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魔術  作者: 春瀬あさ
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民俗学者スワラニのあとがき

 金の女王は、言わずと知れたオールト彗星王の妻である。彼女は、南方の大陸のとある国の王家の出だとされている。


 言い伝えでは、女でありながら兄弟の中で飛び抜けた才覚を現し、王位継承争いの火種になることを恐れた王から国を追放された、とある。女王は自分の財産とシンパたちと共に、ホッカルに辿り着いた。

 

 ヴェリング王国の歴史書に、出奔した王女の話が出てくる。これは十中八九史実であろうとされている。

 時代的にも、ホッカルの民話に金の女王が登場し出す時期と合致している。彗星王を支えてホッカルの統一を実現させた女王は、実在していたのだ。

 

 けれどその伴侶、肝心のホッカル統一王の実在性は、歴史書を調べれば調べるほど怪しくなってくる。

 もはや私は、オールト彗星王とは、それ以前に実在した様々な王や勇者のエピソードを寄せ集めた架空の人物であると確信している。

 

 その中には、金の女王襲来前にホッカルを統一していた者……影の王も含まれていることは確かだ。というか、彼こそがオールト彗星王の原点だろう。

 ところが、ここに妙な捩れが発生する。

 

 金の女王の逸話を調べていくと、「穢れた一族」との宿命的な闘いの話が多く出てくるのだ。

 影の王関連の伝説を丁寧に拾っていけば、この一族が影の王の末裔であるという推測は容易に成り立つ。


 とすると、「金の女王は自分の宿敵を夫に迎えた」というパラドックスが出現してしまうのだ。

 なぜこのような捻れが発生したのか?


 正規の歴史書は、この謎を解く手立てにならない。オールト彗星王周辺の情報は、悉く改竄されているからだ。

 であれば、時代の権力者の手が届かない言い伝えや伝説、昔話に手掛かりを求めるしかない。

 

 各地の民話を採集していくにつれ、私は先祖たちの「真実を、物語の中に隠蔽して言い伝えていこう」という意思を感じるようになった。

 

 街から街へと旅する吟遊詩人、語り部、漂泊者……。顔も知らぬ彼らに、今の私は親近感すら抱いている。 


 その大半が真実を知らずとも、これらの伝説が途絶えることなく語り伝えられてきたのは、彼らがお話それ自体に〝なにかの力〟を感じたからに違いないのだ。

 「アトリと鷹」の旅人が、宿屋で居合わせた学者の語りに惹きつけられたように。

 



 「玉虫色の竜の鱗で不幸な子どもを買いとる、金の女王の話」はホッカル全土で見られる。その代表として、「物乞いの少年」を本書に収録した。

 

 「喪失の剣」は影の王とも金の女王とも直接の関連はないが、この民話が盛んに言い伝えられてきた地域は、影の王の城があったと推測される土地に隣接している。

 あの魔剣が「穢れの巫女」由来のものである可能性は高い。


 この民話に関しては、まだ詳しく調査できていない。いずれにしても並々ならぬ不穏さとリアリティを感じる。追って調査を続けたい。


 「影の王3」と題した伝説には、実ははっきりと影の王の名前は出てこない。しかし、例の洞窟で見つかった古文書と繋げて考えれば、これが誰の末路を語ったものなのかは明白であろう。


 そして、ここで語られる「黒い石」の存在を知っていれば「アトリと鷹」「金の女王」の重要性は自ずと見えてくるのだ。


 

 ……しかしそもそも「穢れの巫女」の託宣、「魔剣」、「軍隊を率いる獅子」、これらの魔術でもないと実現不可能な描写を、どう受けとったらいいのか? 

 なにかの真実を覆い隠すための比喩表現なのか、それとも過去、この島には本当に魔術が存在したのか?


 こんなことを言ったら、学界の笑いものになるだろう。わかっている。この世界には魔術など存在しない。


 ……しかし、もしもどこかであの石が発掘されることがあったら?


 描写からいっておそらく、アンモナイトが埋めこまれているのであろう太古の化石。

 昔の人々には、不思議な魔石に見えたのかもしれない。そこから、あのような伝説が生まれたのだと解釈するのが一般的だろう。


 けれど私は、「穢れの巫女」が産んだというあの石をどうしても探しだしたい。自分の目で確認し、本当に魔力があるのどうか見極めたい……。


 まあ、ひとつのロマンとして、そんな希望を持っていてもいいのではないだろうか。

 一度でもホッカルにきたことがある人ならわかると思うが、この島には本当に超常的な力が存在するのでは? と思わせる、独特な陰鬱さがある。


 

 なお、本書に収めた話には、多数のパターンが存在する。語り口も、もっと簡素にあらすじだけを述べたものから、ミュージカル仕立てに編集されたものまで様々だ。


 より原典に近い語りは、系統ごとに論文にまとめてある。ここでは一般の人が共感しやすいよう、物語仕立てなっているものを選んで収録させてもらった。


 この本を世に出すことで、「影の王」の存在が歴史に埋もれていくのを止められたなら。

 歴代の語り部たちの末席に加えさせてもらえたなら。

 民俗学者として、これほど誇らしいことはない。

 

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