狼のマーク
ヒトザノス村は、昼の陽光に浴する小さな集落である。木造の集会所には、窓から差し込む光が床を照らし、村人たちのざわめきが響き合う。そこに忍び込んだ狼――彼の名はマーク。老兵の戦士である。皺だらけの顔と白髪の頭は、老いぼれた姿で村人の警戒心を静かに溶かしていた。
だが、老兵とはそれだけ「生き残ってきた」事実を意味する。人々はその鋭い眼差しを見落とし、無自覚に議論を進める。集会所のざわめきが、昼の明るさを背景に熱を帯びていた。
「ちなみに占い師の二人の評価はまだイーブンって感じだわ。」
一人の村人が軽い声で言った。陽光が彼の顔を照らし、無自覚な言葉が集会所に響く。
マークは静かにその村人を一瞥した。皺深い目が、昼の光に鋭く光る。
アイツ……名前、なんじゃったかのぉ……? まぁ『彼』でいいか……
マークの内心は静かに揶揄した。
今は村人たちの中の狼を探す時間じゃなかったのかのぉ……何故、占い師二人の話をするんじゃ……確かに同時平行して考えるのも大事じゃが、流れに沿ってないじゃろう……サラダ食ってるんじゃあるまいし……
マークの鋭い眼差しは、村人の隙を冷たく見抜いていた。昼の陽光が彼の皺深い顔に影を刻み、静かな思案を深める。
『彼』はマークの視線に気付かず、議論を続ける。集会所のざわめきが、村人の無自覚な声を飲み込む。
まぁ、セーフにしてやろう……彼にマルチタスクの能力はないが、マルチタスクで行う議論になれば、ワシの優位じゃ……泳がせてやろうか……
マークは静かに視線を外し、陽光に照らされた顔にわずかな笑みを浮かべた。
「俺はライリーが、少し気になっているかな?」
別の村人、スキャンロンが口を開いた。陽光が彼の顔を淡く照らし、曖昧な声が集会所に響く。
マークは再び目を細め、スキャンロンを一瞥した。皺深い顔に、老兵の鋭さが宿る。
だらしない意見じゃの……アイツはスキャンロンじゃったかな……? 『少し』は必要ないのぉ。ハッキリ気になると言えば良い。疑い合うのは当然じゃ……
『気になっている』……ここもハッキリと言えば良い……『狼と疑っている』で良い……怯えとるのぉ……『かな?』と言っとるのがその証拠じゃ……
マークの内心は冷たく分析し、昼の光が彼の思案を一層鮮明にした。
スキャンロンはマークの視線に気付かず、言葉を続ける。集会所のざわめきが、彼の曖昧な声を包む。
じゃが、セーフ……これくらいは許してやろう……あまりに細かい指摘をすると可哀想じゃからな……
マークは視線をスキャンロンからライリーに移した。陽光が彼の皺深い顔に静かな狡猾さを映す。
「ハハ! おいおい、スキャンロン! 俺の何処が気になるんだよ!?」
ライリーが軽率な笑い声を上げ、陽光に照らされた顔が無防備に揺れた。集会所のざわめきが一瞬高まる。
……アウト。踊るな。
マークの内心が冷たく断じた。昼の陽光が彼の獲物を定める瞬間を際立たせる。
マークが口を開いた。
「君……? 何故、笑った? 彼は本気で考えているのじゃよ。焦っておるのか……?」
彼の声は静かだが、集会所に鋭く響いた。陽光がマークの皺深い顔を照らし、変わらぬ表情に老兵の重みが宿る。
村人たちが一斉にマークに注目した。ざわめきが一瞬止まり、昼の光が集会所を満たす。だが、マークは表情を崩さず、内心で静かに思った。
完璧な動きなど人間に行う事は不可能じゃ……どんな言葉にも小さな穴はある……ただただそれを指摘すればいいだけじゃ……
マークの鋭い眼差しは、陽光に溶け込むように村人たちを見据えた。




