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夢幻の灯火  作者: 辻 信二朗
第六章 アルン城の機密

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第四十八話 要求

 声の主の牢屋に辿り着き、僕はその姿を目に映した。

 やはり、そこに囚われていたのは情報屋のウグレだった。

 白い布を張り合わせたような服装は、まるで中東の民族衣装。頭にはターバンを被り、口周りの髭が怪しさを醸し出している。盗賊のような恰好は相変わらずだ。


「ウグレ!」

「エイタ、会話をするのは初めてだな。俺は嬉しいぜ」


 アイと同じく一方通行だったウグレとの接触だったが、こうして会話ができていることに感動した。以前とは違って、ウグレの声にも抑揚がある。


「どうしてここに? 俺を助けに来たわけではないだろう?」

「イアンから事情は聞いている。俺を庇ってくれたんだな。君を助けに来た」

「いや、ここを出るのはまずい。看守が定期的に巡回している。脱走は隠せない」

「脱走が気付かれて、何か問題があるのか?」


 会話の最中に、セツナが音もなく自身に施していた《霊化》を解いた。

 するとウグレは僕の背後にいる青髪の少女に気が付き、瞠目どうもくして驚声を上げた。


「――ってうわ! そこにいるのは幽亀セツナじゃないか! エイタ、まさかお前……本当に大魔王になっちまったのか!?」

「――しっ!!」


 僕は、驚き喚くウグレを急いで手振りで制止した。


 遠くからコツコツと足音が聞こえてくる。看守の巡回だ。僕とセツナは《霊化》により姿を隠し、檻の格子を擦り抜けてウグレの牢屋に入った。


「…………」


 少しして、看守がウグレの牢の前に立った。

 その者は街を徘徊している黒の番兵と同様の姿だ。捕らえた住人に威圧感を与えるためなのか、看守らしく物々しい甲冑かっちゅうに身を包んでいる。


 看守はウグレを見詰め、帳簿に何かを記入して去っていった。ウグレの牢を過ぎた後も、看守は囚人一人一人の顔を確認しているようだった。


「何を確認しているんだろうか……」

「何かマルとかバツとかを書いていたわ。体調のチェックかしら」

「それより状況を説明してくれ。君が四天獣と共にいる理由はなんだ?」

「それは……」


 ウグレの疑問はもっともだ。不可解な状況に混乱していることだろう。

 どこまでを話してよいのか、急いで情報の選択を脳内で試みた。そして話せないことは何一つないとわかったので、全てをウグレにさらけ出すことにした。


    ◇


 僕はこれまでの経緯と世界の成り立ちまで、全てを詳しくウグレに話した。

 僕が異世界から来たこと、AIが進化したこと、創造されたこの世界がAIの狩場であること、そして、それを阻止するために僕達が動いていることを――。


 僕の話を聞いて、彼は疑うでもなく納得した様子だった。


「なるほどな……あらかた合点がいったぜ。アルン王に同じことを言われたんだ。消えるか、働くか選べってな。ここを出ようものなら、俺は消されることだろう。それに実を言うと、俺は一度王様に殺されたんだ。刀でぶっ刺されたかと思うと、気が付けばこの牢屋の中にいたんだよ」

「理解が早いな、ウグレ。それに、一度殺されていたのか。傷はないか?」

「刺された時は血だらけで苦しかったが、牢屋に着いた時には痛みもなく傷は治っていた。それからずっと牢屋に放置されていたんだぜ? 扱いが酷くねぇか?」

「それは酷いな……。よく生きられたものだ……」


 死したプレイヤーが教会に転送されるように、NPCはこの牢獄に転送される仕組みになっているようだ。死が消滅に直結しないと知られてホッとしたが、行き先が地獄であることに変わりはない。捕らえられた者は二度と表を歩けず、存在を削除されるか奴隷となるかの二つに一つなのだから。


