村人のベッカーと村人のカールトン
ペグ村、二日目の朝。
集会所の窓から差し込む陽光が、埃の舞う空気を金色に染めていた。
「カールトンとのタイマンか……まぁ、あまり気乗りはしないが、仕方ないねぇ……」
ベッカーは笑みを浮かべながらカールトンを見つめた。
その笑顔は、今のカールトンには完全に死刑宣告にしか見えなかった。
(俺……ベッカーさんの手で吊られるのか……?)
カールトンの心に怯えが生まれる。
「ちょ、ちょっと……あの……ベッカーさん……! 俺……!」
カールトンが慌てて立ち上がった瞬間――
「はい、死んだ! 今、君、死にました! 君の負け!」
ベッカーが指を突きつけて叫ぶ。
(な、なんでだ……? まだ何も言ってないのに……!?そもそも、まだ議論はしてないのに……!も、もしかしてブラフなのか……?)
カールトンは怯えながら考える。
フェイゲンが肩を震わせて笑いを噛み殺した。
チャックも吹き出しながら呟く。
「……ヤバいですね、これ」
だが、二人の反応を見て、カールトンはベッカーの言葉が真実だと悟った。
でも、何故、俺の負けなんだ。
ベッカーの言葉の意味も、フェイゲンとチャックの笑いの理由も、まったくわからない。
わかるのはただ一つ。
今日、自分が負けて退場する。
しかも、最初に話しかけてくれたベッカーさんの手によって。
「負け〜♪ 負け〜♪ お前の負〜け♪」
ベッカーが軽快なリズムで歌い出す。
その音色が、カールトンの耳にはひどく耳障りだった。
カールトンは歯を食いしばり、震える声で問いかけた。
「な、なんで……なんで、俺の負けなんですか……?」
決意を込めた瞳で、ベッカーを真っ直ぐ見つめる。
ベッカーはニヤリと笑って、さらりと答えた。
「やっと言ったね? それ。お前が負ける理由は『その話、詳しく聞かせて下さい』が出来てなかったから。」
フェイゲンが机を叩いて爆笑し始めた。
「ハハハハハ! ヒ〜ッヒッヒ!」
チャックも腹を抱えて笑う。
「これ、面白いですねぇ!」
「お前さぁ?フェイゲンが『今日はカールトンと俺の択になる』って言った時に、なんでそうなるか、わかってた?」
ベッカーの声に、どこか優しい響きが混じる。
「あっ……いや、わかって……なかったです……そう言われましたから……」
カールトンは素直に答える。
その感じた優しさを信じて。
「じゃあ、お前がやる事は、『ちょっと待って下さい。ストップして下さい。なんで俺とベッカーの択になるんですか? 僕、わかってないんです、教えて下さい』
なんじゃねぇのか!?」
ベッカーの言葉にカールトンの頭に朝の記憶が蘇った。
「なぁ……? なぁ! なぁ!? そうじゃねぇのか!?」
ベッカーは何度も念を押すように続けた。
その言葉で記憶が鮮明になってくる。
ベッカーから授けられた必殺技。
『足し算だけが議論じゃない。引き算も必要だ』
「理論・セオリーもわかってないお前が、理論・セオリーのわかってる俺と喧嘩して勝てるとでも思ってんのか? お前が勝てるとしたら『ただの偶然』だ。だがそれは違う。偶然は全部計算で再現するものだ。その為には計算式の理解が必要だろうが!?」
ベッカーの声に熱がこもる。
でも、それは狼への怒りじゃない。
カールトンは確かに感じ取った。
カールトンは一度大きく深呼吸して、ベッカーの瞳を真っ直ぐ見つめて言う。
「本当、すいませんでした……!ただ、自分で言うのもなんですけど、俺、始めてなんですよ。次はしっかりやるから、多少は見逃して下さい。」
その言葉にベッカーは一瞬目を丸くし、そして満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、次、期待してんぞ? はい、お前の次のやるべき行動は?」
カールトンはフェイゲンに向き直り、
はっきりとした声で告げた。
「フェイゲンさん、なんで俺とベッカーさんの二択になるんですか?
それ、教えて下さい。」
ベッカーが満足そうに大きく頷いた。
フェイゲンが口元を緩めて、ゆっくりと口を開いた。
「よし、じゃあ説明するぞ。」
朝の陽光が、カールトンの背中にそっと降り注ぎ、
まるで「よくやった」と褒めているかのように、
彼の肩を優しく温めた。




