をゆっくりと見渡して、高速で二度見を何度も繰り返す金髪の青年と、こっちを見るなと言わんばかりに手を縦にして高速で振るメイドを見た。
「・・・あ、あのー?」
「あ、あぁ、えっと・・・よくぞ召喚に応じていただきました。我が名はゴルド。ゴルド・アイハンド!アイハンド男爵家の当主でありまーす」
少年を前にして、ゴルドは自己紹介をする。
ポカンと口を開ける少年は、まだ理解が追いつかないのか、ゴルドをじっと見つめる。
「えー、えっとですね。少年、君は異世界より、私の世界へ転生召喚されたのだ。分かるかな?転生といってね、実は生きてる本来の世界とは別の、なんかこう特殊な空間を超えて、本来は混じらない別々の世界というか・・」
「僕!転生したんですか!」
少年が急に大きな声を出したので、ゴルドはビクッと体を震わせ、土下座の姿勢に入ろうとする。
「す、すまない。もしや意に反する転生だったかな?本当に申し訳ない。そう言う事でしたら、誠心誠意、謝罪と、帰れるための手筈を今から考えて・・」
「最高じゃないですか!ありがとう!ありがとうございますゴッド様!やった!僕転生したんだ!」
「へ?」
少年は目をキラキラさせて、嬉しくて仕方がないのか、笑顔でブンブンとゴルドの手を握りしめ、上下に振る。
「あ、喜んでくれてる?・・・良かった~、怒ってないなら良かったよ~。あ、でも私はゴルドね?ゴッドじゃないよ?」
「ねぇねぇ!ここってどこ?魔法ある?ドラゴンいる?あ、もしかしてゲームとかアニメの世界かな?原作チート出来るかなぁ?」
「ん?ん?ん?」
ゴルドが質問攻めにあって、困ったようにへらへら笑っているところに、リンゼがはぁー、とため息をついて、2人の間に割って入る。
「異世界人様。我が主人の求めに応じていただき、感謝申し上げます。この世界の話など、聞きたい事もおありでしょうが、まずはお部屋へご案内いたします。お茶を用意しますので、いかがでしょうか?」
リンゼの凛とした対応に、少年は「うわー、本物のメイドさんだぁ・・・なんか怖いけど」とこぼしながら、賛成しまーすと元気に答えた。
「お召し物も、こちらの世界の衣服をご用意いたしますね」
「え?そう?ジャージだけど、外で着てても変なヤツじゃないよ?」
少年は言葉が止まらないのか、口を動かしながら、リンゼについて行く。
ゴルドはふぅ、と一息つきながら、しかし期待する気持ちを持ちながら、その反面、後ろめたい気持ちもしかと持っていた。
「・・・すまない、名も知らぬ異世界人の子よ。巻き込んでしまい・・・だが、ありがとう・・」
来てくれて、ありがとう。
その感謝を胸に、ゴルドも付いていく。
手に持っていた魔導書は、その輝きはもちろんなくなっていたが、心なしか、色味も暗くなっていた。
「それで!倒す敵は魔王ですか?それとも血も涙もない巨大帝国ですか?」
「はっはっはっ、さすが英雄様だ。なんと豪胆な」
服を着替えて、お茶を用意したテーブルにて、早速ゴルドと少年は椅子に座ると、のっけから少年はそう言った。
「いやぁ~、でもなんか悲壮感もないですし、慌てる様子もないとみると、スローライフ系ですか?それとも、これから学園に行く感じですか?僕下僕とかですか?」
「急にそこまで卑屈にならないでくれるかね?下僕て・・・英雄とお呼びしておいてそんな所業するわけないだろう」
ゴルドと少年の無益なやり取りが続きそうだったため、リンゼがお菓子を用意しながら割って入る。
「まずは、お名前をお聞きしても?英雄様」
「 山田浩史って言います!日本の高校1年生です!」
「ヤマダ・ヒロシと言うのか、家名がヒロシ、名がヤマダだな。じゃあヒロシ殿、早速我が領の困った・・」
「あ、逆です。日本では先に家名で後に名前なので、名前が浩史です。まぁ名前呼びでいいですよ」
「そ、そうなのか?いやでもだな、会ったばかりなら家名で呼び合って、そこから付き合いを深めてから名を呼ぶのが」
「ゴルド様。異世界の文化かと思いますので、ある程度は寄り添ったほうがいいかと。これから頼み事をするなら、こちらの常識を押し付けるのは印象低下につながります」