 それから、わかったことがある。アルン城の立派な城郭を見て疑惧(ぎぐ)していたことだが、アルン王は恐らく神凪本人だと考えられる。

 奴はアルンの王として、住民を監視していたのだ。フィヨルディアを始めてから八年もの間、僕の動向も筒抜けだったことだろう。


「ところで黒の番兵はいつ、どこから現れた?」

「昨日だな。アルン城からぞろぞろと出てくるなり街中に配置され、誰かを探しているようだった。会う度に顔をジロジロと見られて、時には身分を明かせと高圧的に言ってくる。この牢獄に捕らえられている者は王様に文句を言った者達だろう」

「そんなことがあったのか……。ウグレが捕まったのは、俺の討伐クエストに抗議をするためだろう? どうして……?」


 ウグレは僕の目を見詰めて、小さく笑った。


「君は四天獣を倒すために、俺を情報屋として頼ってくれていたじゃないか。そんな男が悪に加担するはずがない。……まぁ実際は本当に四天獣と手を組んでいたわけだが、意図が本来と違うんだよな? アルンを滅ぼそうなんて、これっぽっちも考えていないだろう?」

「当然だ。四天獣と手を組んでいるのは、アルン王の謀略を阻止するためだ。……まぁ、当初は冒険のお供だったけれど……」


 四天獣がいなければ、神凪との戦いに勝つことは絶対にできない。結果として、四天獣は重要な戦力であり仲間となった。


 しかし、アルンの民は四天獣を諸悪の根源だと認識している。

 アイやウグレのように腹を割って話せる間柄でもなければ、少女達に対する憎しみを取り払うことは不可能だろう。


「俺はもうおしまいだ……。二度とここを出られない……」

「そう言うな。俺は皆を解放する方法を考える」


「…………」


 重い空気が漂う中、セツナが震えて俯くウグレの顎を指で持ち上げた。

 セツナは、ウグレの目を射止めるようにじっと見詰めている。


「な、なんだよ……?」

「ウグレといったかしら? エイタの言うことを信じて。彼は絶対に成し遂げるわ。……ええとそれから、情報屋の腕を見込んで、あなたに頼みがあるの。人民を解放し、アルン王の企みを食い止めた暁には……」


 セツナは照れ臭そうに言葉を溜めた。


「……あ、暁には、四天獣を勝利の女神として祭り上げなさい。情報屋として、それぐらいはできるでしょう?」

「…………へっ?」


 思わぬ要求に、僕とウグレは呆気に取られていた。


「へぇ、驚いた。セツナにも承認欲求があるのか」

「違うわよ。せっかく世界が平和になっても、山に籠らされて命を狙われる生活はもう嫌なのよ。誰彼構わずに襲われる者の気持ちを考えたことがあるの?」

「そうだな。神凪を倒した後は、四天獣の皆にも幸せになってもらわなければ」


 四天獣が悪役なのは設定上の話であり、今や過去の遺物だ。少女セツナには不名誉でしかない。セツナも本当に変わったなと、僕はしみじみ思いを馳せていた。


「私は平穏な生活を送りたいの。アルンで一軒家を買うからね。アルン城の隣に建てようかしら。いや、アルン城を乗っ取るほうがいいかしら」

「アルン城を乗っ取れば、また追われる日々になるだろうな……」


 セツナの望みを叶えてやりたいと僕は強く願った。四天獣の少女達が平和に暮らせる世界を手に入れるためにも、神凪を止める方法を考えなければならない。牢屋に囚われた者を解放するためにも、絶対に負けるわけにはいかない。


 ウグレは拳を胸に打ち付け、セツナの要望を承諾した。


「セツナさん、任せてください! 情報屋としてその役を果たしてみせます!」

「良い子ね。頑張りなさい」


 周囲のいくつかの牢の中で、僕達を応援する言葉が聞こえてきた。看守に気付かれないように皆小声だったが、僕はしっかりとその鼓舞を受け取った。


「……じゃあ、私は行くからね」


 セツナは軽い足取りで、牢から離れていった。


「ま、待て、セツナ! 俺も《霊化》してもらわないと出られない!」

「エイタは私がいないと何もできないのね。困った大魔王様ですこと」

「……いいから早く牢から出してくれ」


 こんな悪戯いたずらっ子が、勝利の女神なんて似合わない。だがそれを伝えると本当に置いて行かれそうなので、僕は我慢して口をつぐんだ。

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