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夢幻の灯火  作者: 辻 信二朗
第六章 アルン城の機密

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第五十五話 共有

 緊急に備えて待機していた二人と合流し、僕達は情報を共有すべくイアンの家へと戻った。


「イアン様、セツナちゃんを看てくださってありがとうございます」

「いえいえ、お気になさらず」


 セツナは調子を取り戻したようで、一階に降りてスープをすすっている。


 ライハはギルドで食べたステーキが気に入ったらしく、彼女の意向で人数分のステーキ弁当を購入していた。イアンの分も買っていることを考えると、ライハは意外に義理堅いようだ。当然ながら、弁当代の支払いは全て僕であるのだが。


 皆が空腹の限界だったようで、少女達は幸せそうに舌鼓したづつみを打った。

 実はアジールで食事をして以降、全員が何も食べていなかったのだ。


「ライハ、これ美味しいな。今まで食べた料理で一番美味いかも」

「ライハちゃん、ありがとうございます。《不死》でも空腹には勝てませんね」

「ちょうどお腹が空いていたところだわ。ありがとう」


 僕はギルドでコーヒーしか飲まなかったので、今更ながら空腹を感じるようになってきた。自分の弁当も買っておけばよかったと悔やんだが、後の祭りだ。


「アイもお腹を空かせておるじゃろうに……食べさせてあげたいのう……」


 ライハの視線の先には、アイのために購入したステーキ弁当があった。

 袋に詰められたまま、寂しげに机の上に置かれている。アイがここにいないことはわかっていたことだが、ライハはわざわざ札から弁当を具現化させていた。


 アイと一緒に食べたかったのだろうと、僕はライハの心情を察した。


    ◇


 食事が落ち着いてきたところで、僕はスニルから聞いた話を皆に共有した。

 話を聞いた一同の表情は、状況の厳しさを物語っていた。


「あのクエストは、やはり神凪の差し金だったのですね……」

「ではなんとしても、宝玉を護る必要があるわね。宝玉を二つ以上破壊されては、アルンの陥落は免れないわ。あんな化物を同時に二体も相手にできないわよ」


 煌凰の強さは凄まじく、五人でやっと戦える強さだった。同様の化物が更に二体も出現し、戦力を分散させられてはアルンを護り切ることはできないだろう。


「まずは宝玉を破壊されないよう手を打つ必要がある。フウカ、ライハ、ホムラ、セツナ、霊峰の天候や魔獣を操れるなら、登頂難度を上げることも可能か? よく考えると、既に配置された上級魔獣一体では心許ない。守護者を倒さずとも、そいつの気を引けば宝玉は破壊できるだろうからな」


 僕の問いに、四天獣の少女達は考え込んでいた。

 そして、真っ先に返答したのはセツナだった。


「結論を言えば可能よ。でも天候を操作することで命を落とす者が続出する可能性があるわ。吹雪で視界を遮れば、簡単にクレバスに落ちちゃうもの……」

「……なるほど……」


 登山者を殺さずに帰すのはなかなか難しいようだ。登頂の難度を上げることは、それだけ死の危険が跳ね上がることになるのだから。

 四つの霊峰の踏破は現状でもかなり難しい。いくらNPCが知恵をつけたとしても宝玉まで辿り着くことは容易ではないだろう。


 だがそれでも万が一を考えると手を抜くことはできない。

 その油断が世界の破滅を招いてしまうのだから。宝玉の守護者として彼女達を山頂に配置したいが、アイの救出、それから打倒神凪には四天獣の力が必要となる。

 少女達を山頂に拘束させることなく、宝玉を護る方法を考える必要があった。


 一同が思考を巡らせる中、フウカがあっさりと答えを導き出した。


「ロルヴィスの奥地で見た崖のように、登山者の行く手を阻めばいいんだろう? それなら簡単だぜ。大量の魔獣で追っ払っちまえばいいんだ。クエスト報酬に目が眩んでも、決死の覚悟で魔獣に挑む馬鹿はいないだろう?」

「……ふむ、確かにそうじゃな。それが一番の良案であろう」


 フウカの発案に皆が賛意を示した。攻撃を受けずとも魔獣に囲まれることがあれば、確かに登山者は逃げ出すことになるだろう。わざわざ宝玉の目の前に守護者を配置しなくても、入口に魔獣を固めればそれで充分なのだから。


 フウカを称賛するように、少女達は一斉に彼女を撫で始めた。照れを隠して撫でる手を払うフウカだが、無意識に顕現した尻尾がくねくねと踊っている。


「フウカの案で決まりね。霊峰の入口に魔獣を集めておくわ。なかなか圧巻よ」

「あたしも登る気が失せるぐらいに魔獣を集めてやるぜ!」

「皆様、登山者への攻撃は最小限にと指示してあげてくださいね」

「勿論じゃ。上空が魔獣で埋め尽くされれば、否が応でも引き返すじゃろうがな」


 皆、心強いことを言ってくれる。霊峰のあるじとして、おのが牙城に手を加えることを楽しんでいるようにも見える。頼もしい限りだ。


「皆、頼んだぞ。俺はアルンで情報を集めてみる」

「エイタ様もお気を付けて。決して単独でアルン城に乗り込もうとしないでくださいね。何か困難がありましたら、わたくし達を頼ってください」

「ああ、わかっているよ。ありがとう」


 フウカの異能《転送》は、自身以外にも使うことができる。フウカが各人の足元に緑色の魔法陣を発生させ、それぞれの目的地へ飛ばしていった。


「よし、俺も行くか」


 僕はイアンにお礼を言って、外套のフードを被った。

 外へ出ると夜が明けており、小鳥の鳴き声が聞こえてきた。

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