共有者のネラとリラ
山間のエクリプシス村に、夜の帳が下りる。星空は木造の家々の屋根を照らす。だが、ネラは自室の小さな窓辺に立ち、震える指でカーテンをそっと握る。
(この村にも狼が来た……明日から戦いが始まる……でも、怖い……。)
彼女の心は不安で波立つ。窓の外、星が冷たく瞬く中、ネラは部屋をウロウロと歩き回る。木の床が小さな足音を返す。時折立ち止まり、窓に額を押し当て、冷たいガラスに吐息が白く曇る。
「明日から議論が始まるんだ……私、ちゃんとやれるかな……」と呟き、両手で顔を覆う。
ちゃんとやる。
たったそれだけの事なのに、ネラの不安は膨らんでいく。
彼女はベッドに腰掛け、膝を抱えて小さく縮こまる。
「怖い……」
その時、ネラの心に明るい声が響く。
『は~い♪ネラ、元気にしてる? どうせ、アンタの事だから、ビビってるんじゃないの? 』
ネラは息を呑み、部屋を見回す。
「……リラ!?」
声の主は、遠くにいるはずのもう一人の共有者、リラだ。ネラは窓辺に駆け戻り、星空を見上げる。
「リラ! や、やっぱり聞こえた! 驚いたんだから!」
星の光が彼女の瞳に宿り、リラの声が再び響く。
『アハハ、や〜っぱりアンタ、ビビってるでしょ?』
エクリプス村は、星の加護を受けた特別な村だ。
稀に『共有者』と呼ばれる者が生まれ、夜になると星の力で遠く離れた者と心を通わせる事が出来る。
――今のネラとリラのように。
ネラは窓辺に立ち、星の光に照らされながら手を握りしめる。リラの声が、頭の中に軽やかに響く。
『大丈夫よ。アンタにはアタシがついてるんだから、何があってもしっかり守ってあげる! アンタが疑われても、アタシが絶対に守ってあげるんだから!』
ネラは目を潤ませ、胸に手を当てて小さく頷く。
「う、うん……! ありがとう、リラ……!」
彼女はベッドに腰を下ろし、膝の上で指を絡める。リラの声が弾むように続く。
『だけど……勿論、ネラにも協力して貰うからね!?』
ネラは笑顔でリラへと届ける。
「うん……! 私もリラが疑われてたら守る……!」
『あっ、勿論、それはそうなんだけど、アタシが言いたいのはそういう事じゃなくて……』
ネラはベッドから立ち上がり、窓にそっと手を置く。
「えっ……? 私、何か間違ってる……?」
彼女の声はかすかに震え、星空に目をやる。
『フフ、ネラは間違ってないよ。だから、そういう所。ほら、アタシってこういう風な大雑把な所あるじゃない? 部屋もネラと違って汚いし』
リラの声に、ネラは小さく微笑み、机の燭台に指を滑らせる。
「そうだよ。たまには掃除しなよ。」
『うるさい! あ〜、だからこういう風な余計な事も言っちゃう所もあるし……こういう部分って、ネラの方がしっかりしてるでしょ?』
ネラは燭台をそっと戻し、頬を染めて俯く。
「……でも、リラはそこがいい所だよ」
彼女は再び窓辺に立ち、星空に息を吐く。
『だから、きっと明日の議論もこういう感じになると思うの。私は大雑把に色々言っちゃう事になると思うのよ。ネラは私が言った事から、ネラが得意な繊細に考えるって事をしてほしいの』
ネラは目が輝いた。星空と同じように。
「あっ、それなら私も出来そう……! 私はリラみたいな事出来ないし……! その作戦、凄い……! 天才だよ!」
彼女はベッドに飛び乗り、声を弾ませる。
『当たり前でしょ? 狼も今、こういう作戦を考えてるんだから。アタシ達もしっかり作戦立てないと!』




