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占い師のマーヴィンと狼のワンダー

ワツゴイオン村の議論はとうとう三日目に突入した。


二日目の議論は、狩人のバビットのおかげで統率されていた。占い師のどちらが「怪しいか」ではなく、「信用に値する存在か」を軸に、村人たちは慎重に言葉を交わした。

そして三日目、占い師を名乗る二人――真の占い師マーヴィンと、狼のワンダー――が、ついに占い結果を発表する朝を迎えた。


「占い結果を発表しよう。デニスが黒だ。デニスが狼だ。」

マーヴィンの声は、朝の光のように静かだが、鋭く集会所に響いた。彼の目は、村人たちを一瞥し、反応を窺う。もう一人の狼はデニスであった。


「僕の占い結果はチェットが黒だよ。チェットが狼だ。」

ワンダーの声は、まるで霧に溶けるように穏やかだった。彼の両眼は、初日と同じく閉じられたまま。チェットと呼ばれた村人が、突然の指摘に顔を強張らせ、焦ったように身を縮める。


マーヴィンは内心で笑みを浮かべる。

(ようやく、ワンダーの口から完全な『嘘』が出た。ここからのワンダーの言葉は全てが『嘘』……全ての言葉にボロが潜んでいる。)

彼の目は、ワンダーの閉じた瞼をじっと見つめる。朝の光がマーヴィンの顔に落ち、冷静な計算がその瞳に宿っていた。


ワンダーが口を開く。

「そう言えば、パストリアスが初日にチェットのラインに気をつけろと言っていたよね? 彼の言葉にもっと耳を傾けるべきだったよ。」


その言葉に、マーヴィンは内心で笑みを浮かべる。

(この発言はきっと後付けだろう。チェットに黒結果が出た後に、パストリアスの言葉を思い出すだろうか? 何故、チェット本人ではなく、パストリアスの言葉が最初に浮かぶのは不自然ではないか……?)

マーヴィンは、ワンダーの言葉に潜む違和感を捉えた。それは彼が仕掛けるための『ポイント』だった。だが、彼はまだそのカードを切らない。軽率な攻撃は、村人たちの信頼を失うリスクを孕む。マーヴィンは、朝の霧のように静かに、しかし確実に機会を待つ。


「……チェットの黒さと、デニスの黒さの主張合戦をするのかい?」

マーヴィンの声は冷静で、まるで集会所の空気を冷やすように響く。


「ああ、そうしてくれるとありがたいね。」

ワンダーは、目を閉じたまま、穏やかに答えた。その声は、まるで朝の光に溶け込むように柔らかく、村人たちの心にそっと寄り添う。


「……なんで、そうしたいんだ?」

マーヴィンは淡々と質問する。まだ仕掛けるのは早いと自らを抑え、ワンダーの反応を窺う。朝の光が彼の顔に落ち、微かな緊張がその眉間に影を刻む。


「ようやく、黒を見つけたからじゃないか? 君もそうだろ?」

ワンダーの声は、変わらず穏やかだった。

だが、マーヴィンはその言葉を待っていた。


「いや、俺はそうじゃない。」

マーヴィンは端的に答える。自分の思考を明かすのはまだ早い。ワンダーが会話に踏み込んできているのだから、焦る必要はない。

彼の目は、ワンダーの閉じた瞼をじっと見つめ、相手の次の手を待つ。


「……じゃあ、君はどうしたい?」

ワンダーが静かに返す。その声は、まるで霧の向こうから響くように、掴みどころがない。


ここが勝負所だ。マーヴィンは息を整え、抑えた声で、しかし力強く答える。

「俺は『どちらが信用に値する存在か』それを話したい。初日・二日目とそういう議論をしてきたじゃないか? 今、ここで黒を発見したからって、疑い合いの疑心暗鬼の議論をする必要があるか? 俺とお前のどちらが『信用に値する存在』かを引き続き話せばいいんじゃないか?」


集会所の空気が一瞬、凍りつく。村人たちの視線が、マーヴィンとワンダーの間で揺れる。朝の光が木の床に模様を描き、静かな緊張が場を支配する。


「……なるほど。」

ワンダーは静かに頷く。閉じた瞼の奥で、何を考えているのかは誰にもわからない。


「黒を見つけたからって、エスカレートする必要はないだろ? 疑いだけが答えではないよ。信頼は疑いを制圧する事が出来る。ここまでずっとそういう比べっ子をしてただろ?」

マーヴィンはさらに続ける。声は静かだが、その言葉には、村人たちの心を掴む力が宿っていた。


「そうだね。僕達はそういう比べ合いをしてたね。」

ワンダーの声は、変わらず穏やかだった。だが、その穏やかさは、まるで霧のように、どこか捉えどころがない。


「正直、俺もお前も占い能力でたまたま見つけた黒だろ? そんなたまたま見つけた物をここで突然主題にしなくていいじゃないか? 今まで通り『どちらが信用に値するか』を話し合おう。」

マーヴィンは、あくまで静かな戦いを提案する。彼の目は、村人たちの反応を一瞬で捉え、信頼を積み重ねるための糸を紡ぐ。


この戦いは、相手を制圧する必要はない。議論時間終了の瞬間、ワンダーよりも『信用に値する存在』であれば、それが勝利なのだ。マーヴィンは、先ほどの言葉が村人たちの心に一つの信頼を植え付けたと信じ、静かに戦い続ける。

マーヴィンの目はワンダーを捉え続けている。


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