表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻の灯火  作者: 辻 信二朗
第六章 アルン城の機密

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/84

第五十三話 依頼

 アルン南東のスラム街。僕は少女達を連れて細い裏通りを歩いていた。

 ここなら人通りが少なく、通報される危険性は低い。


 人目を避けつつ歩き、僕はある二階建ての建物の前で足を止めた。以前にここから狙撃されそうになった出来事が記憶に新しい。


 戸を叩くと、眠そうに目を擦る男性が姿を現した。


「……はいはい、どちらさんですか?」

「イアン、こんばんは。急に訪ねてすまない。ちょっといいか?」

「あなたは……エイタさん。それから………………えぇ!?」


 僕の背後には、四つの小さな人影が顔を出している。

 イアンは四天獣の少女達に驚いて、大きく一歩後退りをした。


「驚かせてごめん。彼女達は敵ではないよ。イアン、話を聞いてほしい」

「……エイタさん、あまり驚かせないでくれ。殺されるかと思ったよ。こんなあばら屋でよければ、入ってくれて構わない」

「ありがとう。イアンには協力を頼みたい」


 イアンに促され、僕は仲間と共に玄関の敷居(しきい)(また)いだ。

 ここは情報屋の事務所として使われているようで、一階は事務室、二階にはベッドが並べられ、ウグレもここに住んでいたらしい。


 ひとまずセツナを二階で寝かせ、一階の事務室でイアンに協力を仰いだ。

 煌凰との戦闘で傷を負ったのはセツナだけではない。四天獣の少女達は温かいスープを啜りながら、身を寄せ合って身体を休めている。


 僕はイアンに全ての情報を伝達した。現実世界のこと、フィヨルディアのこと、神凪の事業、アルン城の機密、これからの行動指針などを――。イアンは驚いた様子を見せたが、事態を受け止めたようだ。ウグレと同様に理解が早い。


「この世界にそんな秘密があったなんて……。俄には信じ難いが、ウグレさんも常日頃からこの世界の異常性を指摘していたんだ。信じるよ、エイタさん。この世界を救ってくれ」

