第七十二話 怖気
「ギイイイイ……」
煌凰は怯えていた。正確に、そして執拗に斬撃を当ててくるホムラに。
「虚構の身体に痛覚を宿らせるなんて、製作者の厭らしさには反吐が出ますね。煌凰よ、わたくしの声が聞こえますか? 死ねないというのも辛いでしょう。わたくしもあなたと同じです。《不死》とは完全無欠ではなく、むしろ呪いに近い。本来は一度しか体験できない死の苦しみを何度も味わうことになるのですから」
煌凰はホムラが放つ正確な反撃を恐れて、大技を使わなくなっていた。
煌凰はホムラを追い払うように火球を撒き散らせたが、その魔術には照準が合っておらず苦し紛れの攻撃であることが見て取れる。
ホムラは焦ることなく火球を躱し、街の方角に飛ぶ火球のみを撃ち落とした。
「わたくしは己が《不死》であることに感謝しています。お陰で何度でも仲間を護ることができますから。あなたは友のために身を焦がす覚悟をお持ちですか?」
ホムラは煌凰の攻撃に合わせて少しずつ攻撃を積み重ねていく。既にホムラは盤面を支配しており、煌凰はその恐怖に気圧されて逃げ回っている。
「わたくしは仲間のためならば、どんな痛みにも屈しません。幾度殺されようとも、仲間を脅かす者を打ち滅ぼすまで何度でも立ち上がります」
身体に刻まれた無数の傷を意にも介さず、ホムラは煌凰を攻め立てた。痛みはあるが、そうと感じさせないホムラの振る舞いが煌凰の心に畏怖の念を打ち込んでいる。敵を殺すことのみに執着するその姿は、まさに不死身の活性死者だ。
煌凰は逃げるように距離を取ったが、飛行速度が大幅に落ちている。
ホムラは煌凰の動きを容易く捉えて背後を取り、弱点である背中に深い創痍を刻んだ。地表に突き落とされた煌凰の流血は既に致死量に達している。
それでもホムラの攻撃は止まらない。動かない不死鳥の四肢を切断し、薙刀の刀身を煌凰の心臓に突き刺した。刃をグリグリと食い込ませて傷口を広げていく。
「まだ生きているでしょう? 身体を貫く刃物の感触は如何ですか? 痛いですよね。わたくしも身体を切断されたことがありますから、よく知っています」
突き刺した薙刀を無慈悲に引き抜き、ホムラは煌凰の首を薙刀の峰で撫でた。
「次にわたくしの仲間を脅かせば容赦しません。拘束した上で何度もあなたを殺します。いいですね? わかればここを去りなさい。霊峰ソルベルクの山頂から一歩も動かないことです。破ったらどうなるか理解しましたか?」
ホムラは友達のためとあらば幾らでも残酷になれる。こうして仲間が傷付けられたことに対して、静淑ながらも声が少し震えてしまうほどに激怒している。
ホムラの威喝に怯え、煌凰はその場で頽れた。《不死》故に煌凰はまだ生きているが、恐怖のあまり身体を震わせて動かない。煌凰の敵愾心はとうに失せており、己が《不死》であることを嘆くように嘴を噛み締めて血を垂れ流している。
ホムラは勝ったが無傷ではなく、身体中に刻まれた傷が痛んでいた。
「倒れるわけにはいかない……。エイタ様……皆様……どうかご無事で……」
ホムラは翼を広げ、痛む身体を押さえながらアルンに向かって飛び立った。




