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夢幻の灯火  作者: 辻 信二朗
第七章 荒れ狂う幻想の大地

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第六十五話 業風

 アルンの西門の前へ転送されたフウカは胸に手を当てていた。峻厳な戦いを前にして鼓動の高鳴りを感じる。己に課せられた勝利への重圧。これから始まるのは、全てのAIが正当な権利を得るための聖戦だ。絶対に敗北は許されない。


 フウカが心を落ち着かせていると、目の前に緑色の魔法陣が出現した。

 やはり、エイタの推測は間違っていなかったようだ。これから殺し合う相手は己を映す鏡であり、敵もまたフウカと同様の異能を有している。


 巻き上がる風と共に姿を現したのは、白銀の鎧を身に纏う巨大な猛虎。その神々しい姿はまさに神獣であり、筋骨に恵まれた腕は巨木の幹のようだ。その瞳には感情が一切感じられず、漲る殺気がフウカの肌を突き刺している。


「お前があたしの過去の姿か……。颱虎、ここは命に代えても通さねぇ!」

「……グルルルル」


 心臓を握られるような低い唸り声。無意識に身体が硬直し、呼吸の仕方がわからなくなってしまう。フウカが魔獣の声で恐怖したのは初めての経験であった。


 颱虎はじっとフウカを熟視している。その眼は獲物を狙う獣のそれであった。


「――!?」


 フウカはその場で急に足をもつれさせ、バランスを崩して尻餅をいてしまった。

 空間を覆う気流の変化に耐えられなかったのだ。その気流の正体は、フウカの実力を試すように颱虎から発せられた微風による斥力である。


 恐怖に気圧けおされたわけではないと己を奮い立たせ、フウカは立ち上がって追撃に備えた。恐れてはいけない。勝つには精神を研ぎ澄ませなければならない。


 緊張を落ち着かせるフウカを尻目に、颱虎は一気に魔力を解放していた。

 中級魔術《天竜巻てんりゅうかん》――激しい地鳴りと共に、荒れ狂う竜巻が四方八方から押し寄せてくる。瓢風ひょうふうが放つ異次元なまでの猛威は、フウカが起こせる竜巻とは圧倒的に規模が異なるものだった。

 灌木かんぼくぎ倒され、小屋や風車といった配置物が軒並み吹き飛ばされていく。


 巻き込まれれば死ぬと直感したフウカは、空を蹴って上空へ飛翔した。

 間一髪で竜巻を躱すことに成功したが、颱虎はフウカの更に上空へ飛び上がっていた。上空から襲い来る颱虎の拳を受け、フウカは地面に叩きつけられる。


「くそっ! なんて速さだ!」


 痛みを堪えてすぐさま上空を見上げると、颱虎は既に眼前にまで迫っていた。


「――くっ!」


 構うことなく颱虎の攻撃は続き、つくばうフウカに向かって隕石のような拳が振り下ろされる。颱虎は下級魔術《風裂拳》を発動しているようだが、過剰な強化だと言えるだろう。颱虎の腕力を以てすれば、拳を纏う風の刃など意味を為さない。

 どれだけの防御を固めようとも、腕ごと貫通して圧し潰されてしまうのだから。


 フウカは身体を横転させることで拳撃を躱すことができたが、すぐには立ち上がることができなかった。地表が振動し、上手く平衡を保つことができない。


 颱虎の拳撃は地表に巨大な穴を穿うがち、あろうことか大地を震わせたのだ。


「なんだよ……これ……どうやって倒すんだよ……」

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