「おぉ、そうか・・・」
リンゼの耳打ちに、ゴルドは納得し、咳払いを一つし、話に戻る。
「わかった。ヒロ殿だな」
「ゴルド様。ヒロシ様です。名前を間違えております」
「あれ?え?そうだっけ?ごめん、今のなし!ほんとごめん」
キリッと決めてから、リンゼに指摘されて慌て始めるゴルドに、少年はニコニコと笑顔を向けていた。
「ヒロ!いいですね!ぜひそう呼んでください!なんか友達みたいで嬉しいなぁ~」
「お、おぉ、よろしいか?ヒロ殿。さすが英雄ともなれば心が広い」
「殿とかもいらないですよ。ヒロでいいです。それで、ゴッド様」
あ、私はゴッドのままなのね、とゴルドがもういいやと受け入れたところで、ヒロから質問が出てくる。
「ゴッド様はこの領地を治める偉い人、と言うキャラですね?」
「キャラ?う、うむ。私がこの地の領主なのさ。無相応にもね」
「領主に、必要とされて、僕は召喚されたわけですか?あ、それとも事故?偶然?」
「いや、私が意思を持って呼んだのだ。英雄に、ヒロに来てくれと頼んだ」
ゴルドはきっぱりとそう言う。
リンゼは、成功すると思ってなかったくせにと頭では思っていたが、顔はいつもの無表情であった。
「分かりました!僕でよければ力になります!」
「お、おぉ・・・ありがたいけど、そんなに安請け合いしていいのかい?せめて何をして欲しいか聞いてからとか・・」
ヒロのあまりの純粋さに、ゴルドはさすがに良心が痛くなり、助言をし始める。
だが、ヒロはそれよりも、と前置きして、真剣な表情になる。
ゴルドもその空気を察知し、姿勢を整える。
「いよいよ、私が君を呼んだ理由の説明だな」
「いえ、それよりも、僕にどんなチートがあるかの確認が先です。ステータス画面を確認したい!」
「す、ステータス画面?・・・なにそれ?」
あっけに取られるゴルドを差し置いて、ヒロは、ステータスオープン!とか、表示せよ!ステータス!ホームボタン!鑑定!自分に鑑定!スタート!ポーズ!と、次々に聞き慣れない言葉を発され、ゴルドとリンゼは、ヒロからちょっと距離を取った。
「あ、あの~、ヒロ、さん?・・・何をされているのかな?」
「うーん、上手くいかないなぁ。ねぇねぇゴッド様、ステータスとかその人の能力を調べる魔法ってあります?」
「・・・能力を?・・・どうなんだ?リンゼ」
「その人の能力などを簡単に調べられる魔法があるなら、まっさきにゴルド様をお調べします。それをしていないので、そんな便利な魔法については、私どもでは分かりません」
「たはー!そうだよね~、まず俺を調べるよね~、っておい」
ゴルドがツッコミを入れて、リンゼは変わらずの無表情だが、ヒロはそっか~、残念がる。
「場合によってはチートなし、無能スキルとかハズレスキルの可能性もまだあるのか・・・まぁ、僕ほど漫画アニメラノベを読み込んだ人間なら、小石を生み出す能力だけでも、何とかさせれると思うんだけど・・・」
「小石を生み出す?ははっ、それは何ともささやかな能力だな」
そういって笑うゴルドに対して、ヒロはん?っと違和感を覚えたのか、右手を開くと、いつの間にか石があった。
「・・・へ?」
「あ、何となくそうかなって思ったけど、そうか、これが僕の能力かな?」
「うぉぉおおおお!え?石!石が!え?ヒロだしたの?どっから?!ねぇどっから?!」
リンゼがやれやれとばかりにゴルドを嗜める。
「ゴルド様。これは手品ですよきっと。そこらの石をヒロ様が隠し持って、あたかも生み出したかのようにみせる手品で・・」
「あ、ほら、出せるよ?」
リンゼのその指摘に、ヒロは右手から次々と小石を生み出して、右手のひらの上に小石の山を積み上げた。
リンゼは無表情で固まり、一時停止するが、すぐに再起動して頭を下げる。
「これは、ご無礼をお許しください、ヒロ様。どうぞ、その小石を私めにお投げください」
「いやしないよ?」
「やっぱり!小石を生み出してる?!すげぇぇええ!英雄すげぇぇえええ!!」
ヒロが冷静にリンゼにそう言っている間も、ゴルドは騒がしく小石を指差して興奮している。
そうこうしている間に、紅茶はすっかり冷めてしまっていた。




