狼のジョーと狼のゲイル
数々の狼が散っていった難攻不落の村、アイアンヴェイル。
完全な狼となったジョーとゲイルは、仲間の仇を討つため、この村に乗り込んだ。陽光が木卓に刃のように差し込み、空気を重くする。
ゲイルは静かに立ち、ジョーは隣で軽く肩をすくめるが、この村の異様さを身を持って味わうことになる。それでも陽光は二人の瞳を照らしている。
ーー戦いは三日目に突入していた。
「自分から白状しろよ!?」「うるせぇ!てめぇが一番怪しいんだよ!」
村人達の怒号が石壁にこだまする。目は血走り、唾が飛び、拳を振り上げそうになる者もいる。
陽光が木の窓から差し込むが、熱気で空気が歪む。叫び声が矢のように飛び交い、疑念とも言えないような物が渦を巻く。
ゲイルは村人たちを見据え、突破口を見出そうとする。ジョーも歯を食いしばり、村の隙を探し出す。
陽光は村人たちの荒々しい顔を照らす。
「てめぇが狼なんだろ、ゲイル!?」
一人の村人がゲイルを指差し、唾を飛ばす。目が血走り、声が割れる。
「…何故、そう思う?」
ゲイルは静かな声で返すが、額には汗が滲む。
「そういう所が狼臭ぇんだよ!」
村人の叫びに、他の村人たちも拳を掲げ、怒号で応える。
ゲイルは唇を噛み、冷静に続ける。
「そういう所とは、どういう所だ? それを言葉にしろ。」
だが、村人は吠える。
「ガタガタ面倒臭ぇ事言ってるんじゃねぇよ!」
他の村人たちも「黙れ!」「狼なんだろ!」と叫んで、罵声の嵐を巻き起こす。
村人達との話が噛み合っていない。その状況にゲイルの心臓が軋む。
(…恐らく、俺はここで終わるだろう。)
ゲイルは自分の行く末を察する。
(この村が難攻不落と言われていた理由がわかった…ここには何一つ理はない。数日前からずっとこれだ。叫ぶだけ…ただ声の大きな輩が生き残る村だった…。)
陽光が彼の額の汗を照らす。
(だが、こちらにも絶対に譲れないものがある…! )
ゲイルは感情を剥き出しに叫ぶ。
「お前たちは狼以下の獣のような存在だ! ただ叫んでいるだけだ! 人間であるなら、もっと知性を持て!」
陽光が彼の声を震わせ、集会所が一瞬静まる。拳を握り、額に汗が光る。
「なんだと、てめぇ…!?」
村人達は業火のように燃える目で睨みつける。
「ふざけんな!」「狼が吠えてるぞ!」と再び咆哮を上げ、静寂を打ち砕く
陽光がゲイルの震える肩を照らす。
「おい、待て! てめぇ、待て! 今なんて言った!?」そこにジョーが大声で割り込む。
陽光が彼の鋭い瞳を輝かせる。ゲイルは不審そうにジョーを見る。
「…何?」
ジョーが血走った目で言う。
「『狼以下の獣のような存在』…? ゲイル、まるでコイツが狼じゃないって知ってるような言い方じゃねぇか!?」
ゲイルの瞳が揺れる。
「それは…」
ジョーは止まらず畳み掛ける。
「それに『人間であるなら、もっと知性を持て』…? おい、まるでアイツが人間である事を知ってるような言い方だなぁ!?」
ゲイルは唇を噛む。
「…違う!」
村人たちがジョーに乗る。「そうだ! おかしいぞ、てめぇ!」「どうなってんだよ!?」と唾を飛ばし、拳を突き上げる。
「追い詰められて、とうとう尻尾出しやがったなぁ!?コイツが狼に違いねぇぞ!?」
ジョーは誰よりも強い言葉をぶつける。誰よりも哀しい目をして。
(ジョー…俺の最後の策を拾ってくれたようだな…感謝する。お前ならわかってくれると思っていた。)
ゲイルの表情が消える。
(俺はこの村では生き残れない。俺は、ここの奴らの勢いには勝てない。だから、ここが限界だ。だが、ジョー、お前は俺とは違い、その勢いを持っている。獣にやられるぐらいなら、俺は狼の理にやられたい…。)
陽光がゲイルの瞳に映り、額の汗が滴る。
ジョーは歯を食いしばりながら、ゲイルを睨み続ける。陽光が彼の鋭い瞳を照らし、覚悟が交錯する。
(今、ここに理の種が生まれた。ジョーの言葉でだ…。)
ゲイルは全てを託す。
(この村の獣たちは日に日に減っている。明日になれば更に減る…理を邪魔する獣の咆哮は、明日になればまた薄まる…その時、ジョー、お前の理の種は芽生える。花を咲かせ、俺たちの勝利を掴め。お前はもう俺以上の狼だ。仲間の仇を討ってくれ…!)
陽光がゲイルの握った拳を照らす。
ーージョーの言葉が決定打となり、ゲイルは処刑台へと連れていかれた。
村人たちの怒号は響き続ける。
「ゲイルが狼に間違いねぇ!」「あぁ、そうだ!」
陽光がゲイルの影を長く伸ばし、孤高の足音を刻む。ジョーの視線を背中に感じながら。
ゲイルは思考を巡らせるのをやめた。
最後に強き想いを刻んで。
(…また、狼として生まれ変わりたいものだな。)




