狼のグロール
ラブバズ村の夜は、闇が深く、星明かりが薄く村の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせていた。
村の外れ、森の影に潜む一匹の狼――彼の名前はグロール。
月光が木々の隙間から漏れ、地面に淡い斑模様を描く。外では風が葉を揺らし、村人たちの寝息を優しく掻き消すようにささやく。
グロールは、村の灯りを遠くに眺めながら、幼少時代の記憶をフラッシュバックのように思い浮かべていた。夜の冷気が彼の毛を撫で、過去の影を呼び起こす。
ある日、皆でサッカーをして遊ぼうという話になった。リーダーの狼が、集まったメンバーに向かって問いかけた。
「皆はサッカーの経験はどれくらい?」
一人の狼が答えた。
「僕は、5歳の時からずっとやってるよ。」
続けてもう一人の狼が答えた。
「僕は、7歳の時からやってる!」
更にもう一人の狼が答えた。
「僕は去年から、皆に混ぜて貰って遊んでる!」
そして、グロールの答える番が来た。
「……僕は、三ヶ月ぐらいやってます。」
グロールは答えた。
だがそれは『嘘』だった。
グロールはサッカーをした事はなかったのだ。
自分だけサッカーをした事はないと告白して仲間外れにされるのが怖かったのだ。
だから、グロールは『嘘』をついた。
夜の闇が、彼の幼い心の恐怖を今も包むように感じられた。
サッカーが始まり、グロールは怯えながらも、見様見真似で頑張った。
『自分の嘘がバレてはいけない。』
『このついてしまった嘘を真実にしなければならない。』
グロールはそう思って、ただひたすらにがむしゃらに見様見真似でサッカーの真似事を行なった。汗が飛び、息が乱れ、夜の記憶のように暗い決意が彼を駆り立てた。
ゲームが終わった時、リーダーの狼がグロールへと言った。
「グロール、凄いじゃないか!? 三ヶ月とは思えないよ!?」
嘘が真実へと変化した瞬間であった。
これがグロールの原点となった。
あの日、彼は初めて「嘘を真実に変える」力を知った。
ラブバズ村を眺めながら、グロールは思う。狼が何の為に村を襲うのかは、わからない。
グロールはそれを神からの試練と捉えていた。
月光が村の屋根に落ち、静かな寝息が風に乗って届く。
狼は悪者ではない。神から試練を与えられた存在。
占い師、霊能者、狩人は、神からの恵みを与えれた存在。
村人は普通の存在。
そして狼は『嘘を真実に変えなければならない存在』として試練を与えられた存在。
だが、この試練は乗り越える事が出来る。あの時のサッカーの遊びで、認められたように乗り越える事が出来る。その試練を乗り越えた時に、自分はまた一つ違う存在になる。グロールはそう考えていた。夜の風が彼の毛を揺らし、決意を固める。
グロールは嘘を真実へと変える為に、ラブバズ村へと忍び込んだ。闇の中へと溶け込み、村の影に身を潜める。月光が彼の背を照らし、試練の序曲を静かに奏でていた。
グロールの試練を眺める神の視線を感じる夜だった。




