村人のカールトンと霊能者のフェイゲン
ペグ村の朝は、集会所の窓から差し込む陽光が埃の舞う床を金色に染め、村人たちの影を長く伸ばしていた。
初日の議論。皆が次々と「好みの盤面」の話を終えたところで、再びフェイゲンが口を開く。
「まぁ、この話は終わりにしようか? 来てない盤面の好みの話などしても仕方ない。今回は2-1盤面だ。もう2-1盤面やるしかないんだ。」
フェイゲンが話を打ち切った瞬間、カールトンは胸の奥でホッと息をついた。
自分のわからない話が終わった。これで少しは楽になる……はずだった。
「え〜、役職……占いに白を出されていない人間は……カールトン・ベッカー・チャック・パーマーの四人だな? 今日はこの四人から一人追放だ。」
フェイゲンは四人の顔をゆっくり見回しながら言った。
カールトンは自分の名前が挙がった途端、心臓が喉まで跳ね上がるのを感じた。
(俺……今日、追放される候補なのか……)
「まぁ、とりあえず、各自、意気込みみたいなの言ってみたらどうだ? 最初は、カールトン……お前からやってみろよ? お前、まだ喋ってねぇだろ?」
フェイゲンの指が自分をまっすぐ指す。
朝の陽光がその指を白く輝かせ、カールトンの胸を突き刺すように感じられた。
『お前、まだ喋ってねぇだろ?』
その一言が、耳の奥で何度も反響する。
(もう疑われてる……? 俺、変だと思われてるのか……?)
「……よし、カールトンの意気込みに注目しようか。」
ベッカーが自分に目を向ける。他の村人たちも一斉に視線を向けてきた。
これ以上、疑われてはいけない。
カールトンは慌てて口を開いた。
「えっと……俺、カールトンです……! が、頑張ります……!」
瞬間、集会所が静まり返る。
村人たちの顔は無表情だった。
「なんだ、それは……? やり直し。もう一回、やり直し。」
フェイゲンが冷たく、容赦なく言い放つ。
カールトンの頭が真っ白になる。
(や、やっぱり……疑われてるんだ……!)
「あの……俺、頑張りますんで……! よろしくお願いします……!」
頭を下げながら必死に言い直す。
しかし、それは自分で言ってて情けなくなるようなセリフだった。
「ちょっと、もう一回やり直ししてくれる?」
フェイゲンが再び冷酷に要求する。
今度こそ涙がにじみそうになった。
何度も何度もやり直し……
自分はなんでこうなっているんだ……?
何故、こんなにも疑われる……?
「なんかね? お前の意気込み、凄く『ただ答えてるだけ』って感じがするのよ。なんか、もっとないの? そういう風にただ要求された事に答えてるだけってのはダメだよ? 常に『俺は村だぞ、信じてくれ!』とか『おい、こんなセリフ、狼には言えないだろ!?』みたいな気持ち込めないとダメだよ?」
フェイゲンは呆れた顔で言った。
しかし、その口調に、カールトンはふと違和感を覚える。
……疑ってるわけじゃ、ないのか?
カールトンは覚悟を決めて、もう一度、深呼吸して、声を張った。
「何度もすいませんっ……! 俺、カールトンです。実は俺、こういう狼追放会議は始めてで……その、どういう風にしたらいいかわかんない部分もあるんですけど……あの、よろしくお願いします……!」
隣でベッカーが、小さく頷いたような気がした。
「あ〜、そうなのね? 始めてなんだ? だから、モゴモゴしてたのね。なんか、コイツ喋らなくて変だなぁと思ってたんだけど、それは始めてだったからか? 一番最初にそれ言えよ!?」
フェイゲンは苦笑いに変わり、肩をすくめる。
「まぁ、いいじゃねぇか? 三回目でようやく言えたんだから。」
ベッカーも笑いながら言った。
カールトンはここで理解した。
確かに自分は疑われていた。
でもそれは『狼だ』と疑われていたわけじゃない。
『様子が変だ』『なんか隠してるみたいだ』という理由で、ただ警戒されていただけだった。
そして、今。
自分の「始めてなんだ」という素直な一言で、彼らは納得してくれた。
朝の陽光が集会所の床に差し込み、カールトンの影を優しく包んだ。
信じて貰えるのかもしれない……
確かに自分は始めてで右も左もわからないけど、
彼らには、自分の事を信じて貰えるのかもしれない……
カールトンは小さく息を吐き、初めてほんの少しだけ肩の力を抜いた。
初日の議論は、まだ始まったばかりだった。




