狼のパートと狼のコリンズ
インザエアトゥナ村の夜は、闇が深く、星明かりが薄く村の輪郭をぼんぼりと浮かび上がらせていた。
村の外れ、森の影に潜む二人の狼――一人はパート、もう一人はコリンズ。月光が木々の隙間から漏れ、地面に淡い斑模様を描く。外では風が葉を揺らし、村人たちの寝息を優しく掻き消すようにささやく。
パートは決まった相棒を持たなかった。彼は村が崩壊すると、その時行動した仲間と別れ、新たな村と新たな相棒を探す。
それは知識を吸収する為。
狼とは言っても、それぞれ独自のスタイルを持っている。騙すのが得意の狼もいれば、村に同化するのが得意の狼もいる。パートはその時その時の相棒の強みを吸収してここまで来たのだ。
そして、今回、パートの相棒に選ばれたのはコリンズだった。
「まさか、コリンズさんと一緒に出来るだなんて……今回は幸運ですね。コリンズさんの知識は噂になってますよ。」
パートが笑みを浮かべて言う。月光が彼の顔を照らし、期待の輝きを宿す。
「え〜? 噂になってるって、どんな風に噂になってるの?」
コリンズが村を眺めながら言う。声は夜の風のように軽やかで、遠くの村灯りを映す。
「コリンズさんの理論は優れてるって噂になってますよ? やっぱり、コリンズさんぐらいになると、それが普通ですか?」
パートは期待した目をして続ける。月光が彼の瞳に落ち、知識欲を灯す。
「あ〜、それ昔の話だよ。僕、今、そんなスタイルでやってないよ。僕は楽しく騙せれば、それでいいやって感じでやってる。」
コリンズは表情を変えずに言う。夜の闇が彼の飄々とした態度を包む。
「楽しく騙す……? 何を言っているんだ……!? 貴方みたいな狼が何故そんなスタイルに!?」
パートは驚く。強い狼と噂に聞いていたコリンズだが、態度はそうは見えない。噂が間違いだったのかと、疑問に思う。月光が彼の狼狽を照らす。
「だって、僕、そんな難しい技術使わなくても勝てるもん。」
しかし、コリンズが言う。曇りなき瞳でパートを見つめながら。その自信に満ち溢れた発言はやはり本物だとパートは思う。夜の風が二人の間を吹き抜ける。
「問題ね? 初日、占いが二人と霊能者が一人、2-1盤面です。占いAは村Aに白。占いBは村Bに白。グレーの村人はCDEFの四人になりますね?」
コリンズは淡々と騙り始める。声は夜の静けさを破らず、村の影に溶け込む。
「あぁ、よくあるスタンダードの盤面だな?」
パートは答える。月光が彼の顔を照らし、知識の渇望を映す。
「……この初日に考える事は?」
コリンズは問いかける。瞳が夜の闇に輝き、試すように。
「フフ、舐めてもらっちゃ困るね? 基本は村人CDEFの精査で、それに加えて占いの真偽精査って所だろ? 俺は、村人精査を6ぐらいの力で、占い精査を4ぐらいの力でやるね。」
パートは笑みを浮かべて答える。声に自信が滲む。
「お〜、君凄いね。今回はいい相棒と出会えたよ。しっかり占い精査をやるなんて凄い凄い!」
コリンズは手を叩きながら答える。月光がその拍手を照らし、夜の森に響く。
「……な、舐めているのか?」
パートは言う。声にわずかな苛立ちが混じる。
「でも、昔の僕はね? そこに加えて、霊欠け乗っ取りチェックとかかな? そういう事もやってたし……後、それぞれの視線読みだね。『Cは、DとEに注目している』『DはCに返事をしつつ、占いABを見ている』みたいな事をやってた。」
コリンズは飄々と答える。夜の風が彼の言葉を優しく運ぶ。
「視線読み……ですか……?」
パートは驚く。コリンズの口から自分にない知識の言葉が出てきたのだ。月光が彼の驚きを映す。
「あ〜、後、発言レベル精査とかもかな? 全員の発言レベルを見て、Aはレベル3、Bはレベル2とかそういう風に自分の中で、それぞれの発言レベルを作ってた。多分、君の発言レベルは、僕の中で4から5ぐらいあると思うよ?」
コリンズは笑顔を見せる。夜の闇がその笑みを柔らかく包む。
「……あ、ありがとうございます。」
パートは応える。声に戸惑いが混じる。
「はい、今、一気に君の発言レベル下がりましたね!? その『ありがとうございます』って言葉は、レベル1です。とても『村人精査を6、占い精査を4でやる』なんて言ってた人間とは思えませんよね!? 何故ですか!?」
コリンズは指を差しながらパートに指摘する。月光が指先を照らし、夜の森に緊張を走らせる。
「い、いや、それは……」
パートは指摘され焦る。夜の冷気が彼の汗を冷やす。
「いや、まぁこれは冗談だけどさ? 今、君が僕の質問に答えれなかったのも『狼だから答えれなかった』じゃなくて、単純に『そこまでの知識がなかったから』でしょ? こんなの指摘しても仕方ないんだよ。」
コリンズは続ける。声は優しく、師の如く。
「まぁ、そうですね。はい。俺は今の返事、貴方を『騙してやろう』だとか、そういった感情はありませんでした。」
パートは答える。月光が彼の素直さを照らす。
「それに、君は発言レベルが4から5ぐらいはあるから、今の僕の話についてこれてるでしょ? こんなの発言レベルが1の話したって『コリンズさんの言ってる事わかんない』って、僕が疑われちゃうんだよ。」
コリンズは眉を顰めて答える。夜の風が彼の言葉を運び、教訓を刻む。
「なるほど。知識があり過ぎるが所以に、他者に理解されないと。」
パートは真剣な目でコリンズに言う。月光が二人の視線を繋ぐ。
「それが、違う! それは知識がある者の驕り!」
そんなパートにコリンズが指を差しながら言う。声は夜の闇を切り裂く。
「……驕りですか?」
パートは目を丸くする。月光が彼の驚きを映す。
「この状況は『僕が空気を読めてない』の。僕が一人小難しい話をして自己満足してるの。大事なのって、理論のレベルが1や2で低くても、騙したい人間の一番心に響く理論や言葉を提供する事でしょ?」
コリンズは続ける。夜の静けさが彼の哲学を深める。
「うん、うん……はい、はい……なるほど、なるほど……」
パートは何度も頷く。月光が彼の成長を照らす。
「だから、今、僕はそんなに気合い入れてやってない。さっきの盤面でも『今日はCDEFさんの誰を追放しようかな〜』って感じで、のほほんとやってるよ。昔の僕も『理論で騙す』事に拘ってた時期があったよ? でも、もう最近はほぼフィーリングでやってるよ。」
コリンズは笑みを浮かべる。夜の闇がその笑みを優しく包む。
「はぁ、参考になりました……実戦で是非拝見させて下さい。」
パートは言う。声に敬意が滲む。
「まぁ、参考になるかどうかはわかんないけどね。それじゃあ、行こうか?」
コリンズはそう言って歩き出す。
そして二人はインザエアトゥナ村へと忍び込んだ。
夜の闇が二人の影を溶かし、月光が新たなコンビの序曲を静かに奏でていた。




