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1話 転移


 ある異世界の大聖堂。


 「――――貴様は人類の裏切り者だ! 皆の者、反逆者、桃葉裕司(ももばゆうじ)を処刑せよ」


 教皇が命ずると二年一組の生徒35名が俺に襲いかかってくる。彼等の手には最高品質の武器。


 死の予感が俺の頭によぎる。


 「や、やめろ……」


 だが誰も俺を殺すのを躊躇おうとはしない。


 「やめてくれ――――――!!」


 絶叫が木霊する。


 如何にしてこうなったのかは、今から数十分前まで遡る。


 ***********


 時は昼休み、俺、桃葉裕司(ももばゆうじ)は学校のトイレにいる。両手には売店から買ってきたパンや弁当をあふれるほど持っていた。そう、これから俺はここで寂しく便所飯を食べる――わけではない。俺は買ってきたパンを全て地面に放り投げすくっと立ち上がるとスマホとイヤホンを取りスボンとパンツを脱ぎ去りしなびたナニを露出する。そう、これから俺はここで用を――足すわけでは当然ない。


 ええと……水無瀬玲奈、レイプ……で検索と……


 俺はお気に入りのポルノ女優が出演している動画を見るべく違法エロサイトにアクセスする。するとあられもない姿を晒す美女が俺の目に映る。直後俺のマグナムがビックマグナムにメガシンカした。


 水無瀬玲奈は俺の最近のお気に入りだった。理由は俺が密かに恋している二年一組の女の子、有原玲花(ありはられいか)にそっくりだったからだ。といっても陰キャの俺には彼女とセックスすることはおろかまともに会話をすることすら叶わない。だから時折彼女の顔を見てムラムラした時に隠れて己を慰めていた。


 (玲花、中に出すぞ、玲花――)


 俺は陵辱される玲奈と恋い焦がれる玲花を重ねながら精をティッシュに放出する。


 「ふぅ、大量、大量……」


 すっきりした俺はおもむろに放り投げたブツから卵サンドとヒレカツサンドを手に取る。ラップを取るとさっきビックマグナムから放出された生命の源をパンに染み込ませる。


 これを見た君! 恐らく君はこう思ったことだろう、何をやっているんだコイツは……キチガイかこいつはと。


 まぁ、キチガイと言われたら正直否定のしようがないが一応言い訳しておくとこれには深い理由がある。


 俺は再度パンをラップにくるむとパンを抱えそそくさと教室まで急ぐ。

 

 二年一組の教室に入ると俺にパンを買ってくるよう命じた連中が俺を睨みつけてきた。


 「おい桃豚、テメェ買ってくんのが遅いんだよ!」


 制服を着崩した生徒、服部(下の名前は忘れた)が俺に向かって言ってくる。


 「ごめんなさい、体調が悪いから少しトイレに行っていて……」


 俺が言うと取り巻きの女生徒の一人が露骨に顔を顰めた。


 「ちょっとキモ豚ぁ、アンタちゃんと手洗ったんでしょうね」


 最早原形を留めていない蔑称で俺を呼んだのはクラスの一軍ギャル崎浜凛子(ざきはまりんこ)だった。


 「うわっ、最悪、早く机に置きなさいよキモ豚菌がうつるでしょうが」

  

 俺に命令したのは金髪のビッチギャル相原唯菜(あいはらゆいな)だった。俺はいそいそとパンを机に置く。


 「そんじゃあ食いますか」


 その言葉を皮切りに取り巻き連中がパンを取っていく。


 「あっ、卵サンドもーらい、凛子はヒレカツだよね」


 「うん、サンキュ」


 やった、やった! あのスケベギャル共、まんまと取りやがった!


