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狂人のジェマーソンと狩人のバビット

ワツゴイオン村の二日目の朝は、霧が一段と濃く、まるで村全体を白い布で包んでいるようだった。朝日が霧を貫く光は弱く、集会所の古びた梁に絡みつく埃をぼんやりと浮かび上がらせる。

初日に追放されたのは、熱弁を振るった霊能者パストリアス。悪かったわけではない。むしろ、ジェマーソンの「邪魔をしない」という静かな策略が、村人たちの心に不思議な説得力を与えたのだ。パストリアスがいなくなった集会所は、丸一日ぶりに静寂を取り戻していた――少なくとも、表面上は。


村人たちが集まり、朝の冷気がまだ残る中、ジェマーソンが扉を押し開けて入ってきた。彼はいつもの片隅ではなく、集会所の中央に立ち、朝の光を背に、軽く手を挙げた。


「ごめん。うっかりしてた。俺、霊能者じゃなくて狩人だったわ。ごめんごめんごめん。」


その瞬間、集会所の空気が凍った。村人たちの目が一斉に丸くなる。驚愕、疑念、混乱――朝の霧よりも重い沈黙が、木の床に重く降り積もる。


だが、一人だけ目を丸くしない者がいた。バビットだ。彼は立ち上がり、指をジェマーソンに向け、声を張り上げた。


「ちょっと待て! 俺が本当の狩人だ! コイツは偽物だ!」


今度は、村人たちの目がさらに大きく見開かれた。何より、一番目を丸くしたのは――ジェマーソン本人だった。


「お、お前……バカだねぇ……!? 何、炙られてるの!?」

ジェマーソンの声は、驚きと呆れが混じり、まるで朝の霧を切り裂くように響いた。彼の目は、初めて本物の狼狽を浮かべていた。


「……えっ?」

バビットは、ジェマーソンの言葉の意味を理解できず、首を傾げる。その仕草は、まるで朝の光に照らされた子鹿のように無垢で、しかし致命的に愚かだった。


「お前、昨日、俺、霊能者って言っただろ? 覚えてないのか? バカなのか? 霊能者って言ってた俺が今日、突然狩人って言ったんだぞ? それって偽者が最後の抵抗に一暴れしてる事だろ?」

ジェマーソンは、目を丸くしながら、ゆっくりと説明する。その声は、まるで子供に教える教師のようだ。


村人たちが、ざわめきながらバビットを軽く責める。視線が彼に集中し、朝の光が彼の顔を赤く染める。だが、それを制するように、ジェマーソンが手を挙げた。


「もういいもういい。お前らも黙ってろ。コイツ狩人なんだろ? 村人なんだろ? 村人攻めても仕方ねぇじゃねぇか?」

ジェマーソンの声は、まるで霧を払う風のように、村人たちのざわめきを静かに鎮めた。彼はバビットをちらりと見て、淡々と続ける。


「まぁ、こんな子供騙しに引っ掛かるヤツもたまにはいいじゃん。おい、バビット。悪いニュースから教えてやるよ。今日、お前は狼に噛まれて死ぬよ。」


「……えっ!?」

バビットの目が、再び大きく見開かれる。朝の光が彼の瞳に反射し、恐怖と混乱が揺らめいた。


「そりゃそうだよ。だってお前が狩人なんだろ? お前を護衛するヤツはいないじゃん。狩人が名乗るって事は、噛まれて死ぬ覚悟を持って名乗らなきゃいけない。まぁ、来世では子供騙しには引っ掛かるな。次、頑張れ。」

ジェマーソンの言葉は、まるで朝の冷気のように冷たく、バビットの心を凍らせた。彼の口元には、かすかな笑みが浮かんでいる。


「……うぅ。」

バビットは、自分の失敗を悟り、俯いた。朝の光が彼の肩に落ち、影を長く伸ばす。


「でも、いいニュースもあるんだよ。お前、狩人確定だろ? だから、お前は村人確定なんだよ。お前の意見が村の意見って事なんだ。なぁ、わかる?」

ジェマーソンの声は、突然優しくなった。


「あっ、はい……」

バビットは、ゆっくりと顔を上げた。朝の光が彼の目に希望の欠片を灯す。


「俺は、正直お前にまともな意見は出せると思ってない。だって、昨日は本物の霊能者のパストリアスに投票してるし、俺の子供騙しの狩人COに引っ掛かるようなおマヌケだ。ここで意見を出しても、どうせ、村を破滅に導くようなおマヌケな意見を出すだろなぁって思ってる。」

ジェマーソンは、軽い笑みを浮かべながら続ける。バビットの顔が、朝の光の下で真っ赤に染まる。


「でも、お前がもしもここで真実の意見を出す事が出来れば、それは村を勝ちに導くチャンスじゃないか? まぁ、俺はお前には出来るとは思ってないけどね?」

ジェマーソンの言葉は、まるで朝の霧のように、静かに、しかし確実にバビットの心に染み込んだ。


村人たちは、ジェマーソンの言葉に頷く。朝の光が彼らの顔に落ち、影を揺らす。


「だから、お前にとって今日がラストチャンスだ。ここで何にも意見を出さなかったら、お前はただただ噛まれる為に狩人COをしただけの、本当のマヌケだ。最後に一か八か、自分の考えを伝えて、それが明日も勝利に結びつけばいいんじゃないの?」

ジェマーソンは、バビットに向かって、静かに、しかし力強く言い放った。


「今日が……俺のラストチャンスなんすね……?」

バビットは、覚悟を決めたように、ジェマーソンを見つめる。朝の光が彼の瞳に、微かな決意を宿していた。


「おう、そうだ。お前のラストチャンス。まぁ、頑張れ。俺は寝とく。議論が終わったら起こしてくれ。」

そして、ジェマーソンは、集会所の隅に移動し、壁に背を預けて横になった。朝の光が彼の顔に落ち、まるで眠る子供のように穏やかに見えた。


「わかった。皆、狩人COのタイミングのミスはすまなかった。だが、その責任は取る。今日一日は俺を中心に議論してくれ。」

バビットが、集会所の皆に向かって語り始めた。朝の光が彼の背に差し込み、影を長く伸ばす。彼の声は、震えながらも、どこか力強さを帯びていた。


どこかに潜む狼は、霧の向こうで、静かに笑っているのかもしれない。

しかし、バビットがその笑みを焦りに変える事が出来るかもしれない。


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