後日談
公爵家にて。
「なぜだ! なぜ魔力が回復しない!」
ネロリアの父である公爵は怒り狂っていた。領地では川の氾濫という災害が起こり、復興のために土の魔術師の支援を国へ要請したが、魔力が回復しないという理由で断られてしまった。
「夜に睡眠を取ると魔力が回復するのは、闇属性の加護だったそうなのです。それを闇精霊の愛し子を邪険にしたばかりに、闇属性の加護が国から失われた。娘を冷遇したあなた方のせいですぞ、公爵殿!」
魔術師団長はそう言って公爵を責め立てた。国中が混乱の只中にある中で、もはや責任の押し付け合いをするぐらいしかできないでいる。
「そんな、ネロリアを冷遇していたせいだというのか? あのように卑しい闇属性の加護を受けた者など、みな見下していたではないか!」
「だから、闇属性は卑しいものではなかったと言っているのです! 人を混乱させたり能力を引き下げたりする陰湿な攻撃魔法は闇属性の一面にすぎなかった。闇属性は鎮静と癒しを司っていたというのが真相です。それを我が国は忘れ去ってしまっていた……」
「そ、そんな……。ネロリア……」
もはや取り返しがつかないことを悟った公爵は、ただ打ちひしがれるしかなかった。
◆◆◆
王城にて。
「ルモアール、なぜネロリア嬢を連れて帰ってこなかった」
「連れて帰れなかったのです! 闇の精霊王に邪魔をされて。その上光の精霊王まで我が国から加護を引き上げると」
「どういうことだ! 我が国は光の精霊を何よりも尊い精霊として下にも置かぬ扱いをしてきたはずだ。それなのになぜ光の精霊の加護まで失うことになる!」
「ち、力の均衡が乱れるとか何とか……」
他の精霊を蔑ろにしてまで光の精霊を尊んできたというのに、そのせいで光の精霊の加護まで失うことになろうとは。王太子ルモアールは想像もしていなかった。
闇の精霊は卑しいと言われ、それを信じきってきたというのに、なぜこうも周囲に責め立てられなければならないのか。周りだって、同じように闇の精霊の愛し子であるネロリアを見下していたではないか。
追い詰められたルモアールはネロリアを恨み始めた。
「ネロリアのせいで……ネロリアさえいなければ……」
ルモアールは、ネロリアを取り戻すべく、ネロリアを召喚し拘束する魔法の準備に取り掛かった。不足している魔術師団の魔力は、魔石を煮込んだスープを無理やり飲ませることで対応する。
そうしてネロリアさえ取り戻せれば、精霊たちの加護も戻るはずだ。ネロリアをこの国に召喚し、そのまま拘束魔法で魂を縛る。そうすればネロリアを愛し子とやらとして扱う精霊王も、ネロリアのためにこの国へ祝福を授けるだろう。
◆◆◆
「む、愛し子に害意を持つ者がおるな」
「ヨアル様?」
「いいや、何でもない。愛し子はゆっくりとしているがいい」
ヨアルはネロリアをぎゅっと抱きしめると、そっとその髪を撫でた。ヨアルのネロリアに対する態度は日に日に甘くなっている。
もとより寿命の短い人間である愛し子をヨアルは失い難く思っていた。
少しでも長く愛し子と共にあるために、万難を排そうと考えるほどに。
ネロリアに害意を持った王太子ルモアールを、ヨアルは遠隔から闇の魔法で包み込む。
意識のみを闇に閉じ込めてしまえば、二度と悪さをすることは出来まい。
ルモアールの意識を暗闇の中へ放り込んだヨアルは、大切なネロリアを抱き上げて寝かしつけた。
闇精霊の森は変わることなく穏やかな日々が続いていく。




