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狂人のジェマーソン

ワツゴイオン村の朝は、まるで凍てついた静寂に閉ざされていた。朝霧が村の石畳を這い、木々の間を縫って集会所の古びた屋根に絡みつく。朝日がようやく霧を貫き、集会所の窓から薄く差し込む光は、埃の舞う室内をぼんやりと照らし出した。

村人たちは、重い足取りで集会所に集まった。この村に狼が紛れ込んだのだ。

木の床が軋む音が響き、冷たい空気が彼らの吐息に白く混じる。狼が村に忍び込んだという噂は、夜の闇から朝の光へと持ち越され、村人たちの心に不信の棘を突き刺していた。


議論は、初日から混乱の色を帯びていた。占い師が二人、霊能者が二人現れ、村は「2-2盤面」と呼ばれる状態に陥っていた。

霊能者の一人、パストリアスは、まるで自らが村の命運を握るかのように声を張り上げ、議論を牽引しようとしていた。もう一人の霊能者、ジェマーソンは、しかし、静かに片隅に立ち、村人たちの動きを冷ややかな目で観察していた。彼は狂人――村を混乱に導くために存在する、狡猾な影だった。


霊能者二人が犠牲になることは、暗黙の了解だった。占い師の見極め時間を稼ぐため、霊能者は村のために身を捧げる。それを承知した上で、パストリアスは声を荒げ、村人たちに訴える。


「占いだけじゃなくて、村人の精査もしっかりしてろよ!」

パストリアスの声は、集会所の壁に反響し、朝の静けさを切り裂いた。彼の目は燃えるように鋭く、村人達を鼓舞するかのように輝いていた。


「俺の経験上、霊能者が二人って事は霊能者は真と狂人である可能性が高い! つまり、占い師は真と狼って事だ!」

パストリアスは、まるで自らの言葉が絶対の真理であるかのように、力強く言い放った。


(経験上……ねぇ……アイツは何戦人狼ゲームをしているのだか……まぁ、俺は狂人で合ってるけどね……)

ジェマーソンは無言で、村人たちの顔を一つ一つ眺める。彼の目は、朝の光に照らされ、まるで凍った湖の表面のように冷たく、底知れぬ深さを湛えていた。パストリアスの熱弁を聞きながら、彼の内心は静かに嘲笑を浮かべる。


「占い師が狼だったら、こういった話し合いの中で狼は援護してくるからな!? 安易に占い師の真偽判断するヤツには気をつけろ!」

パストリアスの声はさらに熱を帯び、村人たちに警告を発する。朝の光が彼の額に汗を浮かび上がらせ、その熱量は集会所の空気を一層重くした。


(お〜お〜、それ何世代前の狼だ……? そりゃ、昔はそういう狼はよくいたよ。でも今の時代の狼はそんな簡単に援護しないんじゃないか……? 援護した人間なんて真っ先に怪しまれるだろう……?)

ジェマーソンは、呆れたように目を細める。彼の表情は、まるで古い教科書を読む教師のように、退屈と軽蔑に満ちていた。パストリアスの言葉は、ジェマーソンにとって、時代遅れの戯言にしか聞こえなかった。


「おい、チェットの動きに気をつけろよ? ラインが浮き彫りになってきたんじゃねぇの?」

パストリアスが、突然チェットと呼ばれる村人に指を突きつけ、声を張り上げた。チェットは驚いたように身をすくめ、視線を彷徨わせる。


(やめてやれよ、本当……チェットが狼か村人かはわかんないけど、アイツが最初に意見を出したんだろ……? それを一々突っかかってたら言語統制だよ……皆、怯えて、何にも言えねぇよ……)

ジェマーソンは眉をしかめ、内心で舌打ちする。彼の目は、チェットに向けられたパストリアスの指を冷ややかに追う。パストリアスの行動は、村の議論を締め付ける鎖のように、自由な発言を抑圧していた。


「チェットのラインを中心に他の人間もラインも精査するべきだ。お前らしっかり精査しろよ!」

パストリアスは、まるで指揮官のように、村人たちに指示を飛ばす。その声は、朝の霧を貫くほど力強かったが、ジェマーソンにはただの騒音にしか聞こえなかった。


(お前がそれを言っちゃダメなんだっての。お前がそれを言うと狼は『ラインにならないように気をつけよう』って考えるじゃないか。コイツ、本当、余計な事ばっかり言いやがるなぁ)

ジェマーソンは完全に呆れ、内心で毒づく。彼の目は、集会所の隅で縮こまる村人たちを眺め、静かに計算を巡らせる。


(コイツ、覚悟決まってないなぁ。俺達霊能者が真か偽かなんて誰も考えてないよ。占いを見る為に俺達は犠牲になるんだろ。その覚悟決まったんじゃないのかよ。俺は後は狼の動きやすいようにしてねって黙って邪魔してないのに、なぁ〜んでコイツは邪魔するのかなぁ?)

ジェマーソンが無言なのには理由があった。


霊能者として追放される運命にある彼は、真偽の議論に巻き込まれる必要はないと考えていた。狂人である彼の役割は、村にノイズを撒き散らし、狼が動きやすい空間を作ること。それゆえ、彼は静かに、しかし確実に、議論の流れを観察し、機会を待っていた。


(もっとやるべき事あるだろ? 村人全員が均等に意見が出るようにするとかさぁ? 中にはヘボの村人もいるだろ? そういうヤツをフォローするとかあるだろ? まぁ、俺はやらないけどね……アイツは本当に自分が目立てばそれでいいのかねぇ? 村の足並みを霊能者如きが乱すなっての……)

ジェマーソンは、呆れ顔でパストリアスを見つめる。朝の光が彼の顔に落ちると、その表情は、まるで冷笑する影のように不気味に映った。


そして、ついにジェマーソンが口を開く。

「あのさ? 対抗霊がうるさいけど、気にせず意見出せばいいから? 基本は占いの二人の事を考えるのをベースに、おまけとして村人の事も考えればいいから。」


彼の声は静かだったが、集会所に響くその言葉は、まるで霧の中に投げ込まれた石のように、微かな波紋を広げた。ジェマーソンの目は、村人たちをゆっくりと見渡し、反応を窺う。パストリアスの熱弁とは対照的に、彼の言葉は冷たく、計算されたものだった。狂人である彼は、村の歯車をさらに狂わせるため、静かに、しかし確実に動き始めていた。


どこかに潜む狼は、朝の霧の向こうで、ひそかに笑っているのかもしれない。ジェマーソンの策略は、その霧のように、村全体を静かに覆い尽くしていた。

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― 新着の感想 ―
なんか2-2盤面で勝手に真狼-真狂って決める人嫌いです(´;ω;`)特に霊本人がやってるのは何か意図があるんじゃないのか、とか色々推察しちゃいそうになりますし。 本人は頑張ってるんでしょうけど、邪魔だ…
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