「ああ、任せてくれ。俺はそのためにフィヨルディアにいる」


 イアンは、僕達に協力をする姿勢を見せてくれた。


 だが他者との接触に際して、僕達は慎重を期す必要がある。

 通報をされれば僕達の計画は潰え、フィヨルディアに安息の未来は訪れない。ゲームとはいえチャンスは一度きり。失敗は許されないのだ。


 念には念を入れて、ライハには異能《読心》を発動させるよう頼んである。ライハから指摘が入らない以上、イアンは完全に信用できると確信した。


「俺が街で情報を集める間、セツナを匿ってほしい。彼女には休息が必要なんだ」

「わかった。この屋敷を君達の活動拠点として使ってくれ。俺は一階で寝るから、二階を自由に使ってくれて構わない。俺にできることがあれば何でも力になるよ」

「恩に着る。ありがとう。本当に助かった」


 イアンは快く引き受けてくれた。イアンは裏表のない笑顔で親指を立てている。


 アルン城の潜入には、セツナの異能がないと話にならない。

 イアンの協力のお陰で、セツナを休息させられることはありがたい。神凪は力押しで勝てる相手ではなく、こうした協力者の存在が何よりの助けとなるのだ。


 イアンの心を覗き見たライハは、彼への警戒心を解いていた。


「イアンよ、温かいスープをもう一杯寄越すのじゃ」

「ああ、幾らでも飲んでくれ」


 イアンは空の器をライハから受け取り、台所の鍋から煮立ったスープを注いだ。

 ライハに続いて、フウカとホムラもスープを受け取っている。


「おっさん、ありがとよ」

「イアン様、ありがとうございます」


 とりあえず少女達を休ませることができて、僕はホッとしていた。

 そして僕は、次に取るべき行動について考えていた。


「フウカ、ライハ、ホムラ、ここで待っていてくれ。俺は独りでギルドへ行く。情報収集、それからクエストの破棄を受付のスニルに依頼するよ」


 少女達はスープを飲む手を止め、僕に視線を集めた。


「お独りで……行かれるのですか……?」

「これだけの人数では目立ってしまうだろう? 俺なら大丈夫だ」


 僕の考えを聞いても、少女達は納得がいかないようだった。

 ライハはスープの器を置き、手首の関節を鳴らしている。


「馬鹿者、お主独りで何ができようか。余も連れて行け。異能《読心》は役に立つじゃろう」

「エイタだけじゃ不安だぜ。あたしがいなきゃな!」

「わたくしもお供をいたします!」


 少女達は立ち上がり、やる気を漲らせていた。

 僕の話を聞く気がないのか、気合だけで献言けんげんを押し通そうとしている。


「いや、だから目立つって言っているだろう? こんな大勢では隠密など無理だ」

「そう……ですよね……」


 僕の主張に異論が出て来ない少女達は、しゅんと肩を落としている。


 その様子を見て、イアンはクローゼットから何かを取り出していた。

 黒い布地の物体を机の上に並べ、自慢するように目尻を吊り上げている。


「これは……上着か?」

「ああ。外出にはこの外套を使うといい。見た目は少し怪しいけれど、今の恰好よりは目立たないはずだ。これで仲間も一緒に出歩けるだろう?」

「用意がいいな。これは使えるぞ!」


 イアンがクローゼットから取り出したのは、大きめのフードがついた外套がいとうだった。人数分の用意があり、これでセツナを置いて探索ができそうだ。


「良い物を持っておるのう。これなら正体に気付かれることはなさそうじゃ」

「でも、これはあたしらには丈が長いな」


 少女達は外套を羽織ったが、裾が地面についてしまっている。まるで子どもが父親の服を間違えて着た時のように、明らかにサイズが合っていない。


「裾直しをしよう。こう見えて裁縫は得意だ」

「何から何まですまない。助かるよ」

「俺にとって、あなた方は救世主だからな。ウグレさんも同じことをするだろう」


 イアンは慣れた手付きで裾直しを始めた。

 ホムラも針と糸を借り、見様見真似で裾直しを手伝っている。


 裾直しの間、フウカと僕は作戦を練っていた。


「上着を着ても、この人数は少し目立つな。エイタ、二人一組で別れるか?」

「そうだな。俺とライハで冒険者ギルドへ行く。ホムラとフウカは、少し離れてついてきてくれ。何かあれば合図をする」

「わかった。二人とも頼んだぜ」


 ライハの異能《読心》は潜入で役に立つ。アルンの住人から情報を得る場合でも、敵味方の判別ができるからだ。


 話している内に、少女達の身体に合わせた外套が完成していた。


「はい、どうぞ。これを使ってくれ」

「ありがとう。イアン、セツナを頼んだ」

「はい、お気を付けて。無茶はしないでください」


 イアンに貰った外套は闇に紛れる黒色。これで目立たずに行動ができそうだ。


 裾直しをしてもサイズが大きいことに変わりはなく、少女達は見習い魔女のような恰好となった。可愛らしいその姿は、まるでハロウィンでお菓子を貰いに行く子どものようだ。逆に目立つような気もするが、大丈夫だろうか。


「エイタ様、ライハちゃん、お気を付けて。わたくしはフウカちゃんと共に後を追って参りますので、火急の際は知らせてください」

「ああ、頼りにしている」

「うむ、よろしくの」


 イアンの家を出る直前、僕は窓に映る自身の姿を見た。外套を羽織る姿は様になっていて、現実とはかけ離れたことしている実感が湧いてきた。

 バサッと外套をはためかせてみると、まるでスパイや怪盗にでもなった気分だ。


 そういった僕の挙動を見ていたフウカは、腹を抱えて笑いを堪えている。


「エイタ、そのコート……よく似合ってんぞ」

「う、嬉しくねぇよ!」


 セツナをイアンの家に置いて、僕達は夜のアルンに繰り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