 あの二つのパンには桃葉産一番搾りミルクが隠し味としてタップリ練りこんである。あの二人はいつもあれを食べてるからイケると思っていたけどこうも簡単に行くとは――俺は内心でほくそ笑む。


 「あれ、なんか変な味がすんなコレ」


 清楚系ギャル凛子が食べながらボソリと呟く。その言葉に相原も同意している。だが彼女らが真相に辿り着くことはなくそのまま生クリームパンを堪能していた。復讐を達成し満足した俺は持ち前の存在感の薄さを生かしてその場から立ち去ろうとする。直後、出入り口で他の生徒にぶつかり尻もちをついてしまう。


 「ご、ごめんなさい……」


 糞っ、ちゃんと前見とけよな……心の中で毒づきながら俺は顔を上げる。瞬間俺の背筋が恐怖で凍りつく。


 「桃葉か」


 起伏が乏しい声で俺の名を呼んだのは俺がこの学校で一番嫌いな男、一ノ瀬楓(いちのせかえで)だった。


 容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人だ。綺麗な茶髪と中性的な顔、そして180近い高身長と引き締まった身体、おまけに人当たりもよく、あの不良生徒の服部ですら一ノ瀬には一目置いている。


 そしてコイツはその恵まれたハイスペックを生かしてほぼ毎月女の子から告白を受けている(4ねよ)


 それだけでも裏山死刑案件なのだがなによりコイツのムカつくところは俺が恋焦がれる天使様の心を射止めているところだ。俺は隣で心配そうな眼差しを一ノ瀬に向ける女神に視線を映す。


 「大丈夫、一ノ瀬君」


 「うん、大丈夫だよ玲花」


 先程とは打って変わって優しげな声色で一ノ瀬は返事する。


 「そう、よかった」


 柔らかな微笑みを浮かべたのはこの学校、いや俺のマドンナの有原玲花だった。


 腰まで届く艷やかな黒髪、宝石のように大きな瞳、淡く透明な肌、薄桃色の小さな唇、それら全てが完璧な配置、色彩で構成され、有原玲花という存在を形作っていた。


 入学式で出逢い一目惚れして以降、俺は彼女に恋焦がれ続けている。無論彼女と俺とでは身分が違いすぎる。だからこうして遠くから眺めることぐらいしか出来ない。けどそれでもよかった。彼女が誰のものでもない、たった一人の高嶺の花で居てくれるなら――けどそんな儚い願いは一ヶ月前に打ち砕かれた。

 

 「おーおー今日もラブラブだねぇお二人さん」

 

 茶化しながら一ノ瀬の肩を叩いたのは奴の親友の桝山蓮太(ますやまれんた)だった。坊主頭の桝山は野球部に所属しており一ノ瀬ほどではないが女子からの人気を集めている(56したい)


 「おい、蓮太」


 「ちょっと桝山君、皆の前でそういうことは……」


 「ああ、悪い、悪い……」


 白い歯を出し桝山は笑う。俺は俯きながら悔しさから歯ぎしりする。


 そう、一ノ瀬と玲花は一ヶ月前から付き合っている。今では才色兼備のカップルとして学校中から嫉妬と羨望の感情を集めていた。


 三人は談笑を続けている。当然そこに俺の入り込む余地は何処にも存在しない。何故か惨めな気持ちになった俺は逃げるように教室から逃げ出した。


 またこうだ、俺は小、中、高、と常に周りの奴らから爪弾きにされてきた。苛められ、嘲られ、まるでそこに存在しない者のように扱われる。何故いつもこうなるんだ――俺は人通りの少ない廊下の隅で自問自答する。俺がいけ好かない政治家の息子だからか、それともデブでブスだからか――分からない、けど一つだけ確かなのは俺はこの世界に居場所はないということだ。


 現実に打ちひしがれた時、俺は決まって異世界にいく妄想をしていた。


 異世界に行きたい、ハーレムを築いて女とパコリたい――


 いかがわしい想像をしながら俺は異世界に電波を飛ばす。刹那、信じられない超常現象が巻き起こる。


 「な、なんだこれ!?」


 俺の足元に突如発現したのは魔法陣だった。えっ、嘘、まさか本当に異世界に!?


 そう思った瞬間、魔法陣の輝きが一際強くなる。そこからはほんの一瞬の出来事だった。俺の身体が白く塗り潰される。身体だけじゃない、思考や心さえも白に溶けていく。薄れいく意識の中、俺は某漫画の主人公のように心の中で高らかに宣言した。


 ハーレム王に俺はなる、と。


 




 

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