第六十七話 劫火
燃え盛る翼で華麗に空を舞い、命をぶつけ合う不死鳥が二体。煌凰の戦闘は四天獣の中で最高峰の規模を誇り、その模様を見た者は等しく死を迎えるという。
煌凰の嘴とホムラの薙刀――両者の巨大な斬撃が激しく火花を散らせた。それぞれが食らえば瀕死は免れない凶器であるにも拘わらず、互いに引き下がることなく急所を狙い続けている。更には斬り合いの中で炎の乱舞を踊り続け、斬撃の応酬と共に互いの身体を焦がしていく。
ホムラの心理状態は安定を欠き、荒れ狂う怒りの大波に呑まれていた。同じく死闘に臨む友達のことが心配で堪らないのだ。同胞の実力に疑いの余地はないが、今回はあまりにも敵が強すぎる。この戦いは近しい階級で組まれた興行などではなく、争いにすらならないほどレベルがかけ離れた対戦カードであるのだから。
フィヨルディアを生み出した神凪が、逆賊ともいえる四天獣を放置する意味をホムラは理解していた。悲しいかな自身の存在意義とは、強者が弱者を踏み躙る様を神凪が楽しむために生かされている供物でしかないのだと――。
それに他の仲間とホムラでは、この見世物に臨む心境がまるで違う。死んでも生き返るホムラとは異なり、仲間は二度と生き返ることができないのだから。
戦闘による死に対する恐怖の感覚は、製作者の手で消滅させられるのとはわけが違う。己の身体が刃に裂かれ、魔術に焼かれ、肉体の原型を維持できないほどの苦痛を受けた後に命を散らせることとなるのだ。数度に渡る死を経験したホムラならまだしも、死に至る痛みとは常人には耐え難いほどの激痛である。
仲間を助けに行きたいと切に願うホムラだが、襲い来る煌凰を斃さなければ道は開かれない。
ホムラは不撓の決意で戦いに臨み、自身が《不死》であることを考慮した戦術を実行した。己が感じる痛みを完全に度外視して、敵に攻撃を加えることを重視した超攻撃的な戦法だ。煌凰を相手に真っ向から打ち合い、臆することなく勝負を仕掛けていく。激情に駆られるその形相は、修羅さながらに燃え滾っている。
しかしそれでも、暴れ狂う煌凰を怯ませるには至らない。ホムラは仕方なく、煌凰の突進を弾いた勢いを利用して少し距離を取った。
「はぁ……はぁ……やはり、一筋縄ではいきませんね……」
周囲の草木は煤けてなくなり、地表からは炎が立ち上がっている。
「ギイイイイ!」
煌凰は咆哮と共に力を溜めている。これは豪炎の息吹の前兆だ。
煌凰の放つ特級魔術の爆炎にアルンを巻き込むわけにはいかない。ホムラは自身の立ち位置を調整し、煌凰の爆撃範囲からアルンを除かせた。
以前の戦いとは違い、陽動をしてくれる仲間はここにいない。致命傷を避けつつ、自らの手で弱点への攻撃を加えなければならない。
しかしどれだけ厳しい戦いが待ち受けていようとも、ホムラの心が折れることはない。勝てるか否かの心配に意味はなく、勝たなければならないのだから。
ホムラがやるべきことは一つに絞られている。自身に与えられた役割を全うし、目の前の化物を亡き者にするだけだ。
「我慢比べですね……いいでしょう。残念ながら、わたくしの得意分野です」




