狼のパーマー
ペグ村の初日の議論で、追放者に選ばれたのはパーマーだった。
パーマーの魂は『転生』の準備を始めていた。
しかし、パーマーは転生を行わずに、魂だけのままペグ村の集会所にと戻った。
『この戦いの行く末がどうなるか見守りたい。参加した自分には結末を知る義務がある』
そしてペグ村、二日目の朝。
空はまだ薄い藍色を残しながら、東の端が茱萸色に滲み始めていた。
集会所の古びた扉が軋みながら開き、八人の村人が次々と朝の光の中に姿を現す。
パーマーは魂だけの、半透明な姿で、昨日自分が座っていた椅子の背もたれに腰掛けていた。
「おっ、8人いるみたいだな? 狩人が護衛成功したみたいだな。とりあえず、パーマーの霊結果を発表する。パーマーの霊結果は黒だ。狼吊りは成功だ。」
フェイゲンの声が、朝の静けさを切り裂く。
「いいね。縄余裕あるじゃん。この調子で行こうぜ」
ベッカーが笑みを浮かべる。
「そうですね。ナイスな初日でしたね」
チャックも同じように笑みを浮かべて答える。
「あぁ、パーマーさん……狼だったんですか……」
カールトンだけが、どこか浮かない顔で呟いた。
パーマーはその表情を見て、胸の奥が疼いた。
「おい、カールトン、もっと喜べよ? お前は昨日、パーマーに投票してたんだろ? お前の狼読みした先がちゃんと狼だったわけだ。まぁ、お前がパーマーを村人だと思って、俺が乗っ取り霊である可能性を考えるのも勿論いいぞ?」
フェイゲンがからかうように言う。
「あ、いや……フェイゲンさんを疑ってるわけではないです。 フェイゲンさんが、黒って言うなら、俺も信じます。それでまぁ、俺も投票した身分なんですけど……」
カールトンは口を開く。
「おっ、投票理由を発表してくれるか? 一つ、成長したな?」
フェイゲンは笑みを浮かべて、続きを待つ。
「あの〜、正直に言いますね? 俺『なんとなく』なんですよ。いや、なんだろうな?確かに、パーマーさんに対しては、ベッカーさんとチャックさんの二人みたいに『こっちが真と思う』の意見出さないんですか?二人に比べて『まだ判別不能』が多くない?とは思いましたよ?」
カールトンは語り始める。
パーマーは魂のまま苦笑いした。
(……確かに。俺は控えめすぎたな。ベッカーとチャックに比べたら、明らかに動きが鈍かった)
「うむ。続きを聞かせてくれ。そのお前の投票理由はお前の色を伝える事になる。」
フェイゲンが優しく促す。
「そう言ってくれるなら、正直に言います。昨日俺に『その話、詳しく聞かせて下さい』って択をくれたじゃないですか? 俺、パーマーさんに対して、それをしていません。」
カールトンはフェイゲンを瞳を見つめながら言う。
パーマーも同じことを感じていた。
確かに昨日、カールトンとの対話はほとんどなかった。
自分から振るべきだった。
「だから、なんでしょうかね?パーマーさんは狼だったんでしょうが、俺がそれをもっとしてたら、こんなモヤモヤとした感じではなくて、皆みたいに『やった!』って喜べたんだと思います。なんか、すいません。」
カールトンは頭を下げる。
パーマーは思わず声を出していた。
「お互い様だ。お前だけが原因じゃない。お前は初心者だろう。初心者のお前に対話を振るのはどう考えても経験者の俺だろ。」
――もちろん、その声はカールトンには届かない。
「そうだな。そこはお前の未熟な点だ。しかし、お前は今、戦士への一歩を踏み出したぞ。相手が狼であれ、しっかりと議論をしなければ、そこにあるのはそういったモヤモヤした勝利だ。」
フェイゲンは静かに頷いた。
「俺、今日は『その話、詳しく聞かせて下さい』を意識して、議論していきます。すいませんでした!」
カールトンは頭を下げる。
「俺もすいません。初心者のコイツにこんな思いさせてすいません!」
パーマーも魂のまま、同じように頭を下げた。
「うむ。お前は戦いの中で成長をしている。それで十分だ。例え相手が狼であろうが、そういった敬意を持って戦うように。ただ勝てばそれでいいというだけでは誇りは得る事は出来ん。」
フェイゲンのその言葉を聞いた瞬間、パーマーは自分が負けて当然だと悟った。
自分の強みは『協調性』だったはずだ。
これまで『村を騙す』ではなく『村に溶け込む』スタイルで戦ってきた。
初心者がいるなら、真っ先にフォローして、安心させて、村全体の議論の質を上げる。
それが自分の役目だった。
なのに、初日にそれを行なったのはフェイゲンだった。
だから、フェイゲンが黒を出した時、誰も迷わずフェイゲンを信じた。
自分とフェイゲン、どっちが『村に溶け込んでいたか』と言われたら、明らかにフェイゲンだった。
朝の陽光が集会所の床をゆっくりと這い上がり、
パーマーの魂を淡く透かしていく。
パーマーは歯を食いしばり、
誰にも届かない声で、カールトンに向かって呟いた。
「俺は狼だ…… だから、村の勝利は願う事は出来ない……だから、カールトン…… そうやって一つずつ強くなれ……そして、強くなって負けろ。」
風が一瞬だけ、集会所の埃を舞い上げた。
誰も気づかなかったが、その風は確かにパーマーの最後の言葉を乗せて、カールトンの耳のすぐ横を、そっと通り過ぎていった。




