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放課後の、中学校の教室には陽気な笑い声が響いていた。しかし僕の気分はけしてポジティブではなくむしろ、これから何時間ここにいるのだろうと心は真っ黒に染まっていた。
卓也は、空になったペットボトルをグイっと持ち上げ、窓枠の教室に少しかかったところに肘を置いて、こっちをじれったそうに見ていた。
僕が、仕方ないなぁ、あきらめるかといったふうに首を動かすと、卓也は笑ってペットボトルを、開けておいた窓の外から校庭に投げた。
「おい、お前取って来いよ!」教室に、再びどっと歓声。
教諭さえもいなくなってしまい、用務員たちが一人二人、ちらほらと帰っていく校庭。下駄箱にはすでに外履きが置いてある。そういえばこの辺りを走るのは何周目だろう。
あの、首をしゃくるのは、もう何周も走らされて、呆れを通り越したからだった。結局僕はペットボトルを拾わずに帰った。
僕の通学路には踏切がある。遮断機が下りているというのに僕は放心状態でそこに突っ立っていた。
ガタンゴトン、ギイ――
「おい、お前大丈夫か!?」
聞き覚えのある声が僕に向かって飛んできて、僕の命は助かった。
朝のHR。
昨夜の出来事は何だったのだろう。幻覚でも見たのかな。
僕は椅子に座って頬杖をついていた。
「昨日は、危なかったね」
まさしく昨夜聞いた、ふんわりとした声が、黒板にあった。「転校生の優紀です」
優紀は背の高い、やさしい少年で、なおかつ中1の僕らいじめっ子の、救世主だったのである。