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夢幻の灯火  作者: 辻 信二朗
終章 夢幻に芽吹く

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第八十二話 後来

 大学受験のことをアイに話すと、「フィヨルディアで遊んでいないで勉強をしなさい」と叱られてしまった。温厚なアイが、珍しく真剣な眼差しを見せていた。


 仕方なく、僕はしばらくの間フィヨルディアへ行くことを我慢した。一年間にも上る学業のブランクを取り戻すことは容易でなかったが、アイの期待には応えたかった。ログインを控えた結果が不合格では、アイに合わす顔がない。大手を振ってフィヨルディアで遊ぶためにも、僕は受験勉強に集中することにした。


 その甲斐あって、僕は志望大学に合格することができた。仲間達に合格の報告をすると、皆が盛大に喜んでくれた。


 そして合格報告から一週間後、少女達は合格祝いの祝宴を催してくれた。

 霊峰イスカルドの中腹にあるセツナの別荘に呼ばれると、そこにはなんとルイエ、アレク、スニル、ウグレ、イアンの五人もサプライズで招宴されていた。


 僕のために皆が腕を振るい、豪華な手料理をご馳走してくれた。

 現実世界ではこういった集いが苦手だったが、フィヨルディアの仲間達となら時が経つのを忘れるほどに楽しかった。集会は夜明けまで続き、翌日の授業に遅刻してしまったことについてはアイに内緒である。


 毎日が楽しく、幸せな日々が続いていた。

 大学に入学しても尚、僕はフィヨルディアに入り浸っていた。僕にとっては、やはり現実世界よりもフィヨルディアのほうが落ち着く空間であるようだ。


 見るに見兼ねたアイは、僕に大学生活を充実させるよう勧めた。僕に現実世界の友達がいないことを心配して、気を遣わせてしまったようだ。


 コミュニケーション能力の乏しい僕は、大学で友達を作ることに苦心した。

 仮想世界とは異なり、戦いで仲間を作る方法など現実では通じないのだから。


 その苦労話や失敗談を、僕は毎日のように仲間達に聞かせていた。

 アイとホムラは真剣にアドバイスをしてくれたが、フウカとライハとセツナは笑って茶化してくるばかりであった。


    ◇


 五限目の終わりを告げるチャイムを聞くや否や、僕は急いで大学を出た。

 講義の後に決まって行われる教授の長話に興味はない。学校が終わると、いつも寄り道をすることなく家路に就いている。


 帰宅すると真っ先に浴室へ直行し、シャワーを浴びた後に軽く食事を取る。

 流れるような動きで一通りの生活習慣を終えると、迷うことなく慣れた手捌きでゲームを起動させ、滑るようにベッドの中へと潜り込んだ。

 左耳に装着された転送機ラズハが緑色に点灯し、次第に熱を帯びていく。


 向かう先は夢幻の理想郷。地球儀にも載っていない、僕だけの秘密基地。


 強く、気高く、素朴で心優しい。でも時には、小憎らしいほどに我儘で不器用。

 そんな最高の友達に、僕は会いに行くことができる。


 次元を越えて、いつだって――。

【後書き】

最後までご精読ありがとうございました。楽しんで頂けましたら評価やご感想を頂けると嬉しいです。ひとまず【第一巻】の物語は終幕となりますが、まだまだ《夢幻の灯火》は続いていく所存です。書籍化を目指していますので、応援いただけると幸いです。


次のページから【第二巻】が始まります。

引き続きお付き合いください。

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